「科学班班長、リーバー・ウェンハムさん、ですね?」
「?」

足元の荷物を整理していたリーバーは呼びかけに視線を上げた。
色白の細い足が伸びるタイトスカート、白シャツにクロスタイを締め、羽織われた白衣は科学班のようだが見覚えはない。
さらに視線を上げれば、サイドに流された結われた暗紫の髪、ぷっくりと熟れた唇、黒ぶちメガネからのぞく青い瞳。

「そうだけど、君は・・・」

リーバーの問いに、見知らぬ女性はにっこり、と笑った。

「はじめまして。新本部の科学班に中央庁から異動することになったジェシカ・キャンベルといいます」





































































ーーその名はジェシカ・キャンベルーー

































































マリの部屋を後にしたは、早速、科学班を訪れた。
そして、皆が慌ただしく引っ越しの片付けを進める中、目的の人物に声をかけたのである。

「引っ越しの手伝いに来ましたv」

人当たりの良い笑顔を浮かべる
実はこうするに至るまで、結構な根回しをしてきた。
祖父のコネクションを使って、必要書類を偽造したりなんだりetc...
それで形式上の問題はクリアされ、残りは顔見知りがいた場合の問題。
だが、以前に潜入捜査まがいのことをしていたため、演技力には自信があったのでこれもクリア。
知り合いでも臆することなく、『初対面』を演じる。
だが、リーバーは硬直したように、を見つめたまま動かない。
それには表面は笑顔ながら、内心、構えた。

(「あれ、まさかバレた?リーバーとは数回しか顔を会わせてなかったはずだけど・・・」)

懸念する
だが、しばらくして・・・

「・・・ス・・・」
「?」
(「もしかして、スパイとか?」)
「ストライクッ!」
「・・・・・・」

どうやらの心配は杞憂だったようだ。
いつぞやの眼帯Jr.を思い出す。

「あの・・・ウェンハム班長どうかされましたか?」
「い、いや!なんでもないんだ。
それにしても君のような美人が科学班にだなんてな!」
「まぁ、お上手ですわね、ウェンハム班長」

普段よりも丁寧になるように社交辞令を返す
表面はさも嬉しいです、な顔。それを受けたリーバーはご機嫌だ。
が、の内心はというと・・・

(「あぁ、舌噛みそ・・・」)

などと表情とはかけ離れていた。
ファミリーネームを呼んで手を差し出したに、リーバーはその手を握り返すと、

「リーバーで構わないよ」
「では、私もジェシカで結構です」

にっこり、と、自分の容姿を最大限の武器とした笑顔で返せば、リーバーは心の中でぐっと、拳を握った。

(「俺、科学班にいて良かった!」)

恐らくここで働き出して、初めて思った瞬間だった。
そんな男の心の声を見透かしたように、は続ける。

「実は正式な辞令は新本部で受け取る予定なんです。でも、こちらの本部もどうしても見ておきたくて・・・
引っ越しもあると聞いたので、見学がてらお手伝いに来たんですが・・・」

それまでの明るい雰囲気から一転させ、しゅん、とは肩を落とすと、不安げな面持ちでリーバーを見上げた。

「勝手をしてご迷惑・・・でしたか?」
「まさか!大歓迎だよ!」
(「ついに俺にも春が・・・!」)

心の涙を流しているリーバー。
にしてみれば、これで落とせなかった奴はいないリーサルウェポンの発動。
ちょろいな、と思いながら「安心しました」と笑顔でリーバーに返す。
早速、片づけてほしいところに案内すると、を連れたリーバーは歩きながら話を続けた。

「専門は何を?」
「はい、考古学を。こちらでは古代考古学の研究に携わることになります」

よどみなくは答える。
実は、父の影響で考古学についてはかなり詳しくなった。
そして、なら大学行っちゃえば?の祖父の軽い言葉に乗せられ、あれよあれよと言う間に博士号をとってしまった経緯がある。
勿論、教団にはエクソシストとして関係ないことだからと報告などしていない。
今回はこれが功を奏した結果、と言える。
の返答に、リーバーは肩越しに笑みを返した。

「そりゃ助かる。古代考古学は研究者が足りないからな。頼りにしてるよ」
「リーバー班長も、言語分野が得意と伺ってますよ?
これからもお仕事でご一緒する機会がありそうですね」
「そうだな!よろしく頼むよ!」

まるで少年のような喜び顔で、勢い良く返される。
それに僅かに引きながら、は話を変えた。

「中央庁でも本部科学班の噂は聞いていたので、実は来るのが楽しみだったんですよ?」
「そうなのか?」
「ええ、なんでも班員の負担を減らそうと発明したロボットはエクソシストしか破壊できないほどのものだったとか。
流石は世界の粋の技術が集まるだけありますね」
「ハハハー、噂ハ尾ヒレガツクカラネー」
(「噂じゃなくて事実だろうが」)

片言になるリーバーに、は内心、突っ込む。
先ほどの話だってアジア支部で聞いた話だ。仕事にならん、と数日バクが騒いでいたのを覚えている。

「本部勤めなら、エクソシストとも接する機会が多くなる。
後で紹介するよ」
「そうですね、タイミングが合えば是非お願いします」
(「もう知ってるけど・・・」)

とは内心で思うだけに留めた。

「それでどこを手伝うんですか?」
「ああ、一番安全な室長の執務室を任せていいか?
書類をなんとしてもらいたいんだ」
「構いませんけど・・・それって、他の場所は危ないってことです?」
「まぁ、巻き毛室長が発明した取扱注意品がな・・・」

日頃何を作ってるんだ、コムイの奴は・・・














































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2013.10.14