「どこ行った、あいつ・・・」

殺気を放ちながら、は周囲を見回す。

(「今日こそ殺す・・・」)






























































ーー本日を以ってGood-Byeーー




























































弦月を発動したままのは、黒いオーラを立ち上らせながらクロスが潜みそうなところを探しまわっていた。
今回の所業、もはや許されざる行いだ。ちょっとやそっとで許すものか。
クロスの吠え面を見なければ収まりがつかない。
絶対見つけてやる、と辺りを見回していた
すると、

「エクソシスト、殿ですね」

突如、背後から声をかけられた。
苛立ちを隠さぬまま、は低い声をあげる。
上から下まですっぽりと布で覆われた暑苦しい格好。
聞いたことはあったが目にしたのは初めてだが・・・早速、お出ましか。

「・・・鴉が何の用?」
「ヴァチカンの命により参上しました。
中央庁への出頭命令が出ておりますので、同行願います」

深々とこちらに頭を下げるそれ。
だが、鴉がこのタイミングで現れるなど、やはりあの話は聞かれていたと言う事か。

「耳が早いわね。それってクロスの話を聞いたからよね?」
「・・・・・・」

が問えば、返ってきたのは沈黙。
しかし、今はこいつの口から確実な返答を聞きたいは詰問を重ねた。

「出頭させたいなら答えなさいよ」
「はい、仰る通りです」

すぐに肯定を返した相手に、はぐっと拳を握った。
そして、

「・・・ふふふ・・・」

鴉は訝しむように、頭を上げた。その格好でこちらの表情が分かるのだろうか?
まぁ、そんなことはどうでもいい。
鴉が現れた原因はやはり、というかやっぱり、そういうことなのだ。

「やっぱり・・・やっぱり、あいつのせいかぁっ!!!
ーーガシャーーーーン!ーー

手近の窓を、腹いせに割る。
それだけで怒りが収まらないは、廊下の至る所に破壊工作を続ける。
それを見ていた鴉はの前に立ち塞がると、懐から札を取り出した。

「手荒なことはしたくありません、どうか従い下さい」
「従え?・・・それ、この私に言ってるの?」

鴉の言葉に、はすっと目を細めた。
応じる仕草を見せようとしないに、どうやら向こうは戦る気のようだ。
数呼吸、睨み合いが続く。
そして向こうが動こうと僅かに身じろぎした。
瞬間、はそれより速い動きで鴉の身体に弦月を叩き付けた。

ーーゴスッ!ドゴォン!ーー

短い間に、鴉が壁に埋まる。
は弦月の発動を解除すると、視界を邪魔する髪を後ろに払い除け、動こうとしない鴉を背後に言い捨てた。

「舐めんじゃないわよ」

こちとら、単なるエクソシストじゃない。
報告されてはないが、一応、臨界者なのだ。


















































所変わり、ここは室長室。
書類に埋もれるそこにはコムイの他、まだベッドで安静にしてなければいけないアジア支部長、バクの姿もあった。
今回の襲撃、間近でそれを見ていたバクは、コムイと今後の対策を進めようと訪れていた。
病室でやればいいものだが、バクは内密にコムイに話があると、他人に聞かれないこの室長室に移ったのだ。

「で、内密の話って?」
「ああ。のことだ」
ちゃんの?」

不思議顔のコムイ。
対するバクの表情は真剣・・・というより、緊張のし過ぎか若干、青ざめている。

(「し、仕方ないんだ。
戦力低下が否めない今、これが最善策。本人には後で言い聞かせるしかない」)

内心、決意を固めたバク。
そして、いざ、とばかりにコムイに話し始めた。

「実は、あいつを元ーー」
ーーピーッ、ピーッ・・・ーー

出鼻を挫くように、ゴーレムのコール音。
それに、拳を握りしめたままだったバクは固まった。

(「ま、まさか!?」)

冷や汗を浮かべるバク。
ゴーレムを直視したまま動かない男にコムイは仕方なく言った。

「バクちゃ〜ん、ゴーレム鳴ってるよ〜」
「バクちゃん言うな!」

復活したバクは、包帯の巻かれた手をゴーレムに伸ばす。
そして、必要以上に驚いた自分に言い聞かせる。

(「か、考え過ぎだ。この話は俺様の独断、あいつが知ることなんてできないんだし」)

そう判断すると、緊張が緩んだのか連絡を入れてきた相手の悪態が口をつく。

「こんな時に、誰だ・・・」

今は緊急以外は連絡を入れるなと周知している。
それがわざわざゴーレムに通信が入るのなら、それなりの案件が出てきたと言う事だろうか?
しかし、本部のこの状況以上に緊急なことなど・・・

