ーー休憩ーー




















































































































とっぷりと夜も更けた。
空には細い月が浮かび、いつもより闇が深い。
樹々でさえも存在を悟られないようにひっそりと息を潜めているような錯覚に陥る。
調べ物をしていたはそろそろ床に就こうと間借りしていた部屋へと向かっていた。

「ん?」

そんな折、縁側に夜空を見上げる人影があった。
見知った顔には静かに声をかける。

「こんばんは、炭治郎くん」
「あ、さん」
「珍しいですね。君が沈んだ顔になっているなんて」

横顔にはいつものはつらつさが欠けていた。
先の任務で負傷し、蝶屋敷に運び込まれた彼を治療したのは他ならぬだ。
その後はしのぶに引き継いだが、怪我の程度を知っている自分としては出歩くのは感心できる状況ではない。
そう思ったが、思い詰めたような若い隊士を前に正論をすぐに口にできず隣に腰を下ろした。

「どうかしましたか?」
「その・・・不注意で怪我してしまって、しばらく任務に行けない自分が不甲斐無くて・・・」

相変わらず生真面目だ。
だがそう思うのも仕方ない。
今回の彼の負傷は、骨が折れている上に靭帯まで痛めている。
ここで無理をすれば長引くのは必須。
恐らく、しのぶにも強めに言われたはずだ。
まあ、そのようにした方がいいと言ったのは自分なのだが・・・
目に見えて沈む炭治郎に、は距離を詰めると覗き込むように少年の顔を見上げた。

「炭治郎くん」
「はい?」
「確か君は長男でしたね」
「はい!」

夜更にも関わらず威勢の良い声。
もはや条件反射のそれに小さく笑ったは、自身の羽織りを脱ぐと目の前の少年に被せた。

ーーパサッーー
「わ!」
「私が良いと言うまでの間、長男はお休みです」
「は、はい?」
「上官命令」
「はーー」

返事が返る前に、は羽織りごと目の前の身体を抱きしめた。
硬直する炭治郎に構わずは背中に回した腕で優しく背中をぽんぽんと叩く。
続けて穏やかな声音で呟いた。

「よく頑張ってますね」
「!」
「君は今日までよく頑張ってきました。禰豆子ちゃんは大丈夫。君は立派なお兄さんです。君の努力はちゃんと報われます」

辺りには夜風の葉擦れの音。
包まれる温かさに、仄かに香る甘い瑞香。
無意識に張り詰めていた緊張が、ゆっくりと溶けていくようだった。

「大丈夫ですよ」
「・・・」
「大丈夫です」
「あ、あの!」

しかしやはり長男である意地からか、こちらから距離を取ろうと炭治郎はの肩を押した。

「そ、その!俺は長男なのでーー」
「あら。隊律違反とは度胸がありますね」
ええ!?い、いや、違っ!その俺はまだまだ未熟でーー」
ーーポスッーー
「はい、却下です」

再び抱き締め戻したは笑いながら実力行使に出た。

「そう張り詰めては治るものも治りません。今は誰も見てませんから」

腕の中で葛藤しているのが分かり、は苦笑しながら再び背中をぽんぽんと優しくあやす。
そして先ほどと同じように穏やかな声で、ゆっくりと炭治郎に言の葉を降り積もらせていく。

「大丈夫ですよ」
「・・・」
「大丈夫です」
「・・・っ」

それは今まで堰き止めていたものをたやすく崩してしまうほど懐かしいもので・・・
ずっと身を固くしていた炭治郎は、の衣を掴みただ静かに頭を預けた。



































































一番上ってなんだかんだ我慢や意地を張らざるを得ないんだよね



>おまけ
「むー・・・」
「こんばんは、禰豆子ちゃん。
お兄さん疲れちゃったみたいなので、もう少し休ませて上げてください」
「むーむー!」
「ふふ、そうですね。じゃあお兄さんが起きるまで禰豆子ちゃんも一緒にお休みしましょうか」



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2020.06.03