なかなか開けなかった封を破った。
いつもあいつが座っていた縁側で。
いつもあいつが座っていたその隣に腰を下ろして。

「ふぅ・・・」

固まった覚悟をさらに固めるように息を吐く。
そして、封の中に折り畳まれた手紙をゆっくりと開いていく。


ーーまずは、先にお礼を述べたいと思いますーー


書き出しはらしくない言葉。
いや、もしかしたらずっと気付かないままであいつはいつも言いたかったのかもしれない。


ーーありがとうございました、宇髄さん。
そして、こんな形でしか伝えられない私を許して下さいーー


















































































































ーー指切りーー


















































































































信じられなかった。
最後の戦いで仲間が次々と死んでいく中、あいつだけは生きて帰ってくると思ってた。
・・・思い込んでいた。

『カァーッ! 、死亡!鬼舞辻トノ戦闘ニヨリ 、死亡ーッ!』

亡骸は相変わらずボロボロだった。
またお前は庇ったんだろう。
お前を囲んで何人もの隊士が泣いていた。
あの冨岡と不死川でさえ泣いていたんだ。
散々自分を責めてたが、生き残った奴で誰もお前の事を悪く言う奴はいない。
生きてる間に少しでも自分を許せるようにしてやれたら、お前は生き残っていたのだろうかと。
今更遅過ぎる後悔に、俺がこうして考えることもなかったのだろうか。

ーーバサッーー

戦いが終わり、葬儀も粗方済んだ頃だった。
見慣れた鴉が屋敷にやって来た。

「お前・・・確か、のーー」
『元音柱へ、遺書ノ伝達!』
「遺書って・・・一体、どこのーー!」

見覚えのある字だった。
流れるように表書きには『宇髄天元様』
呆然と立ち尽くした。
そもそも遺書が届いた事実がずっと揺れなかったはずの視界を歪めた。

「・・・なんで、お前は・・・」





















































『は?遺書ですか?』
『あぁ、お前は書いてんのか?』
『書いてませんよ。私なんかの遺書貰ってどうするんですか?』
『どうって・・・最期に伝えたい事とか、色々あんだろ』
『宇髄さんなら奥方が3人もいらっしゃるんですからそうでしょうけど、生憎私はそんな人いません』
『俺の4人目だろうが』
『お断り済みです』
『てめ・・・』
『そもそも、死人の想いに囚われて欲しくないから私は書きたくありません』
『かー、辛辣だな』
『それに私が死ぬ時は鬼舞辻を倒した時です。
宿願を果たしたなら思い遺すことも言い遺すこともありませんよ』





















































とある共同任務の帰り、笑いながらそう言ってたくせに。

ーーこれを読まれている時もあなたは泣かないでしょう、それで構いませんーー
ーーそれでこそ、私の知る宇髄さんですーー

ーーお願いが一つありますーー
ーー来世なんて信じてませんーー
ーーだから今世であなたの人生を謳歌してくださいますようにーー
ーーずっとずっと、長生きなさってくださいーー

ーーそしてどうぞ、この国一番のド派手な幸せ者になってくださいーー

ーー あなたの事は心からお慕い申し上げておりました。
 ーー


「相変わらず、この天元様を出し抜きやがって・・・」

読み終わった遺書を封書に戻そうとした。
と、封の中に小さな短冊が入っていた。
別人宛のが紛れ込んだのかと裏返ったそれを手にし、今までにないくらい目を瞠った。


『ずっとあなたに伝えようと思っていた言葉は、大往生してこちらにいらっしゃった時にお伝えします』


「馬ッ鹿野郎が・・・」

最後の最後まで、想いを伝えない奴だ。
分かるっつーの。
お前の事なら全てお見通しだ、馬鹿が。

「・・・土産話、嫌ってほど聞かしてやるから覚悟しとけ」

まるで隣に言い聞かせるように呟いた天元は頬を流れる涙をそのままに呟いた。





























































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2020.9.3