「こんにちは千寿郎くん」
さん!」

ちょうど玄関先を掃除していた千寿郎にが挨拶を返せば、嬉しそうな笑顔が返される。
次いで、ちょうど玄関先を通りかかったらしいこの屋敷の主、煉獄槇寿郎は歓迎とは正反対の表情をに向けた。

「・・・またお前か」
「ご無沙汰しております槇寿郎様」
「何しに来た?」
「ち、父上!」
「任務帰りに近くを通りましたので、ご挨拶をと思いまして」
「ふん。俺の無様な姿を笑いに来たのか?」

刺を含ませる言動に気を悪くする事なく、は穏やかな語調で首を横に振り続けた。

「いいえ、そこまで暇ではありません。
今回の任務先が川越だったので、手土産のお裾分けに」

抱えた荷物の中身を見せれば、千寿郎は明るい声を上げた。

「わぁ!おいしそうなサツマイモですね」
「新しい品種を作ったそうですよ。なんでも甘さが段違いとか」
「では焼き芋にでもしましょうか」
「良いですね、槇寿郎様もご一緒にいかがですか?」
「・・・ふん、そんな施しは要らん」

捨て台詞を残し、槇寿郎はその場を立ち去った。
反論を口にできなかった千寿郎は申し訳なさそうにに深々と頭を下げた。

「ごめんなさい、さん・・・」
「謝る必要はないですよ、千寿郎くん。
さて、焼き芋の準備でもしましょうか」





















































































































ーーウワサーー





















































































































「あの、さん・・・」
「ん?どうしました?」

焼き芋を焼いている焚火を前に、しゃがんでいたは顔を上げる。
そこには悩んでいるような千寿郎がを見下ろしていた。

「その・・・ここに来るまで変な話を聞きませんでしたか?」
「特に聞いてませんけど・・・どうかしましたか?」

必死に言葉を探している千寿郎。
何だろう?
変な話とは鬼の事だろうか?そんな話や噂は聞いていない。
何より、元柱が居るこの屋敷なら危険は少ないはず。
剣は捨てたとはいえ、雑魚鬼が勝てる相手ではない。
安心させようとが口を開こうとしたが、先に向こうが言葉を紡いだ。

「そ、その・・・さんがよくいらっしゃってくださってるので、ご近所からその・・・
・・・いつ祝言を挙げるのかと・・・」
「・・・はい?」
「ご、ごめんなさい!」
「いやいや、謝らないでください。どういう事ですか?」

よくよく話を聞けば、どうやら嫁だと思われてたらしい。
まぁ、千寿郎が風邪ひいた時や負傷した杏寿郎をしのぶの代わりにちょくちょく顔を出していたのは事実だが。
という事は、自分に冷たく当たる家長の槇寿郎は差し詰め姑の位置付けとでも思われてるのか。
まさかそんな噂になっていようとは思わなんだ。

「あー、なんかとんでもないことに・・・ごめんなさい。
煉獄さんが居たら『よもや!』ってやつですね。
それにしても、そんな噂になってたなんて配慮が足りなかったですね」
「い、いえ!」

縁側に腰を下ろしたが隣の千寿郎に頭を下げれば、恐縮するように慌てる。
そんな必死になる千寿郎の姿にわずかに悪戯心が芽生えた。

「でもそうですね・・・もしお相手が千寿郎くんなら、考えなくもないですね」
「ふぇ!?」
「ふふ、なんてじょーー」
「よもや!千寿郎と はそんな間柄だったのか!?」

突如現れたのは、炎柱であり千寿郎の実兄、煉獄杏寿郎だった。

「兄上!お帰りなさい」
「お邪魔してます、煉獄さん」
「うむ!して、祝言はいつにするのだ」

どうやら話を聞いていたらしいが、肝心な所を聞き漏らしている。
盛大に勘違いしている杏寿郎に千寿郎が弁明する。

「あ、兄上。誤解でーー」
「しかし 。まだ千寿郎は幼い、然るが故に考え直してはもらえまいか!?」
「あの、兄うーー」
「確かに千寿郎は器量が良い上に穏やかだ!お前の鑑識眼は素晴らしい!」
「あにーー」
「うむ!だが歳の頃合いが近い方が良いだろう!だから千寿郎は諦めろ!」
「・・・」
(「近いんだけど・・・」)

