ーー最強のアシスタントーー



































































































































「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

肺が・・・焼けそうだ。
山中を走り回って既に30分は過ぎた。
だが、歩みは止められない。
何故なら・・・

「居たぞ!こっちだ!」
「ちぃ!」

何故なら、只今絶賛逃走劇の真っ最中だからだ。
しかし日頃トレーニングを重ねているとはいえ、足場が悪い上、台風の直撃による視界不良。
体力だけでなく気力も奪われ、否応無くその足取りは徐々に重くなっていく。

(「くそ・・・」)
「見つけたぞ!」
(「やへぇやべぇやべぇ!」)

このままでは、追手である警官に捕まるのも時間の問題。
かと言って、道路は土砂崩れで通行不可。
辿り着けた所でパトカーですぐに追いつかれてしまう。
そうは思いながらも、何とか足場の良い道で距離を稼ごうと舗装された道路へ向かう。
しかし、

「そこまでだ!」
「!」

ライトに照らされ視界が眩む。
そしてその足も止まってしまった。
その隙を逃さず、追手の手がーー

ーーガゴッ!!ーー

瞬間、警官は道路脇の森へと吹っ飛んでいった。

「・・・なに、が・・・」
「そこのマヌケヅラ!とっとと乗りやがれ!」

目の前に現れたのはK_WASAKI Ninja 250R。
まるで夜の漆黒から抜け出たような車体。
それに跨る同じ色のライダースーツ。
一体となってるような錯覚を覚えるが、操手は対比効果で一層華奢に見えた。
・・・いや、そうではなくて。

「どうして、お前が・・・」
ーーブチッーー
「あーもう!うるっさいっ!!早くしろ!!!」
「いや、早くって・・・道は土砂くーーがほっ!」

状況が飲み込めない快斗の顔面に黒のヘルメットがめり込んだ。
あれ、生温かいものが垂れてる気が・・・

「逃げるの?豚箱行きたいの?」
「・・・」

バイザーを上げ、鋭い眼光で射竦められる。
思わず生唾を飲む。
そうだ、この状況で取られる選択など限られている。

「よろしくお願ーーうわっ!

手早くヘルメットを被り、後部座席に座った瞬間。
後輪が派手に回転し、遠心力で放り出されそうになるのを操手の腰に腕を回して防ぐ。
そして、漆黒の車体は風雨を切り裂くように走り出した。
しかしその先は・・・

「おい、この先は土砂くずーー」
「舌噛みたいの?」
「ちがっ!だから!」
「逃走劇の乳酸で脳が死んだ?」
ーーカチン!ーー
「お、お前な!」
「私がどうやってここに来たと思ってるの?」
「だから、それを聞こうとしてんだろ!」
「ご想像通り。バイクで来たのよ」
「はぁ!?だから、どうーー」
ーーガゴンッ!ーー
「っで!」
「そろそろ口閉じてないと、舌噛むわよ」
「っ〜〜〜!」
(「もっと早く言え!」)










































































風は強く、雨足も更に激しさを増し水煙でこのままでは身の危険を感じるほど。
しかし、操手はその危険を顧みずさらにアクセルを開けた。
目の前には、土砂崩れの現場。

「お、おい!」
「死にたくないなら神様にでも祈ってなさい!」
ーーガゴンッ!ーー

直後、前輪が上がる。
スピードに乗っていた車体は衝撃で空中へと身を躍らせる。
つかの間の浮遊感。
内臓が持ち上がるあの独特の無重力状態が数秒過ぎた。
そして、

ーードゴガンッ!!ーー
「んがっ!!」

突き上げる衝撃に首がもげるかと思った。
物理的な痛みに涙目になる。
秘密だが、叩きつけられるかもしれない不安と恐怖も少し。
ほっと安堵したのも束の間、腕から力が抜けて横滑りした車体からずり落ちた。

「ったく、たかがコレしきの事で情け無い」
「た、たかがだぁ?」
「たかがでしょ。
それとも目論み誤って山中逃走で疲労困憊、なーんも出来ませんって感じ?」
「うっ・・・」

なかなかに図星な指摘に視線をあからさまに逸らす。
二人は今、土砂崩れを目の前にしたトンネルの中。
台風のせいで土砂の撤去作業も恐らく翌日だろう。
その為、追手の気配も今は無かった。

「まったく、情け無いったらありゃしないわね」
「・・・面目無い」
「ほら、もう休憩は十分でしょ。
さっさと乗ってよ、こっちはこの悪天候の中また運転してやんなきゃならないんだから」
「そ、それは申し訳ねぇって思ってるけどよ・・・」
「?けど、何よ?」
「お前、大丈夫か?
後輪で警官吹っ飛ばして・・・」
「あの程度で死にゃぁしないわよ。日頃鍛えてるんだから」
「そう言う意味じゃねぇ!もしナンバー覚えられてたら・・・」
「はぁ・・・マスターの心中察するわ」
「あ"?」
「あんたね、この私が何の下準備もせずのこのこ助けに来てやってる訳ないでしょーが」
「どういう事だよ?」
「こー言う事だよ」

そう言って、は手元のボタンを操作すれば軽い破裂音と共に、バイクのナンバーが燃え消え、その下から新たなナンバープレートが現れる。

「マ、マジックペーパー?でも・・・」
「雨で濡れてるのに何で燃えたかは企業秘密」
「お前な・・・」
「ちなみに、この服のチョイスはバイクと合わせたから」
「聞いてねぇよ!」
「カッコイイだろ?」
「それは確かに」
「んじゃ、質問に答えたんだからさっさと乗ってくんない?」

ハンドルに寄りかかり、にやりと不敵に笑われる。
トンネル内のライトに照らされた、雨露に濡れた肢体。
ボディラインを現す漆黒のスーツ。
普段はそこまで意識しない異性を無駄に意識してしまう。

「・・・ちぇ、分かったよ」

そっぽを向きそう言った快斗はヘルメットを被り直すと後部座席にまたがった。
そして、また豪雨を縫うように漆黒の忍者が駆け出した。






































































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2019.12.5