ーー蘇った負の遺産ーー
ーートントントントントントントントン・・・ーー
黒の教団本部、近くの街のカフェテラス。
寒空の下だが、頭上からのヒーターのおかげでそこまで苦ではない。
そこから途切れることのない音が紡がれ続けていた。
分厚い参考書を読みながら、空いた片手でペン先をメモ紙に叩きつけている者の姿。
サイドに流された暗紫の髪、黒縁メガネ後しの青い瞳、ぷっくりと熟れた唇。
今は、普段着ている白衣ではなく、厚手のストールを羽織っていた。
そして、対面の席にはもう一人腰を落ち着かせていた。
きっちりと着込まれたタキシード、波打つ黒い髪に、左目の下にある泣き黒子。
傍目に見ても苛立っている目の前の女性の様子に臆することなく、対面に座った男は訊ねた。
「、お前来週も教団に缶詰なのか?」
「・・・・・・」
「お〜い、聞いてんの?」
「うっさいわね、黙ってろ」
見た目からは聞き違いではないか、と思われるほどの乱暴な言葉。
相手に視線すら合わせずに、苛立ちを叩きつけるように吐き捨てられたそれに、男は目を瞬かせた。
「・・・荒れてんな、何苛ついてんだ?」
「・・・・・・別に・・・」
ふん、とティキから顔を背ける。
本の内容すら頭に入らなくなり、は椅子に寄りかかって頭を預けた。
視界に入るのは、ヒーターの赤、鈍色の空。
相反する色ではないのに、異様に引き立って見える。
同時に、苛立ちが募った。
(「サード計画・・・まだそんな事をやっていたなんて・・・」)
過去のフタが僅かに開く。
いい思い出のものではない。人間がいかに穢れているかを目の当たりにしたようなものだったから。
それにあの時ほど喪失感を感じたことはない。
だからこそ、もうそんな思いはしたくないというのに・・・
「おいおい、折角、ご機嫌伺いに誘ってやったのによ」
「有難迷惑って言葉知ってる?」
「なんだ、花束もつけるか?」
「また支払額、増やしてやりましょうか?」
あーいえばこーいう応酬。
だがそれに、僅かに苛立ちが薄まった。
と、最初のティキの問いに疑問を持ったは視線を前に戻した。
「・・・私の動向を知りたいなんて、どう言う風の吹き回し?」
「おいおい、それくらい教えたって減りゃしないだろ・・・」
「・・・・・・」
怪しい。それに、減りそうだ。
じーっと、ティキを見据えていただったが、向こうが笑い返したことで丸めたメモ紙を投げつけた。
ーーベシッーー
「いるわよ。調べ物の件の解析結果、それ位に出るって話だったし」
「ふ〜ん・・・」
頬杖をつくティキを、紅茶を傾けながら訝しんだは、ソーサーにカップを置いた。
「私がその時期に教団にいる事が、そっちの都合に関係あるの?」
「いや、聞いてみただけだ」
「・・・あっそ」
この時、もっと突っ込んで吐かせればよかった。
しかし、これから何が起こるかなど苛立ちに囚われていたは知る由もなかった。
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2013.10.14