ーー落ちこぼれティッキーの勧誘道中、その1:とりあえず会いにいってみたーー
パリ市街、とあるカフェテラス。
人通りの多い道を横目に、白シャツ黒パンツのラフな格好でブランチタイムを過ごす者がいた。
だがそれは優雅なものとは違うようで、声をかけるのを躊躇うほど気難しい表情を浮かべていた。
「分かんないなぁ、ったく・・・」
年季の入った革張りの手帳を閉じたは、気重な溜め息とともに呟いた。
テーブルの上には、手帳の他、走り書きしたたくさんのメモ書きが散乱している。
「そもそも、なんで私が悩まないといけないわけ・・・」
誰に対してこの鬱憤をぶつけていいのか分からず、の独り言は続く。
だが、真偽のほどを確かめなければならない。
もしも仮にこれが偽りだったとすれば、父の過ぎたおふざけでした、で片がつく。
・・・ま、自身に対しては、だ。
すでにヴァチカンが動いていることを考えると、偽りだとてその事実を隠蔽して担ぎ上げることぐらいやってのけるだろう。
担ぎ上げられる側としては冗談でない。
今の状況を一言で言い表せば、神の試練という奴だろうか?
わざわざ信じもしてない自分に試練を課すとは、ろくでもない奴だ。
「くっそぉ・・・アホ神め」
「聖職者とは思えない発言だな」
素直な心情の呟きに、応じる声。
声の方に目をやれば、いつの間に現れたのかタキシードを着込んだあの男。
まるで旧友に挨拶するような気軽さでこちらに近づくと、断りもなく席に着いた。
「ノアが何の用?」
「勿論、姫を迎えに」
「気色悪い呼び方すんな。そして帰れ、浮浪者」
「・・・なんで知ってんの?」
「は?仕事もしないでふらついてんだから違いはないでしょ」
「あぁ、な〜る・・・」
ティキの納得顔に、はため息をついた。
どうして、こう頭を悩ませる時に頭を悩ませる奴の相手をしなければならないんだ?
呪われてるのか?それともこれも昔から続く宿命って奴なのか?
頭痛が治まらない・・・
黙ってしまったに、ティキは目を瞬かせた。
「はれ?調子悪い?何時もの毒舌がないじゃねーの」
「土下座して頼むならやってやるわよ?」
「この格好でかよ・・・」
の鋭い切り返しに、ティキは乾いた笑みを浮かべる。
ダメだ、これ以上ここにいても何も進まない。
そう判断したは、テーブルに散乱したメモ書きを集め出した。
「ったく、ノアごときに構ってらんないわよ」
「うわぁ〜、言うねぇ〜
ホームシック?あんたみたいな奴でも教団が恋しくなんだ?」
「その舌、刻んで食わせて欲しい?」
「怖っ!」
集め終えたは、とんとん、と一纏めにすると鞄に突っ込んだ。
着々と帰り支度をするにティキはそれまでの冗談口調を改めた。
「なら、一つ情報提供だ」
「貸しにされたらたまんないから要らない」
即座にバッサリと切り捨てただが、まぁ聞けよ、とティキは続ける。
「黒の教団本部が、拠点の廃棄を決めた」
「・・・は?」
「新拠点はまだ決まってないそうだが、そのうち決まんだろ」
そう言って優雅にティーカップを傾けるティキ。
いつの間に頼んだんだ、こいつ・・・。
は視線を険しくし、ティキに詰問した。
「どういうつもり?」
まるで刃物のように鋭いそれ。
「まさか恩を売って仲間に引き入れようっての?」
「ああ、そのつもりv」
の言葉を簡単に肯定したティキは、人当たりのいい笑みを浮かべる。
しばし睨みつけていただが、相手が本気でそのつもりな事が分かると呆れた表情を浮かべ、鞄を片手に立ち上がった。
「私、簡単に計画をバラす阿呆の仲間になる気はないの」
「・・・それ俺のこと?」
≫≫結果、簡単にあしらわれて終わってしまった・・・
>余談
「ってか、あいつ食い逃げじゃね?」
「ティキ・ミック様でいらっしゃいますか?」
「?あぁ」
「先に出たお連れ様が、お支払いは貴方にと伺っておりましてーー」
「・・・は?」
「しめて、25ギニー(50万円)になります」
「はあああぁぁぁっ!?」
今までの腹いせに、そのカフェの最高級品を買い占めてみた さん
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2013.9.30