「リーバー班長は今日はお休みですか?」
「あれ、聞いてない?リーバー班長は北米支部に出張だよ」
ーーノア、襲撃ーー
科学一班を訪れたは、返された答えに首を傾げた。
(「北米支部に?このタイミングで班長クラスが・・・?」)
今、教団本部は閑散としている。
元帥を含めエクソシスト全員は、昨日から世界各地に派遣されていた。
もちろん、サポートするファインダーも。
そして、教皇命令で加勢することになったというサードエクソシスト達も。
状況がどうなるか分からないのは何時ものことだが、リーバーを始め科学班の班長全員がこのタイミングで抜けるなど、一体どんな出張なのだ?
「仕事の話?」
「え?ええ。以前、お願いしていた遺跡の古代言語解読結果が出るとの事だったので、寄ってみたんです」
突っ込まれた問いに、答えながらはその場を後にした。
(「ま、ゲートもあることだし。今日中には戻ってくるか・・・」)
この時はそう安直に判断し、まだ手付かずの謎解きにかかるか、とは自分の席に戻った。
そして、夜も更けたAM3:00。
司令室にアラートが響き渡った。
『各地区のエクソシスト部隊に、ノアの襲撃を確認!
ヨルダン、中国、ロシア、ギリシャ!全ての陣営が攻撃を受けています!』
ゴーレムからは、各地区の映像が届く。
自分の見覚えのある者達。そして、対峙しているノア、大量のAKUMA。
戦力的に見て、いくらサードが加わったとはいえ能力が未知数の相手では勝算など・・・
はモニターの前で拳を握った。
(「・・・ダメだ」)
そう、本来なら自分はあの場所へ立っているのだ。
だがそれは今、できない。
たとえ自分が知っている者が、自分を仲間だと言ってくれた者が命の危機にあったとしても。
(「今は・・・行けない、そう決めた。
自分の事が分からなければ、この戦いで自分の立ち位置が定まらない」)
そう、もしかしたら自分は彼らの仲間ではないかもしれない。
ここで助けに行ったとしても、もし自分が敵だったら・・・
その助けた手で、彼らだけでなくもっと多くの命を・・・
非情だ、裏切り者だと言われようが、それが自分の決めたことだ。
と、は一週間前のティキの言葉を思い出した。
(「あんにゃろ、だから聞いたんだな・・・」)
これがあるのを知っていて、自分の動向を探ったのか。
(「学のないくせに、小賢しいことを・・・」)
目の前ではコムイが皆に指示を飛ばす。
ノアのこのタイミングでの襲撃。本部襲撃のことがあるため、世界各支部へ状況確認が始まる。
もそれに加わり、中東支部へ状況確認を取る。
「こちら本部。中東支部、至急そちらの状況報告を」
『こちら中東支部、こちらに異常はありません』
「そうですか、良かった・・・」
『ですが・・・』
「?」
『ヨルダン陣営がーー』
次々に世界各地の状況が報告されていく。
そして、もそれに続いた。
「中東支部、ノアの襲撃は確認されません。
しかし、ヨルダン陣営に大量のAKUMA及びLv.4を数体確認できるとのことです」
「くっ、Lv.4が・・・」
「大変です!北米支部と全く通信が取れません!」
「なんだって!?」
上がってきた報告に、は視線を険しくした。
(「確か、リーバーが出張してるってとこ、北米支部よね。
まさか、ノアの目的は北米支部で他は陽動?」)
だが、そう考えた方が辻褄が合う気がした。
各陣営にノアを率いている千年伯爵の姿はない。そして、よくちょっかい出してくるティキの姿も。
あの男の持つ戦闘力を使わないなど、考えられない。
まさか、もう北米支部に?
(「一体、そこに何が・・・」)
北米支部を映すモニターはずっと暗いままだ。
こちらの呼びかけにも応答はない。
何より、今あの場所へ派遣できるエクソシストはいない。
(「行くしか・・・ないか・・・」)
は悔しげに歯軋りをする。
まだ手帳の内容は全て分かっていない。
ここで正体をバラせば間違いなく中央庁に尻尾を捕まれることになる。
は再びの葛藤に、頭を悩ませる。
と、
「ほ、報告します!北米支部への方舟ゲートが開きません!」
「!」
「なんだと!?どういうことだ!」
「原因を調査中ですが、未だ・・・」
新たな報告に、は詰めていた息を吐いた。
これではエクソシストとして正体を明かしたとしても、足がなければ向かう事ができない。
各支部へのゲートは安全性も考え、一つだけ。
南米支部のゲートで向かったとて、そこから先の移動時間を考えれば、とてもじゃないが救出には間に合わない。
(「・・・なんか、複雑・・・」)
安心したような、無念なような・・・
どちらにしろ今自分にできるのは、目の前の仕事をこなす事と、戦場に放り出された関係者の無事を祈るくらいだ。
(「ともかく、今はーー」)
ーードックン!ーー
その時、再び心臓が跳ねた。
(「また!」)
ーードックン!ーー
しかし、今度は孤児院の時の比ではない。
脈打つごとに、身体の全ての感覚が持っていかれる。
「くっ・・・!」
胸を押さえたは、そのまま崩れるように意識を手放した。
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2013.10.14