ミランダの手を借りながら(余計な手間となったのは言うまでもないが)手当を終え、汽車に揺られる事、数時間。
潮の香りが目的に到着した事を告げた。


























































ーー身の毛のよだつ事言われたから制裁してみたーー


















































ミランダから渡されたゴーレムでバクの話を聞けば、港に停泊していたサポーターの船が襲撃を受けた。
昨日の襲撃は、咎落ちしたエクソシストを狙って、千年伯爵が大量にAKUMAを送り込んできたものらしい。
恐らく狙いはそのエクソシストのイノセンス・・・
そして、ちょうどその戦闘の最中に自身の帰還のタイミングとバッティングした。
こっちにしてははた迷惑極まりない話だ。

地元人から話を聞き、港に向かえばボロボロの船に集まっている人集りを見つけた。
多分、ここだ。
船は一見して、このままでは役割が果たせないのが見て取れた。

「クロス部隊のエクソシストはいる?」

疲れきった顔の水夫にが言えば、しばらくしてそれらしい人物が現れる。
それは、の記憶にある人物だった。

「あら、パンーーブックマン。ご健在でしたか」
「・・・相変わらず生意気な娘じゃ。何用だ?」

言いかけた呼び名を訂正しただが、しっかりと相手の耳には届いたようだ。
しかし、売られた喧嘩(吹っかけたのはこっちだが)には返礼が礼儀と言うもの。
相手がケガをしている事に、はにっこりと小首を傾げると、

「おやおや、お怪我をなさっているようですね〜。
寄る年並には勝てないと言う事でしょうか?
「ふん、大口叩いている貴様も手傷を負ってるようじゃな。
どうせ余裕ぶっこいって足を掬われたんじゃろ、未熟者め
「ほほほほ〜脳天の残り毛、毛根と永久の別れに導いて差し上げましょうか?」
「返り討ちにしてくれるわ」
「5年前とは違って泣きを見るのはご老体でしてよ?」

微笑ましげ(?)な舌戦をしていると、ぞろぞろと他のメンバーがやってきた。
邪魔すんじゃねぇ、とばかりには視線を移す。
すると、眼帯バンダナの青年と目が合った。
瞬間、

「ストライクッ!」
「・・・は?」

野球なんざしてないが?
疑問符を浮かべている間に、同じ黒服ローズクロスを着たメンバーが揃った。
合わせて男が3人、女が1人。
話に聞いた全員がここにいることになる。

「誰であるか?」
「わたしも初めて会うわ」

長身でマントにトサカのような髪型の男が、隣に立つ黒髪長髪の少女に訊ねる。
男の方は初めて見るが、少女の方は見たことがある。
・・・写真で、だが。
これ以上、ブックマンと応酬しても仕方ない。
はそれまでの口調を改めた。

「ま、戯れも時間の無駄。仕事で来たの。まず一つは、伝ごーー」
「じじぃ!何仲良く話してんさ!そして誰、この子?」
「黙れ、未熟もんが!」
ーーザシュッ!ーー

パンダの右ストレートが炸裂した。
しかし、眼帯には致命傷とはならなかったようで、流血しながらもに迫った。

「・・・何これ、もしかしてこれがJr.?」

迷惑顔で指を指し言い捨てる
ラビの裾を仕方なく掴んでいるブックマンに聞けば、返ってきたのは沈黙。
暗に肯定。
一人、蚊帳の外に置かれているはずの眼帯はそんな些細な事とばかりに、自分の存在をアピールしようと、勢いよく手を挙げた。

「はぁあぃ!オレ、ラビさ。よろーー」
ーーゴスッ!ーー
「ぶごッ!」

その顔に、拳がめり込む。数十メートルの距離をラビは器用に顔面で滑った。
ブックマンは巻き添えを食わぬように上手い事避けたが。(ちっ)
凶行を目撃した周囲は顔を青くする。
が、仕出かした当人は、さらっとただ一言、

「話の邪魔すんな」

それだけで締めた。
周囲がどん引きする中、脅威の回復力を見せたラビは尋常でない出血を見せながら、親指を立て、

「ふふ、そんな強気なところも、ストーーガクッ!
「ラ、ラビ!?」
「だ、大丈夫であるか!?」

息絶えた。

「躾がなってないわよ」
「あやつは病気じゃ。捨て置け」
「あっそ」

ぱんぱんと手を払うにブックマンも茶飯事だと応じる。
と、心配顔でラビの傍にいた少女と目が合った。
顔を知り噂は耳にしていても、実物に会うのは実はこれが初めてだったりする。

