(「くっそ〜、本部の医療班は大袈裟だから嫌だっつったのに・・・」)
今度は2週間の安静だと?私を殺す気かなのか?そうか、そうなんだな。
ちっくしょー・・・
「帰ったらバクの盗撮写真、燃やしてやる・・・」
ーー本部強襲、いろいろ面倒なのでいろいろお断りーー
江戸に潜入したエクソシストが帰還した。
そこには、アジア支部所属の
の姿もあった。
だが治療を受けて早々、
は病室を飛び出し追っ手(医療班)から逃げ回っていた。
(「クロスの阿呆は中央庁の監視付で聞きたい事も聞けないっつーのに・・・」)
帰還より、一週間。
方舟での記憶がすっぽりと抜けている部分を確かめようとしたが、その時は映像を記録するゴーレムはその場にいなかった。
だからクロスの知ってる事を吐かせたいというのに・・・
苛立ちが募るが、それに拍車をかけているのが、本部内の至る所に中央庁の関係者がいる事。
さらにさらにここに来て、あのルベリエから直々に諮問を受けた。
方舟を操るところを見ていたのだろう?から始まり、14番目の関係者なのか?奏者の資格の意味を知っているのか?果てはノアの手先なのでは?etc...
それが終われば今度はアジア支部襲撃時の話まで持ち出され、手引きしたのはお前なんじゃとまで言われる始末。
こちらを上から下まで見やがった奴の顔が思い出され、
は無意識に発動した弦月を怒りのままに修練場の壁に振りかぶった。
「・・・んなこと知るかぁ!てめぇの後頭部の方がよっぽどハゲ疑惑だってんだ!
このちょび髭ハゲがあぁぁっ!」
ーードゴガアァァァン!!!ーー
壁は見るも無惨に崩壊した。風の流れを感じる事ができる所を見ると、屋外に通じたか。
修繕費が大変だな、頑張れよコムイ(酷)
ざわざわと騒ぎ出す声が聞こえるが、知った事か。こっちはまだ虫の居所が悪い。
AKUMAの相手をするより、味方であるはずの人間の相手との反りがこうも合わないとは笑える。
無関係な証拠を出せ?こんな軟禁まがいな事をされてる中、どう証拠を示せと言うのだ。
馬鹿馬鹿しい。
こうなったら、何か憂さ晴らしをせねば。
自棄食いか?衝動買いか?不貞寝か?
戦場に身を置いていると、これくらいしか憂さ晴らしが思い浮かばない。
(「フォーがいれば、半日くらいは修練に付き合ってくれるのになぁ・・・」)
生憎と、ここは黒の教団本部。
それにバクから話を聞けば、アジア支部襲撃の際、フォーも深手を負ったそうだからまだ回復には時間もかかるだろう。
無断でアジア支部に戻ろうにも、ゲートには厳しい監視が付いている上、バクが本部に留まっている以上、命令があれば戻る事もできない。
それがまた余計に腹立たしい・・・
「あ"ー、もう食堂!食堂行く!」
誰に言うでもなく
は叫ぶと、歩き出した。
その時、押し付けられた渡されたゴーレムがアラートを発した。
『敵襲!第五研究所にアクマ出現!
元帥及び以下のエクソシストは至急方舟第3ゲートのある間へ!』
その連絡に、ナイスタイミングだとばかりに
の表情が凶悪に歪んだ。
第3ゲートに行くとそこにはすでに呼び出された元帥メンバーが揃っていた。
勿論、苛立ちの一因である男の姿もある。
「遅い登場だな」
「お前は後衛だとよ、
」
「・・・・・・(二人共無視)コムイ、私は?」
マスクのソカロ元帥と、タバコを咥えるクロスを、目の前にないものとした
がコムイに訊ねる。
いつもなら冗談の一つも言うコムイだが、状況が悪いのが一目で分かるほど余裕のない声で返してきた。
「君はティエドール元帥と組んで科学班の救助、ならびに第3ゲートをAKUMA達から守って欲しい」
「分かったわ」
バディーとなることになったフロアと話すべく
は歩き出す。
するとその傍にいた、
が尊敬して止まない女性が声をかけた。
「
、もう動いていいのか?」
「はいv勿論です、クラウド元帥v」
「そうか、無理はするなよ?」
「クラウド元帥に心配いただけるなんて光栄です!ありがとうございますっv」
あぁ、僅かだが心が洗われる。幸福な一時だ。
と、
「ふん、憂さ晴らしにちょうど良いくらいにしか思ってねぇだろうがな」
ーーゲシッ!ーー
ぶち壊された腹いせに、
はクロスを蹴り飛ばした。
方舟を使用し、
も第五研究所に降り立った。
先に向かったフロアの連絡で、大量の応急処置の道具を持った
は、倒れている科学班が負わされた怪我に顔をしかめた。
「・・・えげつないことを・・・」
多くが体幹を貫かれている。
かろうじて致命傷ではないが、このまま止血しなければ失血死だ。
頭を打っている者も多い。一刻も早く専門の医者の手が必要なのは明白だった。
「本当は君も行きたいんじゃないのかな?」
「元帥が3人も行ってるのに無用でしょう。それにコムイからも言われたし、こっちの方が手間かかりそうですし」
フラウからの問いかけに答えながら、
は処置する手を動かし続ける。
そう、自分も行けるなら行ってもいい。
むしろそれ目当てで来たようなものだし。
だが作戦である以上、従うべきだとも分かっていた。その辺の意味が分からないほど餓鬼ではない。
だが・・・
「あー・・・でもクラウド元帥の戦いぶりは拝見したいかもv」
「相変わらず彼女にだけは惚れ込んでるね、
ちゃん」
鮮やかで美しい戦闘スタイルを思い描いていた所に、フロアから何か言われた。
この人との付き合いは長い。だからそれなりの仲なのだが、どれだけ言っても聞く耳を持たない。
マリから諦めろと言われているが、誰が諦めるか。
「・・・その気っ色悪い呼び方、なんとかなりません?私、貴方の弟子と違うんですが?」
「似たようなものじゃないか」
「似てません」
「なんなら、弟子になるかね?」
「断固としてお断りです」
「連れないね〜。ユー君とマー君と一緒で何が不満なんだい?」
あんただ、あんた。
それぐらい察せよ、元帥だろうが。
「教えてもらうことなどありませんから」
「じゃあ、早く元帥になったらどうだい?」
・・・どうしてその事知ってるんですか?
