ーー特効薬ーー
(「痛ってぇ・・・」)
蝶屋敷の帰り道。
既にない左手が痛みだしだ。
ここ最近は頻繁に起こり、睡眠も浅い自覚がある。
幻肢痛。
薬ではどうにもならないことに地味な苛立ちが募る。
さっさと帰って寝るか、と屋敷に戻った。
「おう、帰ったぞ」
「お帰りなさいませ、天元様。
お客様がいらっしゃってますよ」
「客だ?」
雛鶴に言われ部屋がある縁側に向かってみれば、縁柱に寄りかかっている人物がいた。
陽光に光る暗紫の髪。
黙っていればそれなりに整った顔。
(「うたた寝してやがるのか、こいつ」)
そう言えば最近顔を見ていなかった。
また強行軍で任務に当たっていたのだろう。
相当疲れているのか、手が触れる距離でも目覚める気配はないほど熟睡している。
こっちが幻肢痛で苛立っていると言うのに呑気な奴だ。
と、の横顔を見下ろしていた天元は、何か思い付いたように数歩の距離を詰めた。
「よいせっと」
「ん・・・」
(「お、起きたか?」)
しかし、どうやらその様子はないようだ。
小柄な体を自分の前で抱き抱えた天元は、一緒に庭を眺めるように後ろからに腕を回す。
待っている間に陽の光を浴びていたからか、それとも当人が寝ているからか良い塩梅の湯たんぽになっていた。
(「ぬくいなこいつ・・・起きた時の派手な抜け顔まで待っておくか」)
じんわりと陽だまりの暖かさを伝えるソレ。
不思議と痛みが引いていく中、心地よい温度に天元もゆっくりと目蓋を閉じた。
しばらくして、お茶を持ってきた雛鶴は縁側で仲良く日向ぼっこしている二人を見つけた。
「あら、ふふふ」
「どうしたの雛鶴?」
「見てよまきを、アレ」
「アレ?・・・ま、素敵!」
「天元様がお目覚めになるまで、夕飯の準備でもしておきましょうか」
「そうね、買い出しに行った須磨に甘味も買ってきてもらいましょうか」
>おまけ
「何アレ?めっちゃムカつく光景なんですけど」
「あら善逸くん、いらっしゃい」
「雛鶴さんアレ、あのままで良いんすか?」
「うふふ、そうね。大家族になるわよね」
「は?」
(「あったかい・・・おっきな猫に包まれてるみたい・・・」)
(「良いサイズの万能湯たんぽだなこりゃ・・・」)
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2020.4.12