歓声が響く。
まるで闇を割いて昇った朝陽のように。 どんどん大きくなる。

(「終わった・・・」)

小さく音にもならない呟きを思ったは、傷だらけの身体を引き摺りながら朝陽に背を向けて歩き出した。

















































































































ーー願わくばーー































































歓声が遠い。
視界もぼやけてきたが、目的の場所は分かっていた。
そして、瓦礫を背にしているその人の隣へと腰を下ろす。
すると気配に聡いその人はすぐに気付いた。

「・・・、か」
「はい・・・」
「勝った、のか?」
「勿論です」

ほっとしたような表情に釣られても表情を緩める。
するとそこへ、数人の隠が歩み寄った。

さん、手当をーー」

近付いてきた隠には手を上げ言葉の先を阻む。
その行動にさらに言い募ろうとするが、肩に置かれた手が阻んだ。

「ここはいい」
「でも後藤さん!」
「こいつは大丈夫だ」
「っ!」

他の隠の背を押し出し、こちらを見下ろす顔馴染みの後藤には小さく笑い返す。
それに一瞬、表情が歪んだが深々と頭が下げられた。
周囲から隠が立ち去れば、その場にと行冥が残った。

「悲鳴嶼さん。手当しますから、呼吸でーー」
「手遅れだ」
「しかし・・・」
「それより、お前は大丈夫か?」

こんな時でも、この人は相手なことばかり気遣う。
自分の方が重傷だと分かっているはずなのに最期まで柱としてあろうとする姿は頭が下がった。

「はい、私は大丈夫です」

小さく返したは、投げ出された行冥の手に自身の手を重ねた。
もはや力が入らなかったが、残った力で互いの指が絡み互いの温度を伝えてくる。

「・・・随分、冷たい」
「ふふ、悲鳴嶼さんもですよ。
私も呼吸を使い過ぎました、お陰で酸欠気味で視界も狭くて」
「そうか・・・よく頑張ったな」

ねぎらいにふるふると緩慢に頭を振るのがやっとだった。

「悲鳴嶼さんこそ、お勤めお疲れ様でした」
「・・・ああ」

言葉が途切れる。
言いたい事はたくさんあった。
任務を優先すると約束したのに、どうして自分を庇ったのかと。
この戦いが終わった後のこと。
なのに言葉が出ない。
と、壁に預けていた行冥の上体が傾き、は受け止めた。

ーートサッーー

とても、異様なほど軽い。
しかし異常なまでにべったりとした重い隊服だった。

「・・・
「はい」
「お前は、温かいな・・・」
「朝陽が悲鳴嶼さんを照らしてますから」
「そうか・・・」
「はい、悲鳴嶼さんが勝ち得た平和の、希望の光です」
「そう、だな・・・」

言葉が途切れ出す。
肩に埋められた顔を、辛うじて動かせる右腕で抱きしめる力を強めた。
絡めて握られた左手からも、その人の脈動が弱くなっているのが分かった。

「・・・
「はい」
「共に戦えてた事・・・感謝、する」
「それはこちらのーー」
「願わくば・・・誰にも、死んで欲しく、なかった・・・」

ああ、それは・・・

「そう、ですよね」

それはこちらの台詞だ。
くしゃっと顔を歪ませたは、泣きそうになるのを必死で堪えた。
今も思ってる。
死んでなんか欲しくなかった。
幸せになって欲しかった。
仲間も、友も。
死んで欲しくない。
幸せになって欲しい。
あなたが助かるなら、私は・・・

「・・・
「はい」
「いつ、か・・・おま、えと・・・」

掠れた声が消える。
ずんっと腹の底が重くなったように、肩にかかる重さも増す。
それまで揺れなかった声が、堰を切ったように震え出す。

「・・・はい、私もです」

無音の続きに、は力の限り目の前の身体を抱きしめた。

「・・・っ」

本当は伝えたい言葉があった。
聞きたかった答えがあった。
全てが終わったら、想いを言葉にすると決めていた。
でも、互いに背負う使命を前にそんな事はいつも後回しで。

「ふふ、意地っ張り・・・ですよね、お互いに」

応えが返らない相手にそう呟きながら、の足元には、隊服では吸収し切れないほどの血溜まりが広がっていた。
一言告げれば、何かが変わっていただろうか?
相手を想って告げないと決めたが、単に意気地がなかっただけだろうか?
鬼殺隊で共に長く一緒に居たのに、今更ながらとっても時間が足りなかった。
もっともっともっと、共に過ごしたかった。
それなのにもう、目を開けていられない。

「心配、要りませ・・・私も、すぐ・・・」

頬を熱い軌跡がこぼれ落ちる。
ただ、寄り添う二人を朝陽が照らし続けていた。



























































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2021.10.07