「こちら、バーー」
『ぉ遅っそーーーーいっ!!ちんたらしてんじゃないわよ、ノロマバク!』

キーン、と耳鳴りするほどの声。一緒にいたコムイも思わず耳を塞ぐ。
もはや凶器。Lv.4の攻撃が思い出され傷が疼いた。

「ぐっ、・・・か?」
『はあぁっ?私以外、誰だってのよ!!』
「わ、分かった、分かったから!普通の音量で話してくれ」

マジで耳が痛い、ついでに頭痛のおまけがついている。
バクの訴えに、は仕方ないとばかりに声量を下げた。
だが言葉の端々に滲む苛立ちは全く収まっていない。

『そこにクロスのクソッタレはいる?』
「・・・・・・いや、ここには俺様とコムイしか居ないが・・・」
『チッ!!』
(「なんだが、いつもより荒れ方が激しいな」)

通信相手の予測がドンピシャだったが、もう突っ込む気も起きない。
それに今まで見た事ないの怒りっぷりに、なかなか宥める台詞すら出てこなかった。
クロス元帥との不仲は知っていたが、今回のコレはあまりにも・・・
一体、何があったというのだ?

、どうかしたのか?」
『バク、私、教団辞めるから』
「・・・は?・・・」

突如、言われた言葉を理解するのにタイムラグが生じた。
思わずコムイと見つめ合ってしまう。
やめる、辞め・・・!?

「は、はああぁぁぁっ!?何言ってるんだ、お前は!?
っ痛!

突然の事に大声を上げ、手当てしたばかりの傷に響き、続きを言えなくなる。
だが、通信機越しのは先ほどと変わらず、怒り収まらぬ様子で言葉を叩き付けてくる。

『うっさい、黙れ』
「だ、黙ってられる状況か!
まさか、報告のあった暴れまわってるエクソシストってお前か!?」
『クロスよ』
「嘘つけ!」

白々しすぎる。クロス元帥がそんな無意味な事する訳がないだろう。
ゴーレムに怒鳴っていたバクだが、横から手が伸びるとそれを奪った。

「貸して、バクちゃん」
「だから、バーー」
「あー、ちゃん?事情を説明してもらえるかな?」
『そのうちヴァチカンから情報が入るわよ。
人間の、風上にも、おけない、クロスの、野郎の、せいで、ねっ!!』

うわー、何かがすっごくたくさん壊れる音が聞こえる。
分かってるかなちゃん。その経費申請あげるの僕(正しくはリーバー)なんだよね・・・

「ま、待って、待って。それじゃあ、あまりにも・・・」
『簡単に言えば鴉をぶっ飛ばしたのよ』

少しは腹の虫が治まったのか、ようやく話し合いできるような言葉が返ってきた。
が、

「へ?」
「はあぁ!?」

予想だにしない返答に、コムイもバクも固まった。
そして、茫然自失のコムイに代わりバクが再びゴーレムに吼えた。

「よこせ、コムイ!おい !お前何やってんだ!!」
『黙れ盗撮魔。全部クロスのせいだって言ってんでしょ!!!』
「だ、だ、だっ、誰が盗撮魔だ!」
『あ〜ら、詳しく言ってあげましょうか?』
「うぐっ!」

場所が悪すぎる。ここでそれを言われては違う意味で命がない。
言葉に詰まるバクに、は今までと違う声音で呟いた。

『・・・悪いけど、事情があるの』
?」

いつも、謝罪らしことなど言わないが何と言った?
呆気にとられるバクだが、先ほどの事が嘘のように再びは尊大に続けた。

『追いかけて来たら、そいつ血祭りにして送り返してやるからそのつもりで』
「お、おい・・・」
『特に、鴉をけしかけようとするルベリエには拡声器使って言ってやって。
次やったらあんたの首を飛ばしにいくってね』

物騒な事を並べている。
が、それが脅しでない事がバクには嫌と言うほど分かっていた。
やるといったらやってしまうのが彼女なのだから。
しかし、本当にこのまま去ると言うのか?
せめて、せめてその理由くらい・・・

、どうして・・・」

ゴーレムに呟くバクの声が、小さく問う。
それに今まで感情のままに口を開いていたは押し黙った。
そして、

『・・・じゃあね、バク』

任務に出る前と同じような台詞を残し、通信が切れた。














































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2013.9.30