ーー日常ーー
ーーシュンーー
「ふぅ・・・」
「おかえり〜」
響いた声にユリウスは目を瞬く。
そこにはちょこんと顔だけ出してまさか居るとは思わなかった人物が出迎えていた。
「聞いたわよ、リドウから『最悪の目つき』って言われてたんですって?」
「・・・、まだ帰ってなかったのか」
まぁね、と肩を竦めたはすぐにキッチンへと姿を消す。
ユリウスが後を追えば、洗い物を終えたがどうやら最後の片付けをしているところだった。
「ルドガーに夕飯作る約束してたし、ユリウス、仕事で遅くなるんじゃないかと思って朝食の支度も済ませてたから」
「いつも悪いな」
「気にしないで、私が好きでやってるだけだもの。
はい、コーヒー」
出されたコーヒーを口に運べば芳ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
普通なら夜は飲まないのだろうが、自分が好きで飲むことを彼女は最初から分かっていたように出してくれていた。
「相変わらず、が淹れるとうまい」
「あら、ありがと。
もう夜も遅いから早く休んでね」
「今から帰るのか?」
「ええ、明日は朝から会議が入っててね。
誰かさんと違って私は4つも年上だもの。社会人は辛いのよ〜」
「もう遅い、泊まっていけよ」
「だから明日の用意がーー」
「いいから・・・」
「・・・泊まっていけ」
「っ!」
背後から抱きすくめられ、耳朶に響く声。
弱点を知っていてわざとそうしていると分かっていても、には抗えなかった。
「も、もう!調子に乗らないでよ!」
「服ならこっちにもあるだろ?
朝からが居ればルドガーだって喜ぶ」
「だから、私の都合をーー」
「居てくれ」
小さく、だが縋るような声には不審気な声を上げる。
「・・・ユリウス?」
「あと少しでいいんだ・・・」
それだけ言ってふっつりと黙ってしまったユリウスに、は視線を動かす。
そこには自分の肩に顔を埋めるユリウスがいた。
普段は面倒を見る側にいる彼がこのように人を頼るのは珍しい。
そしてその理由が思い当たるは問うた。
「何かあった?」
「・・・別に」
「あなたが心配することは何もないわ。
不審な人もいなかったし、社内でも妙な動きはなかったもの」
「・・・・・・ああ」
抱きしめられる力が増す。
それに応じるようにの声音は穏やかに続く。
「大丈夫。
あなたは強いわ、ユリウス。
限界を知ってる者だからこそ、力を見極められるからこそ強者であると思う。
私はそんなあなたを支えたい、この先もずっと・・・」
「・・・ありがとう、」
交わされる口付けは啄ばむものからやがて深くなっていく。
酸素ごと全ての思考を奪われるようなそれに抗うように、はユリウスの胸を叩いた。
「やっ・・・ちょ、ちょっと!
調子に乗るなって、さっき・・・」
「忘れた」
「わ、分かった!分かったから!ちょっとストップ!」
続きを遮ぎられたユリウスは不満気な表情を浮かべるが、はこれ幸いとユリウスと距離を取る。
そして、自分の荷物の場所まで歩みを進めるとそこから何かを取り出し再びユリウスの前に立った。
「ね、ちょっとだけ目瞑って?」
「断ーー」
「じゃなきゃ帰る」
の言葉に仕方なくユリウスは目を瞑る。
すぐ後、米神に何かが触れる感触がし、目を開ければそこには満足気なの顔があった。
「よし、これでリドウから文句言われる筋合いないわね」
「・・・これは?」
「メガネ。度は入ってないから伊達だけど。
私はない方が好きだけど、これはこれで知的さが上がっていい感じね」
「これを渡すために待ってたのか?」
ユリウスが問えば、は暫し固まった。
数呼吸の後、瞬く間に顔を赤くしたが慌てたように言った。
「ち、ちが!だっ、だから朝食の支度に手間どっちゃったからで・・・んっ!」
再び唇を奪われたは抵抗しようとするが、その両手は呆気なくユリウスに拘束される。
「ふっ・・・ユ、ユリ・・・」
「もう待ったは無しだ」
いたずらっぽくユリウスはそう囁き、更に深くなるそれに思考が停止する。
はもう帰れないことを確信した。
≫skit『天誅』
「おは・・・あ!姉がいる!」
「おはようルドガー。さ、ご飯食べちゃってね」
「うん!あれ?ユリウス頭どうしたの?」
「ああ、ベッドから落ちて頭打ったみたいよ。ドジよね〜」
「・・・」
ユリウスの伊達は彼女からってことにしたかった。タイムラグは完全無視
ユリウス15歳、
19歳(本当は16歳)、ルドガー7歳
ユリウスがエレンピオ社に入社して1年経つくらいのお話
・・・マセ餓鬼?
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2014.12.31