『どうだい、方舟には入れた?』
耳元からの声に、は徐々に開けてきた視界に声を上げた。
ーーちょっと・・・何気に素敵なところじゃないーー
「ぅおっと、意外な光景・・・」
思わず心情を口にしてしまった。コムイもそれを聞いたのだろう。
普段はそんなリアクションを取らないに幾分、焦った声が返ってきた。
『ど、どうしたの!?』
「いや、中に入れたっぽいけど・・・思いがけない風景にちょっとびっくり」
『何が見えるんだい?』
コムからの問いかけに、は周囲を見回して答えた。
一面、白い建物。上は底抜けに広がる青空。
傍目に見てればとても美しい所だが、生き物の気配だけが排除されたそこは不気味と言えた。
「んー、地中海にある白造りの街並み、それがずらりと・・・」
『なるほど、じゃあアレン君と同じだね。身体は大丈夫かい?』
「問題ない。進むわ」
はレンガ造りの街道を歩き始める。
だが、行けども行けども誰にも会わない。これでは道を尋ねようもない。
ゴーレムはこちらと付かず離れずの前を飛んでいるだけ。
と、ようやく蝶が今までと違う動きを見せた。
ひらひらと高度を下げると、あるドアの手すりにそれが止まった。
「なんか、見つけたんだけど・・・」
『なんだい?』
「ドアに張り紙があるの」
『張り紙?』
「welcome to exorcist Ms.・」
張り紙の内容を読み上げれば、コムイは暫し黙する。
『罠、かな・・・』
「そうだとしても、ここは乗るべきでしょ」
道は前にある。何が待ち構えていようと、今は進むしかない。
ドアノブに手を伸ばすと、蝶はそれを待ち構えるように羽を動かす。
その時、
『気を付けるんだよ、ちゃん』
通信機から届いた言葉に、の動きがぴたりと止まった。
そして、渋い表情が浮かぶ。
今、相手に見せつけてられないのが、本当に悔やまれる。
「そのちゃん付け、いい加減やめくんない?前にも同じ事言った覚えがあるんだけど?」
『そうだね、本部にきちんと検査に来てくれたら考えてあげる』
「あっそ」
なら、改められるのは相当な先になりそうだ。ここは諦めよう。
「開けるわ」
『うん』
そう言ってドアノブに手をかける。
すると蝶はひらひらと飛ぶと、と同じ顔の高さで羽ばたく。
そして、は無線機越しでも身構えているようなコムイに呟いた。
「じゃあね、コムイ」
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2013.9.29