「貴女がリナリー・リー?」
「は、はい!」

気後れするように返事をする少女をはまじまじと見つめる。

「ふ〜ん・・・」

これがあの盗撮魔がご執心の女。
しかしあの歳にこの子では、ちょっとどうなのだろう?
確か、本部室長が兄だったはず。あのシスコンは相当だから叶わぬ片思いで終わるのが落ちか・・・

「あの・・・」
「実物の方が可愛いわね」
「は!?」
「阿呆なことをぬかすでない」
ーーゲシッーー
「痛っ」
「!」

ブックマンの足蹴りを受けたは、射殺すような視線をブックマンに返す。
それを受けた当人は、ホントびっくり〜、という表情を浮かべている。
表情は雄弁だ。
どうせ、どうしてお前ほどの奴が避けれないんだ、とでも思っているのだろう・・・
こちとらその原因が分かれば苦労しないのだ。

「・・・何すんのよ、か弱い女性に対して」
、お主ーー」
「激務で疲れてるの。少しは気遣え」
「主は年長者に敬意を払わんか」

いつものやり取りに戻ったことに、はひとまず良しとした。
ここで聞かれても説明が面倒なだけだ。
気を取り直したは、クロス部隊のエクソシストに向き直り、口を開いた。

「私はアジア支部のエクソシスト、
ここに来た目的は3つ。一つ目、まずはアジア支部長から取り急ぎの伝言。
『アレン・ウォーカーはこちらで引き取った』」
「「「!!!」」」

の言葉にブックマン以外のエクソシストに衝撃が走ったのが分かった。
その中でも一番大きな反応を見せたリナリーはに詰め寄る。

「本当ですか!?」
「ええ」
「今すぐアレン君にーー」
「話は最後まで聞いて欲しいわね」
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・」

恐縮顔で離れたリナリーに、は嘆息を一つ吐き続けた。

「『クロス部隊は任務続行。今すぐ江戸へと出航するように』」

空気が凍る。
それもそうだろう、仲間を置いて先に行けと言っているのだ。
この伝言もバクが気を遣っての言い回しだろうし。
だが、長く任務を共にしてきた彼らにとっては受け入れがたいようだった。

「そ、んな・・・」
「どうしてであるか?」

やはりブックマン以外が動揺を露にする。
このままでは話が先に進まない。

「アレン・ウォーカーとはここで別れる事になる。
それ位、察してちょうだい」

非情なまでにがきっぱりと言い切る。
すると、先ほど迫った雰囲気とは一変したラビがに詰め寄った。

「いい加減なことを言うなさ!」
「信じたくないなら駄々っ子みたいに目を逸らしていればいいわ。
私はここに仕事で来たって言ったでしょ?」
「して、その理由は?」

腕を組んでラビに言い放つにブックマンが問う。
すると、はラビの顔を押しのけ(ぐぎっと変な音がしたが気にしない)、持っていたものを投げた。

ーーぱしーー
「二つ目、それを届けに来た。どうしてアレン・ウォーカーが来れなくなったかが記録してある」

の言葉に、クロス部隊がティムの映像記録を見る。
その間には手近の空き箱に腰を下ろし、それが終わるのを待った。
自身、すでにそれを目にしていた。
何しろ、その後に自分の不可解なあの音の記録があったからだ。
頃合いを見てちらりとクロス部隊に視線を向ければ、沈み込んだ雰囲気。
これ以上再生され、自分の事を聞かれても面倒だ。
沈黙する一行には腰を上げると、ティムを掴み上げ再生を強制的に終わらせた。

「ご覧の通り。理解した?」
「「「・・・・・・」」」

の言葉に、誰も何も紡げない。
それを予想していたは気にする事なく、復活するまで手持ち無沙汰をティムを両側に引っ張ったりして紛らわす。
まるでゴムのようにそれは伸び縮みする。ホントにゴーレムか、これ?
そして再びブックマンと視線が合えば、最後はなんだ早く言え、とばかりなものだったので、はそれまで引っ張っていたティムを放した。

ーーぱんっーー
「最後。クロス部隊に追加のエクソシストをここまで連れてきたわ。
江戸には彼女も同行するらしいから後よろしく」

ここに来る前、先に船を見たいと言って別れたミランダ。
今頃、船の壊れ具合でも見ているのだろう。

「しかし、私共の船は昨夜の戦闘で酷くやられたので、今すぐにはとても・・・」

それまで口を開く事なかった、エクソシスト以外の人間が口を開いた。
擦り傷を作っているが、美しい女性だ。
その人物を暫し見つめたは、

(「あいつが手ぇ出しそうなタイプ・・・」)

僅かに眉間に皺が寄る。
・・・あぁ、考えたくもない奴の事で自分の脳内スペースを使ってしまった。
それをどう受け取ったのか、向こうは僅かに身を固くする。
すると付き人だろうスキンヘッドの女性(だろうなきっと)がこちらに向ける視線を険しくした。
おいおい、変な勘ぐりは止めて欲しい。
こちらは嫌な奴を思い出して条件反射で顔に出ただけなのだ。

