日本支部、正十字学園理事長室。

「ンだよ、コレ」
「指令書に決まってるではないですか」
「んなこと聞いてんじゃねぇよ。内容だ、内容」
「あなたも噂ぐらいは聞いているのではありませんか?」

不健康そうな目元で笑う上司の言葉に、獅郎は気難しい顔で呟いた。

「・・・まぁな」


















































































































ーー扉越しの約束《1》ーー
















































































































最近、目に見えて悪魔の報告が上がってきている北東地区。
報告から察するに、悪魔は中級クラス。
通報され駆けつけてみても残っているのは戦闘跡、悪魔は影も形もなく消滅している。
そして、通報者も謎の失踪。
しかもそれを行ったのは祓魔師ではない、ということがつい先日判明した。

「別段、祓魔師でない者が悪魔を祓うことなどこの日本においては珍しいことではありません」
「なら調査の必要ねぇだろ」
「それを行った者が私の管轄内で私が把握していない事が問題なのですよ」

事実だとすればね、と締めくくったメフィストが呑気にティーカップを傾けた。
言ってることとやってることが激しく反対だ。
獅郎は睥睨の視線を送る。

「だからって俺かよ」
「管轄地区の治安管理も聖騎士の仕事ですよ、それに今回は何が出てくるか分からないのですからね」
「手掛かりもねぇんじゃ、調べようがねぇだろ」
「ですから、調べてください。餞別です」

そう言ってメフィストが指を鳴らせば、ボンッという煙と共に目の前に紙の束が現れた。

「これは?」
「ここ最近の悪魔の報告リストです」

獅郎の目は文字を追っていき、進めば進むほど眉間のシワは深くなる。

「どう考えても異常だろう。
こう多くちゃ意図的に仕組んでるようにしか思えんが」
「期待してますよ、藤本☆」
「すんな。気色悪ぃ」

けっ、と言って獅郎は立ち上がる。
そして部屋を出ようとしたその時、メフィストは思い出したように声を上げた。

「そうそう。
確かその地区には昔から続いている密教の一派がありましたね」
「あ?あったか、そんなの」
「表には現れない裏の世界の者達ですが、その力は祓魔師に引けを取らなかったはずです」

机の上で組んだ指に顎を乗せたメフィストの言葉。
人を挑発したり謀ったりするいつもとは違う調子に、獅郎は怪訝な視線を返した。

「確かだの、はずだの・・・
お前にしては珍しい口振りだな」
「言ったでしょう、『裏の世界』だと。
彼らは当然と正十字騎士団に所属していません。
構成規模、戦闘力、有する能力、どれを取ってもはっきりとはしてないのですよ」
「・・・だからって、ついでに調べてねぇぞ」

なんとなく奴の思惑に勘付いて言い返せば、メフィストはさも楽しげに笑った。

「やり方は任せます。事情を聞くのが手っ取り早いと思っただけですよ☆」







































































































道化上司の部屋を後にした獅郎は、話しにあった家の前に立っていた。

(「馬鹿でけぇ屋敷だな、おい・・・」)

北東地区の旧家。
その肩書きは無駄にそびえる目の前の大袈裟な門が物語っている。
出先にある教会が玩具に思えるほどだ。

「あのー」

呼び鈴らしいものが見当たらず、とりあえず声を上げてみる。
が、応答はない。

(「まさか、玄関に届くような大声で」)
「・・・何方様で?」

不安になったその時、和服の出で立ちの老人が格子戸を開けた。
・・・歓迎とは程遠い雰囲気でこちらを見上げていたが。

「お・・・私は正十字騎士団の藤本と申し」
「お引き取り下さい」

言うが早いか目の前でピシャン、と戸を閉められる。
取りつく島がない、とはまさにこの事だ。

「っておい!話くらい最後まで聞けよ!!」

閉められたそれに向かって叫ぶが、当然と反応はなかった。

「・・・くそ、意地でも調べてやんぞ」

恨み言を呟いた獅郎に、メフィストとのやり取りは記憶の彼方に追いやられた。




























































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2015.6.7