ーー現れた手がかり、深まる謎と自身の力ーー


































































アレンが幽閉されて数日が経った。
科学一班がルベリエに直訴し、怪我を増やしているのも続いている。

(「はぁ〜、アレンがノアの術にかかったときの状況とか聞きたいんだけどなぁ・・・」)

一人、廊下を歩いていた は溜め息をついた。
しかしそれは叶わない。
アレンへの面会は中央庁の、ルベリエの許可を得た者しか認められていない。
一研究員となった今の ではどうしようもないのだ。
祖父のコネクションを使えば会えない事もないが、今の立場で面会が認められれば逆に怪しまれる。

(「忍び込もうにも、きっと鴉がいるだろうし。穏便に済ませられる自信はないわねぇ・・・」)

何より、あいつらの事は好きじゃないし。
と思っていた時だった。

ーードクンーー
「!」

まただ、また心臓が跳ねた。最近は頻繁すぎる。
一体なんだ?まるで赤ん坊の産声を聞いたような、ひどく嬉しい感情が溢れ出す。

「・・・あっちから・・・」

誘われるように、 は歩き出した。



































































ーードカアァァァンッ!ーー

突如、響いてきた爆音に は走り出した。
そこはアレンが幽閉されている牢獄。そしてその前には、見張りだろう男達が皆倒れていた。

(「中央庁の衛兵、それに鴉まで・・・!」)

息はある。だが、目から生えているのは羽根か?どうしてこんなものが・・・
一体、何が起こっているんだ、と思った時だった。

ーーガシャアァァンッ!ーー
「!」

立て続く荒事の音に、 は迷わず部屋に飛び込んだ。

「アレン君、大丈夫!?」
「ジェシカさん!危ない!早く離れーー」

アレンは言いかけ、すぐに背後を振り返った。
もそれにつられるように、視線を移す。
そこにいたのは全身真っ白な肌、顔に鼻はなくのっぴらとした顔、そして異様に赤いまるで鮮血のような赤い目。

『アレン・・・』
「アポクリフォス!」
「なに、こいつ・・・!」

こんな奴、見た事がない。AKUMAとはまた違うような・・・
でも、

(「な、んだ・・・この感覚・・・・・・懐かしい?」)

身動きを止めたジェシカを背後に庇うアレン。
それを見ていたアポクリフォスは、険しい視線をアレンに向けた。

『その御方に触れることは許さない』
「「!?」」

紡がれた言葉に、 もアレンも驚いた表情を浮かべる。
そして、アポクリフォスの拳が振り上げられる。
離れたところで動けない二人を見たティキは叫んだ。

!」

だが、その距離からでは間に合わない。
万事休す。
そう思われた瞬間だった。

ーードガッ!ーー

小さな身体が、アポクリフォスと二人の間に飛び込んだ。

「「ロード!?」」

驚くティキとアレンの声に はようやく我に返り、クロスへと手が伸びる。
だが、事態はそれより早く進む。

「ティム、拘束を・・・解いてやる」

新たな声に、 の動きが再び止まった。
響いた方向へ視線を移せば、目から羽根のようなものが生えたリンクが、術の解呪を呟いているところだった。

『!貴様まだ・・・!』
「・・・逃げろぉッ!!」
ーードゴォッン!!ーー

突如、爆炎と爆風に視界を遮られた。
どうにか両腕でそれを凌いだ は、頬を撫でた冷たい空気にすぐに視線を上げる。
そこには、巨大な金色のゴーレムに咥えられているアレンとロード。
視線を戻せば、アポクリフォスを挟んだ先にティキがいた。
上とこちらを見る男の迷う視線に、 はすぐに口を動かす。

ーーは・や・く・お・えーー
「・・・ちぃっ!」

ティキも素早くアレンらを追う。
誰もいなくなったそこで、 は立ち上がると素に戻った口調で真っ白いモノと対峙した。

「あなた、私を知っているのね?」
『・・・』
「教えなさい、あなたは何?」

こんな得体の知れないモノ、普通は恐ろしいはずだ。
だが にはこいつがこちらを襲うことはない、という妙な直感があった。
そして、 の詰問を受けていたアポクリフォスは感情を現さぬ表情で呟いた。

『忘れてしまわれたのですか?』
「?」
『我は貴女様を護る力、神の力・イノセンスより高座にあるもの』

言われている、意味が分からない。
どういうことだ?

