ーーウタカタの夢現ーー

















































































































(「あー・・・やばい、これはすぐ動けない・・・」)

雨が顔に当たる。
しとしとと降り続く音を聞きながら、刻々とゆっくりと過ぎていく時間をただ無感動に感じていた。
鬼は倒した。
人質らしい村人だか旅人は、鬼に殺される寸前で助けることができた。
連日の雨で足場がぬかるむ中、時間はかかったが相手はたいした敵ではなかった。
ただ、視界が最悪で着地した場所が運悪く抜けて、滑落し背中を強打した上、受け身が疎かになってしまったので動けなくなった。
そうただそれだけだ。

(「ムキになり過ぎた・・・」)

自覚している。
直前の任務で、踏み込んだ屋敷は血の海。
鬼は倒したが当然、生存者はゼロ。
だから次の任務こそはと、躍起になってしまった。

(「結果、このザマ・・・情けなさ過ぎて笑うしかなーー」)
「っ!」

こみ上げた笑いに気が緩んだ瞬間、鋭い痛みが走り顔が歪む。
辺りが暗く怪我の程度が分からない上、背中の強打による痺れが全身に渡っていて今は腕を上げるのも相当難しい。
折れるような落ち方はしてはいはずだか、すぐに任務に向かえるような軽傷でもない気がした。
いや・・・

(「そんな暇ない、動けるようになったらすぐに・・・」)

強引に体を起こそうとするが、まるで芋虫のような緩慢な動きしかできない。
長い時間をかけ、やっと片肘を付ける体勢に戻し、荒く息をついたは呼吸を整え集中する。

(「肋はヒビで済んだ、背中はまだ痺れが残ってるけど、とりあえず足は動く。
左肩は外れたから入れ直せば動ける。
酷いのはこれくらいか・・・」)

これなら問題ない。
は足を引き寄せ、うつ伏せからなんとか土下座の体勢まで戻す。
そして腰に差していた刀を抜き、それを支えに上体を起こした。

「はぁ、はぁ・・・」

徹夜続きもあって、体力は残りわずかだ。
どうにか立ち上がると、手近な幹に左肩を勢いよくぶつけ肩を入れた。
突き抜ける痛みに意識は先ほどよりも鮮明になった。
しかし、目の前はどんどん霞んでいく。

(「・・・すこし、ちょっとだけ・・・休んで・・・」)

そうしたら次の任務へ向かおう。
私には休んでる暇なんて無い。
ずるずると幹へもたれかかりながら、の意識は闇に落ちた。







































































































ふわふわする。
それにあったかい。
この感じ、覚えがある。
夢だ。
ぼやける視界に見覚えのない天井が飛び込み、首を巡らせば囲炉裏を背にしたあの人がこちらを見下ろしているようだった。
囲炉裏の火が逆光になり、よく見えないその人はいつものあの声で聞いた。

「気が付いたか?」
「・・・いつも、情けない姿ばかり見られちゃいますね」

優しい声だ。
続く事を願ってしまう。
現実ではこの人がタイミングよく現れるなんてあり得ない。
それでも求めていた姿を見、あの声が自分に向けられてとても心が穏やかになった。

「・・・ふふ」
「どうした?」
「都合のいい、ゆめですね・・・」
「・・・夢か」
「だって、悲鳴嶼さんと会えました」
「・・・」
「いつも弱ってると悲鳴嶼さんを思ってしまう、私は未熟者です・・・」

夢だからか、普段は流れない涙が目尻を伝った。
それを大きな手の指先が慰めるように拭う。

「十分、強い」
「ふふ・・・やっぱり優しいな。それにきもちいい・・・」

額に当てられた手に表情が緩む。
大きくて温かいその人の手は、今は自分より低くてずっと触っていて欲しい気さえする。
だが、今自分が動けばそこで夢が覚めてしまいそうで、それが惜しくてはそのまま続けた。

「ねえ、悲鳴嶼さん」
「どうした?」
「・・・わ、たし・・・好きですよ」

額に当てられていた手が僅かに反応した気がした。
同時に自分の意識がさらに沈んでいくのが分かる。
もうすぐ、この夢が覚めるんだろうと思った。
は手を伸ばし近くにあったその人の羽織りを掴んだ。

「この、香り・・・抱きしめて、もらってるみたいで・・・すき」
「・・・そうか」
「はい・・・」

頭を撫でられているような気がしながら、の意識はさらに深く沈んでいくようだった。

「ゆっくり眠れ。お前は十分にーー」
(「あーぁ、もっと・・・話してたかったな」)

夢だからそんな願いは叶わないと知りながら、は目覚めの眠りへと落ちていった。

「・・・あれ?」

だが、次に目を覚ました時に見たのは見覚えがありすぎる天井。
そして覗き込んできた会いたくなかった美人顔。

「おや、お目覚めですかさん」
「・・・え・・・しのぶさん?
え?・・・蝶屋敷?え?は??ちょ・・・な、なんで?」
「隠に運び込まれたんですよ。
まったく体調管理もできないなんて、と言いたい所ですが怪我を押して任務をやり過ぎです」
「・・・」
「このクマ4徹はしてますよね?それに感冒による発熱も認められますよ」
「・・・」
「何か仰りたいことがあれば聞きますが?」

整った笑顔の下に隠れている殺気に、は取るべき最善策を口にした。

「無いです」































































見たのはユメかウツツか

>おまけ
「えっと、質問は許されますでしょうか?」
「ひとつだけなら」
「悲鳴嶼さんはどちらにいらっしゃいますか?」
「悲鳴嶼さんならまだ任務ですよ」
「そうですか・・・」
(「やっぱり夢か」)
「なら隠の誰が私をーー」
さん?」
「ハイ、大人シク寝マス」


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2020.10.17