ーーこの心、届かずともーー














































































































一目会って直感した。
この子は天才だと。
昔からこの直感は外れた試しがない。
魔法学校に入ればそれはますます磨きがかかって、いつの間にか王宮付きの魔法使いの弟子にまでなっていた。
そして天才と称されたあの子が弟弟子になったが、案の定、実力はあっと言う間に追い抜かされた。
周りは噂や陰口をひっきりなしに叩き五月蝿かったが、別にそれはどうでもよかった。
弟弟子は少々ひねくれはいたが可愛かったし、何よりあの子の魔法はキレイだった。

「・・・え」

だから、信じられなかったのかもしれない。

「ハウルが悪魔と契約し、王宮を出ました」
「・・・」

師は静かに繰り返す。
何度聞いても信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
だって本当は分かっていた、ずっと目を逸らしていたんだ。
ついにこの日が来てしまった、と。


「はい。サリマン先生」
「あなた、こうなることを知っていましたか?」

老齢でもその瞳の奥に灯る心理を見据える師の鋭い光。
直接対峙して、心を揺らさぬ者は少ない。
けど、この人が自分の後目を弟弟子に与えることはずっと前から気付いていた。
あの子が自由に生きたいという気持ちを捻じ曲げてでも・・・

「いいえ。私の直感でもそれは叶いませんでした」

ふわり、と悲しみを乗せた笑みを返す。
企みを躱す、真実と虚実を混ぜ込んだ笑み。
師からそれ以上の追及はなく、深い溜息が響いた。
私も悲し気に瞳を伏せた。
考えなければ。
あの子を師の手から逃せるために、あの子が自由に生きるために。

、隣国との開戦の兆しが出ています。
早急に総理大臣と参謀長と作戦を詰めなければなりません。あなたの腕にも期待していますよ」
「はい、承知しました」

深々と頭を下げ、その場を辞した。
自分はあの子のような天才ではない。
だが彼を捕えようとしている師の近くにいれば、彼を逃す策もおのずと打てる。
廊下に出たは目的の部屋に向け、足を大きく踏み出した。



































































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2020.7.28