(「ど、どうして私がこんな所に居るんだろう」)

冷や汗が流れる中、は心中で深く深くため息をついた。

















































































































ーー理由は?ーー






















































































































黒鉄病対策本部。
仰々しい立看板が掛けられた部屋のドアをノックする。
そして、勝手知ったる様子で目的を済ませ早々にそこを後にした。
今日は依頼された資料を届けに来ただけ。
これから初詣にでも行こうかとつらつら考える。

(「元旦早々でも、政府機関は関係ないなんて大変だな・・・
かく言う私もそのとばっちり受けてーー」)
「あれ?ちゃんじゃない?」

呼び声に辺りを見回す。
すると、一度大学で面識を持った美女が親しげにこちらに駆けてきた。

「山本さん、ご無沙汰しております。
それと明けまーー」
「ちょうど良かったわ!ねね、これから付き合ってよ」
「え?は、はい?」
「仕事終わったんでしょ?」
「えと、まだ帰ってまとーー」
「んなの後後!せっかくの元旦なんだから、美味しいものでも食べましょうよ!」
「いえ、あの!」
「その辺にしとけ、フロイライン。
彼女も困ってるだろう」
「なーによ。あなただって、一度話してみたいって言ってたじゃない。
その彼女がこの子なんだけど?」
「なんだ、それなら早く言え」
「え?あの、話がーー」
「んじゃ、しゅっぱーつ!」































































ーーピンポーンーー

とあるマンションの一室。
口を挟める余地なく連れられた玄関前に、は居心地悪く山本に向いた。
ちなみに、逃走防止のためか腕はガッチリと山本に拘束されている。

「あ、あの山本さん。
初対面の私がお邪魔するのは少々問題があると思うんですけど」
「だーいじょぶ、だいじょぶ。
私とは初対面じゃないじゃない」
「いや、部外者がお邪魔する訳には・・・」
「だーいじょぶ、だいじょぶ。
もうちゃんと関係者だから」
「あの、その、だからですね・・・」

続きを言えず、の視線は山本の隣の男に向けられる。
その意味を汲んだのか、いやしかし、山本はこてんと首を傾げた。

「あれ?彼の事もあなたなら知ってるでしょう?」
「そ、その、早河補佐を知っていると言うにはいささか語弊が・・・」
「もう補佐ではないがな」
「し、失礼致しました!」
「こちらは君の事は知っている。
中々、興味深い意見書の数々だったからな」
「それは、その・・・ありがとうごーー」
ーーガチャーー

開けられた扉。
そこから現れた人物にの続きは消えた。

「!」
「!」
「出迎えご苦労!夏村君♪」
「・・・山本殿」
「もぅ、新年早々そんな辛気臭い顔するなんて福が逃げるわ」
「寒い。早く入るぞ」
「はいはーい。
さ、ちゃんも入る入る〜」

部屋に押入れられ、はひとまず部屋に入る。
フローリングの広いダイニングには、元旦を祝う食事の準備が途中のようだった。

「なんだ、準備まだだった?」
「あなた方の来る時間が予定より2時間も早かったので」
「すまないな、予定がずれてしまった」
「そもそも元旦に仕事ぶっ込む奴がKYなのよ。
飲みましょ飲みましょ♪」
「まだ準備はーー」
「熱燗ならすぐじゃない、よろしくね〜」
「・・・」

山本の呑気な声に、夏村の眉間にシワが寄る。
それまで居たたまれないはここぞとばかりに手を挙げた。

「あの、良ければ手伝います」
「えー!ちゃんは座っててよ!
お姉さん、あなたとお話したいし♪」
「でしたら、簡単な肴でもご用意しますよ。
お酒だけじゃさみしいでしょうし」
「んまっ!家庭的!じゃお願いね〜」
「フロイライン、お前な・・・」

カウンターキッチンの向こうで山本と早河が楽しげ(?)に会話を繰り広げる。
自分から興味をが移った事で、は胸を撫で下ろした。
そして、ワイシャツにエプロンという何ともミスマッチな出で立ちの男の前に立った。

「・・・その、久しぶり」
「そうだな」
「あ、明けましておめでとうございます」
「ああ。今年もよろしく頼む」
「うん。
あ、キッチン借りても良い」
「構わん。冷蔵庫の中のものも好きに使ってくれ」
「ありがとう。そっちは手伝う?」
「いや、アレが煩いだろうから手早い品をやってもらえるか」
「うん、分かった」
「・・・それと」
「うん?」
「どういう経緯でこうなったか、話してくれ」
「う、うん。実はね・・・」

作業の手を止める事なく、かいつまんでは事情を話した。

「・・・という訳でした」
「相変わらず強引な・・・」
「ごめん、断りきれなくてなんかズルズルと・・・」
「お前の所為じゃない、気にするな」
「うん」
ちゃーん!できたぁー?」
「は、はーい!」

熱燗と簡単なつまみを持ってはコタツに陣取っていた二人の前に席に着いた。

「な、なんてこと!短時間でこんな逸品を・・・」
「お前も少しは見習え」
「はいそこうるさーい」
「冷蔵庫に材料が揃ってただけですよ」
「よっしゃ!それじゃあ飲むわよっ!!」

啖呵を切る山本に、静かに飲み出す早河。
はもはや自分がどうしてこの場にいるのか、分からなっていた。
























































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2019.12.7