口を開く度にこちらと距離を詰めた杏寿郎はの真ん前で目を見開いて言い放った。
どうしよう、ポンコツがいる。
普段の炎柱・煉獄杏寿郎の姿を模したポンコツが目の前に居る。
若干の殺気も滲み出す杏寿郎には帯刀した柄に手を掛けた。

「して、 。千寿郎にどこまで手を出したか正直に話して貰おーー」
「煉獄さん」
「なんだ!」
「千寿郎くんが大事なのは分かりましたから、柄から手を離して少し落ち着いてください。
私も応戦しますよ?」
「む」

やっと落ち着いた杏寿郎に事情を最初から説明する。
そしてようやく話を理解した杏寿郎が膝を叩いた。

「よもや!そんな話だったのか!」
「ええ。任務帰りとかに入り浸ってたのをご近所さんに勘違いされたそうです。
千寿郎くんには迷惑かけられませんし、どうしましょうかね・・・」
「そんな、僕よりもさんの方が・・・」
「いやいや、私より千寿郎くんですよ。
ほら、ご近所さんと毎日顔を合わせるは千寿郎くんですし」

家長の事はこの際どうでもいい。
何か言われたとしても言い逃れできる経験は豊富だろう。
問題は歳若い身空で千寿郎に嘘をつかせるのが忍びないことだ。
勝手に流れた噂をいちいち弁明するのも違う気がするし。

「いっそ継子とか?うーん、嘘には変わらないからダメか」
「うむ。良い解決策を思いついたぞ!」
「本当ですか?」
「さすがです兄上!」

自分ではさっぱりだった。
さすが柱となれば違うとは答えを期待する。

が嫁いでくれば万事解決だ!」
「・・・はい?」
「・・・」
「そうすれば千寿郎も後ろめたい思いもしないで済む!」

前言撤回。
期待外れも甚だしい。

「・・・煉獄さん、嫁ぐ意味をご存知ですか?」
「うむ、輿入れだな!」
「それには相手が必要なのはご存知ですよね?」
「無論だ!俺で手を打とう」
「・・・は?」
「!?」
「うむ。俺の嫁になれ!」

そもそもの問題解決になっていない上にとんでも発言なんだが。
一人暴走思考状態の一応の上官に、隣に居る千寿郎には助けを求める。

「えー千寿郎くん、君の兄上はどうなっちゃったのか説明してくれませんか?」
「あの、えっと・・・」
「千寿郎!今日から は義姉だ!義姉上と呼びなさい!」
「どうしよう、ご乱心が過ぎてどうしたら良いの」

私では手に負えない。
隣の千寿郎もおろおろとするばかりで、どうやら良策を持っている様子ではない。

「よし!では父上にも報告をしよう!」
「ちょっ!とんでもなく絶対ややこしい事になる結末しか想像できないですからやめてください!」


























































>おまけ
ーーギチギチギチッーー
!貴様ぁ、杏寿郎を歯牙にかけたか!?」
「お、親子揃ってポンコツってどうなんですかね!
いい加減刀をしまってください、槇寿郎様!」
「うむ!熱い語らいだな!」
「少し黙って煉獄さん!」
「誰が貴様に御義父様と呼ばせるか!」
「一生呼ぶつもりないですけど!?」
、これからは俺の事は名前でーー」
「静かにしなさい煉獄さん」
「・・・はい」
「すでにカカア天下気取りか貴様っ!」
「いい加減にしなさいボケ柱!」



このやり取りでウワサは無事に消えましたとさ



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2020.6.14