晩餐の場を共にすることになった
。
しかし、大ボスを目の前にそんな悠長な事などする訳もなく、警戒を怠る事なく向こうの出方を待った。
ーー動き出す開幕曲ーー
「では、食事も終わった事ですシ、少しお話しましョウv」
小指を立ててティーカップを持つ伯爵に、
は眉根を寄せた。
「話?悪の親玉と何を話すっていうのかしら?」
「連れないねぇ〜、こっちは紳士的に礼儀を払ってんだがな」
割り込んできたティキの言葉に、
は伯爵から視線を逸らさぬまま言い返した。
「へぇ〜、淑女の身体に腕を突っ込んでくるのが紳士的礼儀って言うのね。覚えておかなくちゃ」
「うっ・・・」
「きゃははは!ティッキーが言い負かされてる〜」
椅子の上で足をばたつかせたロードが笑い転げる。
こらこら、パンツが丸見えだ。敵だが突っ込まざるを得ない事をさせないでくれ。
警戒を緩めない
の視線が伯爵に突き刺さる。
そしてようやく、伯爵はソーサーにカップを置いた。
「貴女も知りたいのではありませんカ?自分自身の正体ヲv」
「あら、知りたいのはそっちでしょ?どこまで掴んでるのか判断してやるわよ?」
カマをかける
は余裕顔で切り返す。しかし、伯爵はそれに乗ってこなかった。
「ノアが殺戮衝動を抑えられたそうでスvそんな事ができるのは、我輩は一人しか知りませンv」
「なら誰だって言うのかしら?」
「それを貴女は知っているのですカ?」
まるで押し問答。
これ以上は時間の無駄だ、
はもう付き合いきれないとばかりに鼻を鳴らした。
「教える義理はーー!」
突如、不穏な気配に
はその場から飛び退る。
が、それは立て続く。
回避しながら視界の端に捕らえたのは、トランプ。
頬から何かが垂れた。避けたと思った一枚が肌を割いたか・・・
と、目の前にあの姿が現れた。
(「いつの間に!」)
距離を置こうとした
より早く、伯爵の手が
を捕らえた。
ーードンッ!ーー
(「また首かよ!」)
壁に縫い止められた
は毒づく。
またあの時と同じような状況か、冗談じゃない。
「お前は自分の正体を知っているのカ?」
間近にある伯爵の顔。こんなの、アップで見るのはごめんだ。
の手に光が集まり出す。
「聞きたきゃ・・・ーー」
「!」
ーーザンッ!ーー
が発動した弦月を振れば、伯爵は軽やかにそれを避ける。
そして、解放された
は体勢を立て直した。
「ーー力尽くでやってみれば?」
頬に垂れる血を指の腹で拭った
は不敵に笑い、対峙した伯爵も残忍に笑った。
晩餐の空間に対峙する二人。
と、先ほどまでこの場にいたはずのティキとロードの姿はいつの間にか消えていた。
「外野が消えたわね。どこに隠したのかしら?」
「お散歩ですヨv」
「そりゃ、舐められてるわねぇ。私も・・・」
この部屋に出口らしい扉はない。
ということは、ノアの能力で消えたと考えるのが妥当だろう。
ティキの能力は知っている。ならあの少女、空間でも操れる能力を持っているということか?
「まぁいいわ。そっちが知ってる事、洗いざらい吐いてもらう」
「無駄なことヲv」
「その減らず口、すぐに聞けなくしてやるわ」
強気を崩さない
に、伯爵は再び小首を傾げる。
だから、可愛くないんだよ・・・
「我輩を倒すと?愚かナv
たかがエクソシスト一人に何ができるというのでスv?」
小馬鹿にするその台詞に、
も劣らず嘲笑を浮かべた。
「今までどんな私の情報を集めてるか知らないけどね・・・」
手にした弦月を地面と平行に構えた
はくるりと腕を交差させる。
そして、伯爵に言い放った。
「臨界者、舐めんじゃないわよ」
その台詞に、僅かに伯爵の動きが止まった。
同時に、
から厳かな言の葉が紡がれる。
「弦月、3rd liberation
ーー」
光の弓が形を変えていく。
そして、それは
の両手にそれぞれ集まる。
現れたのは、二振りの双剣。
「ーー二翼の審判」
交差を解けば、空気を裂く鋭い音。
それを見ていた伯爵は、面白いものを見たとばかりににぃぃ、と笑った。
「おヤv」
「その腹、三枚におろしてスッキリさせてやるわ」
言い捨てた
は、地を蹴った。
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2013.9.29