ノア、ルル・ベルの襲撃とLv.4の接触は教団内に深い爪痕を残した。
喪失と悲しみの、癒えるにはとても時間を要する心の傷を・・・
































































ーー明らかになる宿命と運命とーー































































襲撃の片付けの手伝いをしていた は、一息いれようと聖堂に足を踏み入れた。
ステンドグラスをしばらく見上げ息を吐く。
今回の被害は甚大だ。本部科学班の人数が半分になったと聞く。
顔見知りなどほとんどいない。だが、自分の目の前でこれほどの命が・・・

(「馬鹿馬鹿しい・・・後悔する暇があるなら、もっと強くなることを考えろ・・・」)

自分にそう言い聞かせ、 は踵を返そうとした。
が、余計なモノが視界の貴重なスペースを占領している。

「・・・」
「よぉ、跳ねっ返り」

いかん、頭を打った衝撃で幻覚でも見えているようだ。
は頭を振るが、やはりそれは消える事なくそこに居た。

「・・・ちょっと、誰よ生ゴミをここに置いた奴」
「俺が来たからってそこまで嬉しがるなよ」
ーーチャキッーー
「仕方ない、今から焼却処分で消し炭にするか」

弦月でぴたりと狙いを定めた が言えば、クロスは後ろ手に扉を閉めた。

「まぁ、待て。今日はお前に話があってきた」
「寝言は棺桶に入ってからにして。あんたに吐いてもらう事はあっても、話を聞くことなんざ1ピコ分もないわ」
「アレクのことだ」
「!」

瞬間、 の手から弦月が消えた。
思った以上の動揺に、 は視線を鋭くした。

「・・・・・・それってどこのアレク?」
「お前のオヤジ」
「・・・なんでその口からその名前が出るのかしら?」
「馴染みだったからな」

こいつに会って二度目の衝撃。
開いた口が塞がらない、なんて自分には当てはまらないと思っていたのにそれをリアルにやってしまう日が来るとは・・・
固まって身じろぎすらできない

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「アレクとは昔からの知り合いなんだよ」
「・・・うざったいわね、一回言えば分かるわよ」

聞きたくなかった事を復唱され、 は反射的に言い返す。
だが、表面はどうにか冷静を装いながらも内心はこれでもかと頭を抱えていた。

(「・・・今、無性に軽蔑したくなったわ」)























































さすがにこのままでは誰かに聞かれると、別室に場所を移した。
そして、つけられてもいないことを確認すると はクロスに向き直る。

「で?今更この世にいない人の話がなんな訳?」
「薄情な奴だな、実の親に対して」
「あんたと馴染みだって知ったからよ」

全く、とんだ汚点だ。
どうしてこんな奴とわざわざ顔馴染みになんてなってるんだ?

「生前、奴から頼まれてな。時が来たら、この手帳をお前に渡せと」

差し出されたのは、古びてぼろぼろになった手帳。
かなり年季が入っているのが分かる。
それをこちらに向けていると言う事は、受け取れと言う事か?
・・・こいつから?

「どうした?」
「その話、信じろって?」
「好きにしろ。俺は頼まれただけだ」

不審全開の眼差しをクロスに向ける
だが、このままでは話も進まないのも事実。

「・・・・・・・・・」

本っ当に仕方なく、渋々受け取った。
だが、クロスはまだその場を動かない。それに は容赦なく出口を指した。

「用が済んだなら出てってくれない?」
「まだ読んでないだろ?」
「あんたが出て行ったら読ーー」
「いいから読め」

おい・・・誰に命令してんだ、こら。
射殺さんばかりの視線をクロスに向ける
だが、返されたのはいつもの軽薄なものではなく、真剣な視線。

「お前にとって、大事なことだ」
「・・・はぁ・・・」

予想外の言葉とその視線に、 はため息をついた。
そして、ソファに腰を下ろすと手帳を開き、読み始めた。





























































「何よ、これ・・・」

書かれていた事が、信じられず思いが口をついた。
自分の血族にまつわる事、その祖先たる者が誰であるか。
聖書に記された『暗黒の3日間』その真実の仮説、などなどなど。
途方もない・・・本当に、途方もない話だ。