なんて言ったら、その条件を満たしている事を暗に肯定してしまうことになる。
これ以上、面倒事を抱えるのなんかゴメンだ。
はシラを切り通す事にした。
「弟子なんて取りたかないですしー、仕事と責任だけ増えるなんてお断りなんでー。
それにー、それは臨界者に言うべき台詞であってー、私に向けられるのはお門違いなんですよねー」
「そうか、じゃあこれはリー室長にーー」
「バラしたら許しませんよ?」
結局、バレてしまった。
まぁ、ぺらぺら口の軽い奴に知られなかっただけマシと思うしかないか。
応急処置に使う道具はあっという間に底をついた。
もう出血を止めるぐらいしかできなくなってきている。
たまらず
は悪態を吐いた。
「これじゃ、応急処置らしい処置なんーー」
ーーキィィィィーーーン!!!ーー
「ぐっ!」
突如襲われた、甲高い音。
まるで脳を揺さぶられたそれに、吐き気が込み上げる。
こんな状況でこんな芸当ができる奴など、限られている。
「ちっ!」
は弦月を発動させ、臨戦態勢を整える。
そして、もっと周囲を警戒しようと膝に力を入れた。
が、
(「やば、立てない・・・」)
平衡感覚をやられてる。これでは、咄嗟の対応ができない。
だが、事態はもっと悪かった。
は視線の先に教団屈指の防御力をもつ庭の発動が目に見えて解除しかかっているのが見えたのだ。
「フロア元帥、抱擁ノ庭
が・・・」
「・・・ああ、めまいで・・・シンクロ率、が・・・」
『そこにたくさんいますね』
突如、上から現れたモノ。まるで天使を模した姿。
こんなモノ、見た事がない。
だが、このタイミングで現れるのは・・・
「AKUMA!」
「きっ、貴様・・・!」
動けないこちらを見下ろしていたAKUMAが嗤い、腕を振り上げる。
その先の意味を察した
は血の気が引き、無意識に叫んだ。
(「まずい!こいつ、床を!?」)
「元帥、発動をーー」
ーーゴガガガガアン!!!ーー
どれほど時間が経った?
米神を伝う血が乾いてないところをみると、さほど長い時間気を失ってはないはずだ。
「っ〜〜〜・・・」
まるでハンマーで横殴りされたように頭が痛い。
起き上がるのも一苦労だ。
だが、身体はまだ動く。沸き上がる黒い感情に
は呪詛を吐いた。
「あんのAKUMA・・・潰す・・・」
「その前にこっちを手伝って欲しいんだけどね」
の黒いオーラをものともせず、いつも通りの声がかけられた。
振り返ってみると、科学班に止血処置をするフロアをの姿があった。
だが、怒りの収まらない
は取り合おうとしない。
「お断ーー」
「僕だけじゃ、手が足りない。応急処置を済ませないと、被害が広がるよ?」
「・・・」
尤もな事を言われ、
は口を噤む。
だが、このまま苛立ちを科学班に向けてしまったらどうしよう?
「元帥3人で十分だと言ったのは君だろう、
?」
「・・・・・・はぁ・・・」
トドメとばかりに自分が言った事を引き合いに出される。
これでは諦めざるを得ない。
AKUMAの追撃をひとまず横に起き、
は自分の任務をせっせと開始した。
その手を動かしながら、フロアへと話を振る。
「初めて見たタイプでした。もしやあれはLv.4なんじゃないですか?」
「その可能性はあるね。でも臨界者を含め4人もいる。今は彼らを信じよう」
彼ら?
えーと、クラウド元帥でしょ、殺人狂でしょ、臨界者らしいエノキ少年でしょ・・・
後は・・・
「・・・私、クラウド元帥は信じる事にします」
他は知らない。ってか、興味ないし。
>余談
「そういえば、あの臨界者の師匠って誰なんです?」
「随分、今更だね・・・」
「だって、関心なかったですし」
「マリアンだよ」
「・・・・・・いけない、いけない。頭を打った衝撃で耳がおかしくなっちゃったみたい。
今、とっても耳汚しのフレーズを聞いたような気がしちゃった。
で、誰ですって?」
「だから、クロス・マリアンの弟子だよ。アレン・ウォーカーは」
「・・・・・・」
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2013.9.30