「天青楼の主人、アニタ氏ですね?」

の言葉に、アニタと呼ばれた女性は僅かに目を見張った。
反応からして、ビンゴだろう。

「はい」
「支部長より話は聞いてます、船の件なら彼女がなんとかしてくれるのでご心配なく」

そう言って、は船の方に視線を投じれば、ちょうど船を見終えたようなミランダが現れた。
一通りの説明は終えたので、これで仕事は終わりだ。
後はミランダに任せると、は踵を返そうとした時、ミランダが駆け寄った。

「あ、ありがとうございました。さん」
「これも仕事。じゃ、確かに済ませたから」
「待つさ!あんたは来ないんさ!?」

引き止めるようなラビの問いに、は呆れたように振り返った。

「Jr.の耳は飾り?それともその頭は空?ここには仕事に来ただけだっつてんでしょ」

だが、それだけで終わらせるのも癪で、ここまでの疲労度合いと苛立ちも手伝って、ビシッとラビの眼前に指を突きつけた。

「それにこっちは中東の境からとんぼ返りの上、昨日から戦いっぱなし。で、アジアに入ったら入ったで
尋常でない数のAKUMAを一人で捌く羽目になって、支部に報告も済んでない訳、お分かり?」
「・・・う、うっす・・・」

汗をかきながら身を引き、ラビはホールドアップする。
それにほんの僅かだけ溜飲が下がったが、この部隊に同行することが何を意味するか分かっているは続けた。

「そもそも、あんな人間の風上にも置けない歩く卑猥物探すのにどうして、この私が、わざわざ、協力しなきゃなんない訳?冗談じゃないわ」

一言一言、区切って強調して言い捨てる。
もう誰もが何も言えない中、リナリーがおずおずと申し出た。

「で、でも・・・元帥が乗ってた船が・・・」
「はぁ?あのエセ聖職者がそんなんで死ぬ奴なら、とっくの昔に私が殺してるわ」
「「「「・・・」」」」

の発言に、周囲はしーん、と静まり返る。
それを傍で聞いていたラビは、思わず口をついた言葉を声にしてしまった。

ってば、クロス元帥を信頼しーーガシッ!ーーんあっ!?

瞬間、顎を掴まれたラビ。
至近距離にあるの顔に、僅かに顔が染まるラビだったが・・・

「おぞましいこと言ってんじゃないわよ。その口、剃り落とすわよ?」
「ふぉめんなふぁい・・・」

絶対零度の笑顔に青くなった。
全てを凍らせるブリザート絶賛発動中のに、ブックマンは話を変えるように話題を振った。

「一人でAKUMAを倒したそうじゃがどれほど捌いたんじゃ?」

それを横目で受けたは、掴んでいたラビをぱっと放した。

「さぁ?3桁超えた辺りで数えるのも馬鹿らしくなったし?いちいち覚えてないわ、そんなみみっちぃこと」
「「「・・・・・・」」」

再び、周囲は唖然とする。
ここにいるエクソシストでも3人で3桁に届くかどうか。
それをたった一人でやってのけたというのだ。

「嘘にもほどがあるさ」
「で、でも強そうである」
「そりゃ態度の話だろ?クロちゃん」
「あら、その3桁の数に加わりたいのかしら?」

ばっちり聞こえていたらしいの言葉に、額を付き合わせていた男二人は抱き合った。
それを汚らわしいものでも見るかのように、睥睨していただが、ついでだとばかりに続けた。

「それと、顔見知りサービスで忠告しとくわ。
左目の下に泣き黒子があるノアには注意を払うことね」
「アレン・ウォーカーのイノセンスを破壊した男だな」

ブックマンの確認に、は首肯する。

「接近戦で『万物の選択』ができるあいつの能力に捕まれば、致命傷は避けられない。
元帥と複数のエクソシストを殺したのはあいつみたいだしね」

直に対峙したことを言葉にするのは控えた。
あれの能力が全て分かった訳ではないし、弱点さえ分かってない。
何より、ノアの一族の力は脅威だ。戦う前から恐怖を植え付けるのは得策でない。

「じゃ、戻るわ。そろそろ小言が煩い盗撮小姑が騒ぎ出す頃だし・・・」
(「「「誰?」」」)

誰もが心中で突っ込む。
が、これまでのを見ていた為、誰もそれを聞く気にはなれなかった。
そして歩き出そうとしたは振り返ると、

「あなた達に神のご加護を」

せめて今は、気休めでも言葉だけでも彼らにその恵みがあらんことを祈った。














































Next
Back

2013.9.24