ーー扉越しの約束《0》ーー
「あ"ー、腰が痛てぇ」
痛む腰に両手を当て反り返る。
するとぼきぼきと嫌な音が響いた。
「だいじょーぶですかー」
「駄目だ、折れたかもしれねぇ。少し休憩しようぜ」
「そうですねー、じゃあそこの本片付け終わったらにしましょう」
「・・・」
「じゃ、私はバケツの水交換してきまーす」
こちらの反対を当然と無視したは、憎たらしいまでにニッコリと笑みを残して部屋を出て行った。
「鬼か、全く」
ああも逞しく育ってしまうとは、育てた奴の顔が見てみたいものだ。
獅郎はガリガリと頭を掻くと、床から生える無数の本の山に視線を落とす。
このまま何もしなければ、戻って来た時に間違いなく小言を聞かされる羽目になるだろう。
仕方なく手近な山を持ち上げようとした。
が、それはバランスを崩し床に散らばり、二次災害よろしく周囲の本も崩れ落ちた。
「あっちゃ〜、やっちまった・・・?」
小言で収まらない事態だが、足元に現れた一枚の写真にそんな事はどうでも良くなった。
「おー、こんなん残ってたんだな」
思わず笑いが込み上げる。
そこに写っていたのは今よりも少し若い、底抜けに笑う自分。
ん、いい男だ。
そしてその隣。
並ぶように、無表情に近い少女がカメラを睨み付けていた。
「獅郎さん、凄い音しましたけど・・・」
騒音を聞き付けたらしいが部屋に戻って来た。
そして惨状の只中に座る獅郎に、眇めた視線を投げて寄越した。
「おお。見てみろよ」
「『見てみろ』じゃないです、何サボってるんですか」
「小休止だ、ほれコレ」
獅郎の手招きに、は深々と嘆息する。
そして足元の本を器用に避けながら、獅郎の隣へと膝を折った。
「うわ、こんなの撮ってたんですか?」
「お前がここに来たばっかの頃だな」
「あははー、表情ないですよ。末恐ろしい子供ですね」
「てめぇで言うか」
苦笑するに獅郎も笑ってその写真を眺める。
本当に懐かしい。
まさかあの時の少女がここまで明るくなるものとは、当時では正直考えられなかった。
「・・・そう言えば獅郎さんって昔、兄と何かありました?」
しばらく写真を見ていたの暗紫の視線がこちらに問う。
意味を図りかねた。
「あ?」
「いえ、たまにくるメールとかでも獅郎さんの名前が出ると目に見えて不機嫌になるものですから」
「・・・まぁ、初対面が最悪だったからな」
そう笑った獅郎は手元の写真に思いを馳せた。
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2015.6.7