ーーどっちが?ーー





















































































































木の上から響いたか細い声。
切ないそれを放って置けず、木に登ったは良いが目的のソレがなかなか言う事を聞いてくれない。

「ほ、ほら・・・こっちにおいで」

目一杯、腕を伸ばすが僅かに距離が足りない。
しかしこれ以上足場となる枝がなかった。

「どうやってそんな所まで登ったのよ・・・」

そう呟きながら何とか届く手段を探す。
諦めるという選択肢は元よりない。
と、飛び上がれば掴める枝があった。
それさえ掴めば間違いなく届く。

「よっ」

すぐさま跳躍し、先ほどよりもっと近くなったソレに手を出せば思いが通じたのか寄ってきてくれた。
小さな躰を胸元へ引き寄せると、ホッとしたようには嘆息した。

「はぁ、良かーー」
ーーボキッーー
「!?」

と、掴んでいた枝が折れた。
僅かにバランスを崩すが、その下の足場にしていた枝に着地すればと思い直す。
が、

「わ!こら!暴れちゃーー」
ーーズルッーー
「!」

不意に暴れたソレに気を取られ着地点がずれた。
元より不安定な体勢で足を滑らせた事で枝葉が顔に当たり視界が塞がれる。
しまったと思ったが、胸元のソレが放り出されないように体を丸め衝撃に備えた。

ーードサッ!ーー
「・・・あれ?」
「大丈夫か?」

予想した痛みがこないのと、響いた声に目を開ければ目の前には岩柱の顔があった。

「悲鳴嶼さん!?」
「怪我はないか?」
「は、はい・・・大じーーじゃない!」

己のとんでもない状況にひとまず否定が上がる。
しかし、の心情を他所に言葉通りの意味に受け取った行冥はを抱えたまま歩き出した。

「む?怪我をしたか。なら手当てをーー」
「ちが!怪我はしてません!
すみません!助けていただいて!悲鳴嶼さんこそお怪我はありませんか?」
「うむ。少々驚いただけだ」
「なら良かったです・・・って!それなら自分で歩きます!
お手を煩わせる訳にはーー」
「暴れるな、抱えたそやつがまた逃げ出してしまうぞ」

行冥の指摘には身動きを止めた。
そのまま近場の縁側に腰を下ろした行冥は、抱えていたも自身の前に下ろす。

「木に登っていたのはその仔を助ける為か?」
「はい、降りれそうもない高さだったので心配になって」
「ミィー・・・」
「まさか枝が折れるとは・・・助けていただいてありがとうございました」
「怪我がないなら何よりだ」
「ミィー」

の腕に抱えられた仔猫も同意するように一声鳴く。

「とはいえ、この仔が暴れてーーあれ?」
「どうした?」
「後ろ脚、怪我してるみたいです。
枝で引っ掛けちゃったんですかね・・・ちゃんと抱えてたつもりでしたけど」

声を沈めるだったが、懐から常備していた包帯を巻いてやる。

「傷は深くないけど、しばらく様子を見てあげないと」
「そうか、では私が預かろう」
「良いんですか?」
「うむ。折角の縁だ」
「悲鳴嶼さんなら安心ですね。
じゃぁ、別れ納めにもう少し撫でさせてもらいますかね」

自身の腕中で喉を鳴らす仔猫。
こちらの手に頭を擦り付け、もっともっととねだる。
まだ小さな爪を隠せずまるで離すまいとする姿は、とんでもなく庇護欲を掻き立てる姿だ。
思わずこちらまで表情が緩んでしまう。

「ふふ、可愛い」

これ以上下がらないくらいに目元がほころぶ。
殺伐した空気が紛れるほど、この小さい存在は心を解してくれる。
心をふわふわと軽くしてくれる仔猫を抱き上げ、頬を寄せながらは自身の背後に座る行冥に振り返った。

「ほら悲鳴嶼さん、この仔可愛すぎですよ」

影のない満面笑みが行冥に返される。
涼やかな明るい声に行冥も同意するように頷いた。

「・・・愛いな」
「はい、本当に可愛いですよねv」

































































>おまけ
「・・・おい、なんだありゃぁ」
「うるせェ、俺が知るか」
「お前先行け」
「あ"?てめェが行きやがれ」
「ちっ、俺にあんな顔見せた事ねぇのが腹立つ」
「人徳の差だろ」
「黙れ露出狂が」
「あ"あ"!?」

「何してるんでしょうね、宇髄さんと不死川さん」
「うむ。猫に触りたいのだろう」
「あんな不穏な気配じゃ逃げちゃいますよ、ねー?」
「ミャーン」
(「愛いな・・・」)





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2020.5.10