「私を護る、力・・・?どういうこと、一体何からーー」
『今は時間がありません・・・』

そう言ったアポクリフォスは、ちらりとリンクを見下ろした。
そして、

ーードシュッ!ーー
「なっ!」

その腕はやすやすとリンクの体幹を貫き、吊り糸が切れたようにリンクは伏した。

『アレンを貴女様に近付けさせるわけには参りません』
「どういうこと!?」
『これで、ルベリエが貴女様に気付く証拠も残らない』

それだけを言い残し、アポクリフォスは歩き去っていった。
言われた言葉が頭の中で反芻される。
呆然としていた だが、濃くなる血の匂いに考え事を打ち切りリンクに駆け寄った。

「リンク!しっかりしなさい!」
「・・・か、はっ・・・」

血の泡を吐き出すリンク。腹部を見れば、どう見ても手遅れの怪我だ。
好きな奴でもないが、目の前で死なれるのは目覚めが悪い。
は、シャツの中にあるクロスに手を伸ばそうとした。
が、頭に響く言葉に手が止まる。

ーー『これで、ルベリエが貴女様に気付く証拠も残らない』ーー

アポクリフォスに言われた言葉、そしてノアであるティキが叫んだ名前。
つい先ほどティムの拘束を解いた所を見れば、間違いなく聞かれたはずだ。
ここで助ければ、正体がばれ教団に捕らえられる可能性がある。
しかし、

「っ!だから何だってのよ!やれるもんならやってみろっての!!」

突き動かされる。
失われてはいけない。
だって、彼らは私の・・・

(「・・・私の、何だっていうのよ!!」)

自身の意思とは別に溢れ出す感情に苛立ちながら、 は首から下げたクロスを手にした。

「Seal Adhara!」

暗い部屋に光が溢れた。



































































ルベリエが地下牢獄に到着すると、そこには中央庁関係者で埋め尽くされていた。
そして周囲の制止を振り切り、アレンが拘束されていた部屋へと押し入る。

ーーバタン!ーー
「!」

そこには血溜まりの中心に横たわっている、自身の部下の姿。

「なんということだ!」

ルベリエと共に駆けつけたズゥは、すぐにリンクに駆け寄った。
すでに手遅れかと思われた。
が、

「・・・ル・・・ベ、エ・・・・・ちょ・・・」
「!」

掠れるような声に、ルベリエはすぐさま扉を叩き閉め、他の者の立ち入りを拒んだ。

ーーバダンッ!ーー
「全員出ていけ」
『ちょ、長官!?』

扉越しの上官の言葉に、中央庁の関係者は戸惑いの声を上げる。
しかし、ルベリエは淡々と指示を口にするだけ。

「ここにはハワード・リンクの死体しかない。
そう報告して直ちにここを封鎖しなさい」
『しかし・・・』
「さっさと動く!」
『『は、はいぃっ!!』』

外が慌ただしくなり、人の気配が徐々に退いていく。
普段のルベリエらしからぬ行動を不審に思ったズゥは、

「マルコム、お前一体何を企んでーー」
ーーザッーー
「!?」

真意を問おうとしたズゥより先に、ルベリエは両膝を付き深々と頭を下げた。

「マルコム!?」
「ズゥ老師。癒闇蛇アトゥーダで彼を助けてください」

突然の言葉にズゥは訝しむが、ルベリエは叩頭をさらに深くし続けた。

「勝手は重々承知の上です。あなたにも危険が及ぶかもしれない・・・
ですが、どうか!彼を助け匿ってほしいのです」
「・・・どういうことだ?」

ようやくルベリエは頭を上げズゥと視線を合わせた。

「アレン・ウォーカーを・・・14番目を助ける為に、なんとしても私にはリンクが必要なのです!」
「マルコム・・・おまえ、まさか・・・!」

驚愕的な事実の告白を知るものは、この場にいる者だけだった。


















































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2013.10.14/2013.10.26修正