もう何合重ねたか分からない。
こちらも大した傷を負っていないが、それは向こうも同じだった。
ーー加速する狂想曲ーー
「ったく、デブのくせにちょこまかと・・・」
「おやおや、暴言ですネェ〜v」
肩で息をつく
に伯爵は、可愛くもない小首を傾げてくる。
苛立つ仕草だ。
だが、瞬く間に間合いを詰めてきた。
ーーガギィーーーン!ーー
「ちぃっ!」
振り下ろされた伯爵の剣を、交差した双剣で受け止める
。
ミシッと、腕が軋む。
(「やっぱ体格差がある以上、接近戦は不利か・・・」)
「この、メタボデブが・・・」
「口が悪いですネv」
間近になった伯爵に罵声を浴びせた
は、双剣の背を蹴飛ばしすぐに伯爵と距離を取る。
そして一つ息を吐き、呼吸を整えた。
「弦月、Maximum Liberation
その言葉に呼応するように、弦月が光り出す。
それを見ていた伯爵は面白いものを見るように楽しげに、仇を恨むように憎々しげに言った。
「まだ形を変えますカv」
「何度だってやってやるわよ。あんたを倒すまでならね」
双剣が再び一つに戻り、それが身の丈を超える弓に変わる。
重さなどないようなそれを軽々と構えた
は伯爵に狙いをつけ、弦を引いた。
「避けれるもんなら、避けてみなさいよ」
「面白イv」
「焼き尽くせ・・・紅時雨!」
手が放された瞬間、深紅の光が一気に伯爵に襲いかかった。
辺りに巻き起こる爆風と爆炎。
久々に使った。加減ができなかったか・・・
しかし、あのデブに加減してやる必要もない。
(「どこだ・・・まだ近くにいるはず・・・」)
手応えがあった気はしていない。
だが、この最大解放形態の弦月の攻撃は、
の意志通りに動き、確実に敵に当たるまで逃さない(どこぞの奴と同じような性能なことが腹立たしい)
それなりなダメージにはなっているはずだ。
伯爵の気配る。
と、僅かに空気を裂く音に
は弦月を構えた。
ーードッ!ーー
「っ!」
まるで弦月を避けるように、何かが視界を掠めた。
身体を打つ衝撃がに
は視線を下げる。
そこにあったのは胸を貫くような黒く細い糸のようなもの。せりあがる鉄臭。
「・・・ちっ・・・」
(「ダークマターか!」)
弦月で払えば、それはあっけなく砕けた。
しかし傷口は小さいはずだが、どういう原理か出血が止まらない。
ふらつきそうになるが、意地で倒れる事だけは防ぐ。
(「くそっ、視界が・・・」)
だが、おびただしいそれについに
は膝をついた。
そして、目の前にはふざけた格好をした伯爵の姿。
「おや、しぶとイv」
「半殺し、なんて・・・いい趣味、ね・・・」
やはり、病み上がりであることに変わりはなかったか。
だがそんなことはどうでもいい。
こいつが知っている事を吐かせて、訳の分からない苛立ちから抜け出してやる。
立ち上がろうと、
は床に手をついた。
ーーピチャッ・・・ーー
そこには自分から流れ出た血溜り。
だんだん広がっていくそれに、視線を逸らせない。
まるで・・・
「・・・な、に・・・・・・?」
壊れかけたテレビのように再生される、とぎれとぎれの記憶。
そう、まるで・・・
ーーあの時のように・・・ーー
与えられた使命。
世界が壊れる悲しみ。
離反の覚悟。
流れる血。
守ると決めた決意。
そして、あの人の愛おしい・・・
「・・・っ!・・・・・・ダ・・・メ・・・」
駄目だ。
これ以上、踏み越えればきっと戻ってこれない。
・・・戻ってこれない?
「お前・・・いや、貴女ハ・・・」
動揺する伯爵の声が遠い。
そして視界が白に塗り潰されていく。
そして、
『神の御使いである我に弓を引くか・・・
痴れ者が』
口が勝手に動いた。
自分が言ったはずのそれは聞いたこともない響きを持つ。
それなのにどうしてか意味が分かった。
身体が自分の意志とは無関係な所で動かされる。
先ほどまで立つ事すら難しかったのに、
の身体は難なく立ち上がり、再び伯爵と対峙した。
違うのは全身、光に包まれていること。
『Seal Adhara』
その言葉に、まるで薄いガラスが割れる音が聞こえた。
そして、
の背中に光が集まると、それは徐々に形を変えていく。
間を置かず、
は手を横に掲げた。
『Ultimate Liberation
』
光が剣の形となる。
双剣とは全く違う、身の丈の大きさはある一振りの剣。
そして
の姿がふっ、と消えた。
瞬間、
「!」
ーーギィーーーン!!ーー
伯爵が剣を構えれば、
が振り下ろした剣を辛うじて受け止めた。
「やはり・・・やはり、貴女ハーー」
『我には成さねばならぬ事がある、阻むな らばーー』
ーーガキーーーン!ーー
「おヤv」
伯爵を弾き飛ばした
は剣先を伯爵に向けた。
『Condemn sanctuary
』
ーードゴォーーーンッ!!ーー
体勢を崩した伯爵に容赦ない斬撃が襲いかかる。
『ーー塵と化せ』
もうもうと煙が立ちこめる。
の放った攻撃によって、先ほどまであった地面が融解していた。
その先には暗闇。ここが現実の次元とは違う事を示している。
「もう、時間がありませんネv」
周りの空間がガラガラと崩落する中、伯爵は突如現れたチェック柄のファンシーな扉へと姿を消した。
それを佇んだまま見送った
は、
『逃すか・・・』
そう呟けば、 の背後に光の翼が広がった。
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2013.9.29