大量の書類と格闘して、もうすぐ8時間。
だが、床一面に広がるそれは湧いてきているのではないかと疑うほど、その容量を減らしていなかった。
「どういうことなの、これ・・・」
ーー壊滅危機は味方の手によって?ーー
はうんざりと呟く。
おかしいだろ、どう考えても。
中央庁から異動できるレベルを演じている手前、乱雑に入れることなく、せめてアルファベット順には片付けていたのだが・・・
8時間前とあまり景色が変わっていない。
ダンボールはもうすぐ50個に届こうというのに・・・
(「これもある意味奇怪現象なんじゃないの?」)
実はイノセンスが関係してたりして・・・なんて、現実逃避に走る。
と、外が随分と騒がしい。
時刻はもうすぐ草木も眠る丑三つ時の午前2時。
何が起きたんだ、と書類整理に飽きた
は扉を開けた。
すると、
ーーどわぁーーー!ーー
廊下の先から叫び声。
書類整理より面白そうだ、と
は軽快に声の響いた部屋に向かう。
迷うことなく目的地に到着すると、こっそりと部屋を覗いて見た。
すると、そこでは壮年に差し掛かるくらいの女性を皆が押さえつけているところだった。
だが、
の興味を引いたのはそれではない。他の面子の方が、大変面白い状況になっている。
まずその場に似つかわしくない幼い2人の少年。服装は違うがどう見ても、神田とJr.だ。
(「うわっ、何あれ!この上なくおちょくれる状況じゃないの」)
今この時ほど、身分を偽っているのが口惜しい。
そうでなければ、あの手この手で遊んでやるのに・・・
悔しみを押して視線を巡らせれば、アニマル耳が視界に入った。
が、
(「なんでブックマンの頭からポニテじゃなくてウサ耳・・・」)
完璧に人選ミス、目の毒だ、見るに堪えない。
すぐさま視線を巡らせる。
すると、
(「!エノキ少年がロングヘアー・・・なんでティムまで・・・
あいつはゴーレムじゃなかったの?」)
もはやこちらの理解の範疇を超えたモノだ。
と、さらに騒ぎが大きくなったことにようやく
はその中心を見やった。
そこでは、ちょうどミランダがマリの首に顔を埋めている場面だった。
瞬間、マリは機械がショートでもするように煙を上げた。
「あら、大胆v」
皆の注目がマリに集中していることをいいことに、
は思わず素で呟く。
(「マリって思った以上に免疫なかったのね・・・」)
将来が心配だわ、などと思っていた時だ。
普段から温厚なマリが少年神田の腕を掴み、吊り上げた。
まるで悪役ぶりなその振る舞いと、表情がちょっとイッている。
どうやら、先ほどはただ単に首に顔を埋めただけではないらしい。
ーーフッーー
(「停電?」)
今度は辺りが暗闇に包まれる。
唯一の光源は、窓から時折、空を走る稲光。
飽きる暇ないなぁ、と呑気に
が思っていた。
その時、不穏な気配に後ろを振り返った。
そこには、マリと同じような表情の大量の一群がこちらに迫ろうとしていることろだった。
「・・・は?」
『グガアァァッ!』
白衣を着た男が、
に襲いかかる。
条件反射で
はその背後を取ると、素早く首筋に手刀を叩き込んだ。
すると、男はあっという間に昏倒する。
(「あ、しまった。つい・・・」)
どう言い訳しても、インテリの動きではない。
だが、幸いな事に目撃者はこのかなりハッスルしている集団のみ。
騒ぎの中心から離れていて良かった、とは思うがハッスル集団は見境なしに襲ってくる。
は機敏な動きで攻撃をかわしていく。後を追うように、白衣が踊る。
(「動きにくっ!」)
戦いの時の団服と違い、なかなか思ったように動けない。
下がスカートに、ヒールということもある。
だが、AKUMAでない以上、
には十分だった。
襲ってくる面子の服装からして、どうやらここの教団関係者のようだ。
だが、どう見ても様子がおかしすぎる。
巧みに回避行動を取りながら、んー、と、
は考えていた。
(「ここは叫んだ方がいいのか?」)
ハッスル集団の向こうには、リーバーなどの科学班とエクソシストが数人。
こちらに来られて鉢合わせして、研究員ならぬ動きを見られても面倒だ。
襲われて餌食になったとでも思わせれば、こっちに来ることもないか。
そうだなそうしよう、と
は決めると息を吸い込み、
「きゃぁーーー!」
まるでホラー映画の一幕にあるそれ。
声の主がわかればベスト、生き残りがいたと印象付けられればベターといったところか。
そんな
の思惑通り、反応を返したのはリーバーだった。
『あの声!ジェシカか!?』
『まだ生き残りがいるんですか!?』
『でもこれじゃ、無理さ!』
『諦めろ!ともかく逃げるぞ』
『にゃあ!』
近いようで遠いところから聞こえた会話(『にゃあ』は謎だが)に、
は満足したように頷く。
そして、これからどーしよっかなぁ〜、と腕を組んで考えている。
だが、目の前にはハッスル集団がしきりに
に腕を伸ばしている。
しかし、それ以上
に寄る事ができないでいた。
何故かと言えば・・・
「流石は、慈悲の紡ぎ。応用技がAKUMA以外にも使えるとはね」
イノセンスを発動させ、自分の周囲を格子状に巡らせた糸で阻んでいるからだ。
向こうはどう見ても、理性が飛んでる。
まぁ、記憶には残らんだろう。残ったらその時に対策を考えよう。
もうここに居ても仕方ないと結論を出した
は、仕方なく書類の山の部屋へと戻った。
「まぁ、時間が経てば治まる系かもしれないし。
それまで片付けしてるか」
先ほどまでの状況をどうにかしようなどとは、微塵も考えてない
は放置を決め込み書類との格闘を再開した。
そして、暫く経った時、
ーーコンコンーー
「?」
まさかまたハッスル集団?
ならノックなんてせずに突入してきそうだよな?
軽い警戒と同じ位の好奇心が、
のドアを開けるか否かの行動を迫る。
と、
『ジェシカ、無事か!?』
(「リーバー?」)
ドア越しに響いた声に、
は目を丸くした。
「・・・リーバー班長?」
『ああ。良かった、無事だったんだな!』
それはこっちのセリフだ。まさかあの状況で生き残ったのか。
だが一人なのはおかしくないか?
一番生き残る可能性が高いのはエクソシストではなかろうか?
扉を睨むように、
は考え込む。
・・・が、それは長く続かなかった。
(「ま、何かあっても返り討ちにすればいいか」)
そう思い直した
は、ドアを開けた。
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2013.10.14