黒の教団の拠点が新たになる事になった。
その引越し作業に追われ、マリは部屋の片付けをしていた。
盲目であるため、荷物は本当に少ない。
と、
ーーコンコンーー
ノック音にドアに向かう。
時間は夕刻を過ぎた辺り。誰か食事の誘いでも来たのだろうか?
「はい、どちーー!」
瞬間、飛び込んで来た心音に驚きを隠せなかった。
ーー久しぶり、これから初めましてーー
「お前・・・」
「まずは中に入れて。話はそれから」
訪問者の言葉少なな指示に、マリはギクシャクしながらも、部屋に招き入れた。
そして、まだ今の状況を信じられず、ベッドの端に腰を下ろすと頭を抱えた。
「なぜ、ここにいるんだ。
・・・」
そう、声の主はつい先日、教団本部を飛び出したエクソシスト。
・
その人だった。
「数日振りねマリ、その様子だと私のことは教団から聞いてるみたいじゃない。
一応把握しつてるつもりだけど、なんて聞いてる?」
まるでお茶の誘いに来たような気軽さで訊ねてくる。
だが、事態はそんな悠長ではない。
「
、事情は知らんが兎も角、今はここから離れた方がいい」
「そう思ってるなら、早く教えてくれない?」
「はぁ・・・相変わらずだなお前は・・・」
マリは話を始めた。
が飛び出した直後、全エクソシストに招集がかかったこと。
ヴァチカンより、
を見つけた際は最優先事項としてその身柄を確保すること。
理由はこの戦争の勝利の鍵を握っているからだということ。
確保の際、抵抗を見せた場合はイノセンスの使用を許可するが、必ず生きての確保とすることを話した。
それを黙って聞いていた
は、
「それだけ?」
「私達が聞いた話はそれだけだ」
「ふーん・・・」
再び黙り込んだ
。だがマリは腰を上げると、口早に
に言った。
「落ち着いている場合じゃないだろう?早くーー」
「焦る必要ないってば」
「どうして・・・」
その返答に、
はマリが盲目だったことを思い出す。
「あー、ごめんごめん。
私ね今、科学班みたいな白衣着て変装してる訳」
「変装だと?何のために・・・」
「それはマリでもまだ言えない。
一番最初にここに来たのは、私の事は今後、会ったとしても他人のフリよろしくって、言いに来たの」
マリには絶対バレるしね、と
は笑う。
「まさか、科学班に入るつもりか?」
「そ。調べ物があってね、ここの情報量は豊富だからさ」
どこまでも物怖じする事なく語る
。
それにマリはどうしても聞いておきたい事を口にする。
「一つ聞いていいか?」
「なぁに?」
「
、お前はエクソシストを辞めたのか?」
瞬間、空気がぴんと張ったのが分かった。
しばし間を置き、
はその口を開いた。
「今、神の使徒として・・・エクソシスト
に戻るつもりはない」
きっぱりと断言され、マリの表情に影が差した。
が、
「でも、マリ達の事は大事だと思ってるわ」
の返答に不可解な顔をするマリ。
その反応を楽しげに笑う
は続けた。
「これは古い付き合いだからサービス。私、実はノアから勧誘受けてるの」
「!」
「でも、私は調べ物の件がはっきりするまで、教団と距離を置くと決めたし、ノアの誘いを受けるつもりもない」
「それは・・・はっきりすれば、敵同士になるということか?」
「そんなの分からないよ、だから調べたいの」
相変わらずの
の性格に、マリはいくら自分が心配して言い含めても無駄だということだけは分かった。
「はぁ・・・
には救ってもらった恩義がある、私は反対できないよ」
「大袈裟ね、大昔の事を。
でもそんなだから、マリはいい男なのね」
いつか、窮地を助けてもらった時と同じような軽口に、マリは僅かに眉根を寄せた。
「年上をからかうもんじゃない」
「あははーついねー」
からからと笑う
。
だが、教団を飛び出すしかなかった
がわざわざ危険を顧みず戻ってきた。
それがエクソシストでないことは悔やまれるが、そうまでしてやらねばならない事とは何なのだ?
恐らくそれはヴァチカンが絡んでいる事だとだけは分かる。
何もしてやれない事が歯痒い。
マリは
の頭に手を置いた。
「お前はいつも誰かを救ってばかりだ。
私にできる事など少ないだろうが、あまり抱え込むな」
マリの言葉に
は目を見開いた。失礼な事だが彼が盲目で良かった。
不意打ちのようなそれは、孤立している心を温めてくれる。
「・・・マリ、知ってた?」
「?」
「貴方の大きな手。安心できるから結構、気に入ってるのよ?」
「そうか」
初めてマリが表情を緩めて笑った。
そして
は、自分より高い所にある肩を叩いた。
「じゃ、そーゆーことで。これからは他人のフリでよろしく〜」
「ああ。気を付けろよ」
「そっちもね」
Next
Back
2013.10.14