所変わり、辺りはファンシーな空間。
柔らかそうなソファには一人の男と一人の少女。
何故か、男の身体には包帯が巻かれていた。



















































ーー水面下で紡がれる序曲ーー


















































一人、不器用に包帯を巻き直すティキに、背もたれに腹這いになった少女ロードが、ころころと笑って見下ろしていた。

「ティッキーがこんなに怪我して帰ってくるなんて珍しくない?誰にやられたの?」
「エクソシストだよ・・・いてっ!おい、突くな!
「ごっめ〜ん」

くすくすと笑うロードに、不満顔のティキ。
じくじくと痛むそれを紛らわすようにタバコに手を伸ばす。
そして、対面。
自身が座るソファーより一回り大きなそれに座って編み物をしている伯爵にティキが訊ねた。

「なぁ、千年公」
「なんですカv?」
「俺ら、ノアが逆らえない存在なんていんすか?」

馬鹿馬鹿しいと思いながらも、ストレートに聞いてみれば伯爵の手が止まる。
暫くして、可愛くもない仕草で小首を傾げてみせると、

「そうですネ〜、居ますヨv」
ーーポロッーー

咥えていたタバコが落ちた。
火を付ける前で良かった。

「・・・マジで?」
「マジでスv」

信じられない、そんな奴がいるとは。

「ですが、それは7000年以上も昔話ですヨv」

今現実にはありえない、と遠回しに言われる。
だが、ティキは落ちたタバコを拾うと落ち着かせるように、目一杯、煙を吸い込んで吐き出した。

(「なら、あれは・・・」)

そう、自分がここまでの傷を負わされる羽目になったのはどういうことだ?
殺したくて仕方ないと思ったあの狂喜が失せたのは・・・

(「・・・あれ?そういえば、あいつ装備型なのになんで殴れたんだ?」)

一人、思考に没していたティキだったが、伯爵は再び編み物を再開しながら問うた。

「ティキぽんをボロボロにしたエクソシストはどんな奴でしたカv?」
「まぁ、普通のエクソシストよか強かったっすけど・・・」
「へぇ〜、どんな子ぉ〜」

それまで二人の会話を聞いていたロードがティキの首に絡み付く。
傷に響いたが、それを言うのも男としてどうかと思い文句を呑み込む。
そして、その時のことを話し始めた。

「まぁ、最初に会ったのは千年公の使いん時だな。立ち振る舞いからダンスのステップまで完璧。
どこぞの貴族かと思えば、単なる変装。おまけにとんだ食わせんもんだ」
「ダンス?ってことは、相手は女なんだぁ〜」
「・・・まぁな・・・」

はぐらかそうと思ったのに、簡単に見破られてしまった。
例えが悪かったか・・・

「でもぉ、ただのエクソシストだったんでしょぉ?どうしてティッキーがやられちゃった訳?」

元帥でもないのにぃ、と耳元で楽しげにロードが呟く。
それを聞いたティキは、憮然とした表情に変わった。

「殺したはずなんだよ、確かにな」
「じゃぁその怪我は?」

ロードがすぐに問い返せば、ティキは苦虫を噛潰した表情を浮かべる。

「そいつが・・・殺したはずのあいつが、まるで別人みたいになりやがったんだ。
イノセンスみてぇに光ったかと思えば、俺に言ったんだ」
「言ったって何を〜?」
「・・・知らねぇ」
「は?」

話の筋が通ってない事に、ロードは疑問符を返す。
ティキ自身も自分の言っている矛盾を理解しているのか、頭をガシガシと掻いた。

「言葉は分からなかった。でも、意味は不思議と理解できた。
あー、『我に弓を引くか、汝の立場すら忘失する愚か者が』とかなんとか・・・」
「それって言葉、分かってるってことじゃないの?」
「いや、それが聞いたこともねぇ言葉だったんだよ。
・・・でも、妙に懐かしい感じもしたような・・・」

記憶を辿るが、やはり言葉は分からないのは確かで。
自分に学がないことも分かっているので、英語以外の言語を理解している覚えもない。

「で、その後だよ。
今までとは比べ物にならねぇ力で、今まで中長距離戦しかしなかった奴が接近戦仕掛けてきたんだぜ?
しかも、イノセンスの弓を剣に変える芸当まで見せやがった。
さっきまで死にかけてた奴ができる芸当かよ。おかげでこっちはこの様。
ただ、気になったのは・・・」

そこでふとティキは口を噤んだ。
この先は言っていいものなのか?ここにいる二人に言えば、バカにでもされそうな気がする。
だが、不可解すぎると感じているのも事実。

「なになに?気になったのは?」
「ああ・・・
奴の首を掴んだつーか、触れた時、エクソシストを殺したい衝動が収まっていったんだよ・・・」

それがどうにも解せないんだよなぁ、とティキは呟く。
ティキの話を聞いたロードもふ〜ん、と興味あるのかないのか分からない反応だ。
と、それを今まで黙って聞いていた伯爵が口を開いた。

「ティキぽんv」
「・・・その呼び方、いい加減やめてくださいよ」

本気で嫌なのだが。
この歳でその呼称はちょっと、いろんなことを疑われそうだ。
だがティキの心情などお構いなしに、伯爵は続ける。

「そのエクソシスト、気になりますネ〜
こちらの準備が整ったら、江戸に招待しましょウv」
「?そりゃぁ、千年公が言うなら・・・」
「じゃぁその子に会えるんだねぇ〜。ちょっと見てみたいかも〜」

はしゃぐロードの一方で、ティキは微妙な表情を浮かべる。
借りを返せるのは大歓迎だ。向こうはエクソシストなんだから、殺す事になんら抵抗はない。
が、再び顔を会わせたら、なんかめちゃくちゃな暴言やら言い負かされそうな予感がする。

(「口では勝てる気が全くしなかったもんなぁ・・・」)

ははは〜、乾いた笑みが思わずティキから零れた。
一方、編み物の手を動かし続けている伯爵は、

「不確定要素は潰しておかねバv」

一人独白し、にぃぃとその口元を歪めた。


































>余談
「ところで千年公、何編んでんすか?」
「マフラーですヨv」
「マフラー?誰の?」
「家族みんなの首に巻けるようにするんだってさぁ〜」
「・・・どんだけ長いの?ってか、いつできんだよ・・・」






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2013.9.24