ーー偽りの姿と誠の心ーー


















































































































「おう、いらっしゃい」

入店のベルに新聞から店先に視線を向ければ、そこには年若い青年が立っていた。
肩ほどの黄金色の髪、大海原の蒼い瞳に同色の宝石が胸元に揺れていた。
街中の年頃のご婦人が見れば、黄色い声が絶えないだろう美青年だ。

「新顔だね。ここは魔法道具専門だが、兄さんは魔法使いかね?」

中年の無精ひげのテノールが問えば、青年は軽く笑った。

「まぁね。ちょっと身を隠す道具が欲しいんだが、いい品が見当たらなくてね」
「こんな時代だ。隠れたくなるのも同感だな・・・して、ご注文は?」
「ある魔女の目をくらましたい」
「魔女ね・・・相手にもよるな」

頭を掻く店主に、青年は口をつぐむ。
その様子に店主はにやりと笑った。

「これでも客のプライバシーは守る店だ。ま、威力は使いの手の実力次第だがね」
「その点は心配無用。なら、注文させてもらおう」
「豪気だねぇ、気に入った。で?どの魔女を出し抜くね?」
「荒れ地の魔女」

青年の言葉に店主は片眉を上げた。

「おいおい・・・かつて王宮付き魔法使いだったあの魔女か?」
「あぁ。できるか?」

まるで挑むような視線に、店主は再びにやりと笑った。

「はは、面白い・・・3日後、また来てくれ」
「どうも」
「おっと、兄さん。あんたの名前は?」

ドアノブに手をかけた青年は肩越しに振り返った。

「ジェンキンス」

再びドアベルが鳴り、店の中は店主だけが残された。
秒針の刻む音だけの空間に小さなため息が響く。
店主は小さく指を振れば、店先にカーテンが引かれ店内の照明は店主の机の上だけになった。

「まったく、よりによって荒れ地の魔女とはね。
好奇心が強いのは結構だけど、厄介な相手に興味を持たれたわね」

その場に年若い女の声が楽し気に響いた。
先ほどまで店主が座っていた席には、黒髪を揺らす妙齢の女性。
くすくすと笑うたびに肩に係った髪が机にはらりと流れる。
と、笑みが消えるとその場を立ち上がった。

「さーてと、相手が荒れ地の魔女なら呪いと傀儡系が得意だったっけ。
無責任な呪い使うって先生ぼやいてったっけな・・・」

となると、とぶつぶつ独り言を呟きながら分厚い魔法書の並ぶ本棚の前を行ったり来たりと目的の本を選び出す。

「本気のまじない具仕込むなんて、久しぶりね。
ま、元々こっちが得意分野だし、せっかくならカウンターで目にものを・・・
・・・いやいや、それが原因で本気出されて見つかっちゃ本末転倒か」

苦笑した女は手にした魔法書を机の上に置いた。

(「にしても、『ジェンキンス』の名を使うとはね・・・」)

名乗られた名前。
それはかつて共に同じ机で学んでいた頃、一人前になった時に名乗ろうと二人で揃って考えていた名前の一つだった。

(「この先、戦争になったらあなたは私を軽蔑するでしょうね・・・」)

争いを好まない優しい子だ。
元より、王宮付きになるには必要な非情さを彼は持っていない。
いかに魔法に精通し賢く狡猾であろうと、それが政治となれば優しさが命取りになる。
わざわざそんな道に引きずり込ませてなるものか。
あの子が自由に生きる為ならばどんな仮面も虚実も身に纏おう。
































































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2020.7.28