波間を漂う浮遊間に包まれているようだ。
とても居心地のいいそこを抜け、やっと目を開ければ視界を埋めたのは、赤。
「よぉ、目ぇ覚ーー」
ーーバギッ!ーー
「ぐはっ!」
頬を押さえ、悶えるクロス。
対し、拳を握りぽけ〜としていた はむっくりと起き上がった。
ーー気が付いてみたら、終わってたなんてダサい落ち・・・ーー
「・・・あれ?なんか、妙に胸がス〜っと・・・」
「 、てめぇ・・・」
ドスの利いた声に、ようやく はこの場に自分以外の人物がいる事に気付いた。
「げっ・・・なんであんたがここに居んのよ」
(「こいつ、無意識で殴りやがったのか・・・」)
ひく、と顔が引き攣るクロス。
だがここで黙るなんぞ冗談じゃない、とクロスはタバコを片手に立ち上がった。
「ご挨拶じゃねぇか。わざわざ介抱してやったってのによ」
恩を着せるようにクロスが言えば、 は鼻で笑った。
「は?冗談でしょ、私があんたなんかに介抱・・・」
そう言いながら は視線を落とした。
すると飛び込んできたのは胸元が結構かなり 大胆にはだけ、団服ももう服と呼び難い代物にかわっている光景。
の纏う空気が超特急で降下していく。
「クロス、あんたって奴は・・・」
ふるふると肩を震わせる。
その様子に、やっと分かったか、とばかりにクロスは口角を上げた。
「なんだ、礼ならーー」
「この人間のクズがぁっ!」
今まで倒れていた人物とは思えない、機敏な動きで回し蹴りが炸裂する。
異様な空気の唸りが、その威力を物語る。
しかし、それをひらりとクロスは避けた。
肩で息を吐くは、代わりとばかりにかけられていた白い布を体に巻きつける。
「おいおい、そっちの方がエロいだろ」
「黙れ色情魔、今日こそ殺す!」
殺気を爆発させ、は弦月を発動させようとする。
それを冷めた視線で返したクロスは、ぷはーと煙を吐き出した。
「勝手に勘違いしてんじゃねぇよ、やったのは千年伯爵だぜ?」
「!」
その言葉にはピタリと動きを止めた。
朧げな記憶がゆっくりと繋がっていく。
「そ、だ・・・私・・・」
貫かれたはずの胸に手をあてれば、血の跡はあっても既にそこに傷はない。
さらに他にも負っている身に覚えのない怪我。
甦る、数日前の記憶。
「私、また何を・・・」
「ま、それは後々分かる」
事情を知った風のその台詞に、はぴくりと動きを再開させた。
そして、射殺せる視線をクロスに突き刺す。
「・・・知ってる事、全部吐け」
「それが人に物を頼む態度かよ」
ーーカチンーー
「どの口がほざくのかしら?」
ここは実力行使、とばかりに腕をまくりながらはクロスに近づく。
しかし、クロスは寛ぎモード全開でタバコを吹かしている。
「まぁ、今は休んどけ」
「あんたの指図はーー」
ーーカクンッーー
その時、膝から崩れるようには体勢を崩した。
自分の身に突然起こった事に、理解が追いつかず驚きを隠せない。
「なっ・・・」
「ほーれ、言わん事か。身体がおっついてねぇんだ、黙って寝てろ」
「誰が・・・」
「馬鹿弟子が本部と方舟のゲートを接続してる。
まともに動けるようになったら教えてやるよ」
話の主導権を全て握られてしまった事に、はこれでもかと歯軋りをする。
そして、僅かばかりの抵抗と口を開いた。
「・・・本部には顔を出す義理はないわ」
「アジア支部長の指示だとよ」
「あんのハゲ・・・」
しかしあっけなく崩れた事に、帰ったらバクに徹底的に嫌がらせをしてやると決めたであった。
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2013.9.30