「こんなばかげた話、あるわけーー」
「事実だ」

遮るように、クロスの冷静な声が断言する。
それに思わず は立ち上がり、敵意を宿した目で睨みつけた。

「なんであんたが言い切れるのよ」
「アレクから直接聞いたからだ。
それに、江戸での戦いで自分でも分かったはずだ。自分の内にある力を・・・」
「・・・・・・」

それを指摘されれば、 はぐっと返す言葉を失う。
自分が一番分かっている、だが納得など・・・できる訳が・・・

「状況を理解しろ」
ーータンーー

そう言われ、壁とクロスに は挟まれた。
鼻につくコロンに眉間の皺が深くなる。
だが、クロスは構わず の耳元で声を潜めた。

「江戸から帰還し、ヴァチカンが躍起になっている。手帳の中身が知れれば、神が降臨するべく遣わされた使者と、間違いなくお前は聖戦の旗手に祭り上げられ る。
そして、ノアの一族にとってもお前は重要な存在だ。奴らは乗り込んで来るかもしれない」
「冗談じゃない・・・」
「あいつも同じ状況だった」

その言葉に、 は目を見開いた。
そして、クロスはゆっくり繰り返した。

「アレクも同じだった、だから身を隠していた。
だが、ついに見つかり選択を迫られた。あいつは戦争を導くことでなく、世界に神の威光を示すことでなく、お前を選んだ」
「父が・・・」

聞かされる事のなかった父の想い。
はその場に縫い付けられたかのように動けなかった。

「あいつからの言付けだ。
『自分の力、人生をどう使おうが自由。思った通りのことをやればいい。気が向いたらついでに世界を救ってやれ』だと」
「相変わらず・・・無茶苦茶、言う人なんだから・・・」

手帳の表面をなぞる。
革のくたびれ具合が長い年月、アレクと一緒だったことを物語っている。
彼と一緒だった時間は、恐らくこの手帳よりも短い。
だが、彼との思い出はとても幸福なものだった。
そのどれもが日常にある些細なことだったけど・・・
昔を懐かしむように、 は手帳に向け微笑を浮かべた。

「・・・・・・」
「じゃ、確かに伝えたぜ」

そう言い残し、去っていく背中に は視線を上げた。

「クロス」

振り返り、交差する視線。
まさか、こんな奴に感謝に近い感情を抱く日が来るなんて・・・
世界の破滅が来ようが、あり得ないと思っていたのに。

「あんたが義理堅い性格だったなんて驚いたわ」

知り合って10年。顔を会わせても会話らしい会話などは少ないが、付き合いは長い。
それ故にやはり素直に言葉には現せない。
だから、これが今の精一杯。
驚き顔のクロスだったが、すぐにいつものこちらを食ったような笑みを浮かべた。

「惚れたか?」
「銀河系が消えてもありえない」

・・・やっぱりこういう奴か。
そして、クロスがドアノブに手をかけ出て行こうとした。
その時、

「ああ、言い忘れてた」
「?」

振り返り、クロスはいつものあの、腹立たしい笑みを向けた。

「俺、中央庁から鴉の監視もついててな。
今の話、もしかしたら筒抜けだったかもしれねぇわ」
「・・・・・・は?・・・・・・」
「手帳の話もそういやぁ、中央庁に言ってたような気がしたな。
いやぁ、うっかりしてたぜ」

ガリガリと頭を掻くクロス。それに は目を瞬かせる。
が、脳内ではものすごいスピードで事態の処理が進んでいた。

「・・・・・・」

これは・・・あれか?
中央庁の総本山であるヴァチカンの耳に届くのも時間の問題ってことか?
ってか、そもそも自分に監視がついてるって普通、忘れるか?いや、忘れないよな。
組み上がっていく推理。
そして、今までの経験による裏付け。
今まで機能停止状態の は、空中に手をかざした。

「・・・弦月ーー」

薄暗い部屋に、光が集まり出す。

「おいおい、悪かったっつってんだろ」
ーーニヤリーー

その笑いに結論が出た。こいつ、確信犯だ!!

「〜〜〜っ!Maximum最大 Liberation解放!!」

眩い光が溢れ、 の手には身の丈を越える光の弓が現れる。
ふつふつと腹の底から煮えたぎる感情が突き上げてくる。
そして弦に指を添え、 は怒りに任せ引き絞り、叫んだ。

「こんのぉ、人でなし!単細胞からやり直せ!!」
「なんだ、怒ったのか?」
「っ!地獄に堕ちろ!!紅時雨ぇ!!!」
「なっ!場所をーー」
ーードゴォーーーンッ!!!ーー














































>余談
ーードゴォーーーンッ!!!ーー
「なんだ!またAKUMAか!?」
「た、大変です!!エクソシストが暴れまわっています!」
「何ぃっ!?」






Next
Back

2013.9.30