ーー強面の新入生ーー
「そこからちょくちょく話すようになって、調査に夏村くんも同行してくれて、今のような感じになったんです」
「・・・」
「山本さん?」
「なーんか、思ってたのと違う」
「はい?」
むすっと不機嫌顔の山本に、はどうフォローして良いか分からない。
腕を組んでいた山本は難しげに考えてたかと思うと、すくっと立ち上がった。
「若者同士なんだからさぁ、もっとこう若気の至り的にグワーッ!と的に」
「『グワーッ!と的』ですか?」
「そうそう。
人目がないなら、ナッツがこう勢い余って押したーー」
「ゴホンッ」
一つの咳払いに山本は固まった。
まるで自分自身を抱くようなポーズで、新たな来訪者を出迎える。
「あ、あっれぇ?鎖部夏村さん、どうしてこんな所に?」
「少々、不穏な言動を聞き留めたもので」
「ふ、ふーん、そーなんだぁ・・・」
「・・・」
「?」
両者の不穏な空気には戸惑うしかできない。
なんだろう、ちょっと殺伐とした空気に変わってきてる気がする。
「えーと、じゃあ私は仕事があるからこの辺でお暇するわねー」
「あ、はい」
「お見送りします」
「い、要らないわよ。一人で帰れるし!」
「どこかに潜まれても困りますから。
それに、早河殿から指令があるから戻れとお伝えするように言われておりますので」
「くっ・・・またしても邪魔が・・・」
悔しげに山本は拳を握る。
そして、諦めたように肩を落とした。
「仕方ない・・・じゃ、ちゃん。
またね!」
「はい、お待ちしてます」
「早く出て下さい」
「分かってるってば!」
二人を見送り、研究室は静かになった。
懐かしい話を思い出したからだろうか。
一人となったそこで、首から下げたチェーンを手元に転がした。
夕陽を受けたリングはキラキラと眩しく光る。
(「本当は、あの時・・・」)
車に到着し、しっかりと見張り役を務めた男に向かって山本はにんまりとしながら問うた。
「で?
ちゃんを抱き締めて生還した王子様は、この後どうするのかしら?」
「無駄口で帰るのが遅くなったと報告しますが?」
「んもぅ、分かってるわよ!」
口を尖らせ、山本は夏村に舌を向けて車を急発進させた。
子供か、と思いながら騒がしさが一気に消え小さく嘆息する。
辺りは黄昏に染まっていた。
ちょうど、二人で山道を下ったあの時を彷彿とさせるようだ。
(「本当は、あの時・・・」)
彼の腕に心底安心した自分が居た。
気丈に振る舞う彼女を守らねばと思った。
でも、彼には踏み入ってはいけない事情があった。
でも、彼女を巻き込めない事情があった。
ーーそれでも・・・
ーーいつかこの想いを伝えられる日が来たら・・・
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2019.12.10