ーー継がれた約束ーー




































































































































ちょうど任務帰りで、岩柱邸を訪れていたは手土産を使った夕餉の準備をしていた。
そして屋敷の主の帰りを待ち出迎えてみれば、なかなか珍しい光景で帰ってきた。

(「・・・どうしたんだろう」)

いつもより空気が刺々しい。
確か今日は柱合会議だったはず。
新しい柱が加わると聞いていたが、何かあったんだろうか?

「悲鳴嶼さん、柱合会議で何かあったんですか?」

夕餉が整うまではもう少し時間がかかるので、お茶を淹れズバリの核心を問う。
普段から穏やかなこの人がここまで刺々しいなら、遠回しに聞くのは不要だろう。
すると、小さな嘆息をこぼした行冥は湯呑みを手にしてゆっくりと語った。

「うむ・・・新たに風柱が就任したが、少々礼儀を弁えていなくてな」
「・・・そうなんですか」

少々とこの男が言うなら相当ひどいことになっていたのだろう。
何をしでかしたのだろう。
柱同士でイザコザを起こしたか、お館様に礼を失したか。
縁側で並んで湯呑みを傾けながら、行冥はげんなりと続ける。

「その上、水柱とさっそく不仲になってな」
「あはは、冨岡さんの言葉足らずは今に始まったことではありませんけど、不仲になるのは困りますね。
それで、どんな方なんですか?」
「お前も何度か会っているかもしれん。
名を不死川実弥、稀血を持つ剣士だ」
「不死川・・・稀血・・・もしかして、誰彼構わずケンカ腰にお話する方でしょうか?」
「知っていたか」
「私の記憶にある方と同じなら、何度か手当をしたことがありますから」

とは言え、よろしくない記憶しかない。
治療を拒否られるわ、強引に手当てを始めれば胸ぐらを掴まれ凄まれるわ、隠に散々な態度を取るわなどなど。
挙げればキリがない。
だが・・・

「でも・・・あの人が荒れるのも致し方無いかもしれません」
「どういう意味だ?」
「先の任務で彼の兄弟子が殉職されたと聞いています。
柱に就任されたばかりとはいえ、気持ちの整理がつかないのも無理からぬ事かと・・・」

予想している人が柱となったなら相当気が立っていたのは想像に難くない。
それにタイミングとしても最悪だったろう。
の言葉に驚きは返らない。
どうやらその事実はすでに柱の知るところのようだ。
普段よりも険しい表情になった行冥は苦々しく呟いた。

「だからと言って、お館様への暴言が許されるものではない」
「それは正論ですね」

その指摘は全面的に行冥が正しい。
柱として感情より先に優先すべき事があるのは、鬼殺隊に身を置いて痛感していた。

「匡近さんは・・・」

行冥の隣でがぽつりと呟く。

「殉職されたその方は・・・不死川さんをいつも気にかけていました。
素直じゃありませんけど、不死川さんも同じだったと思います」
「・・・知り合いだったのか」
「はい。
匡近さんが無茶な戦いをしていた不死川さんを見つけて、彼の育手の元に預けたのですが、
たまたま私がお邪魔していた時に連れて来られて以来の付き合いです・・・
不死川さんの酷い負傷具合もなかなか強烈でしたからよく覚えています」

ま、連れてこられてすぐ貧血で気を失っていたから向こうはこちらを知らないだろうが。
よくもあんな重傷に近い状態で鬼を狩っていたかと思うと、匡近と出会えたのは本当に幸運だったろう。
それに彼はもう受け取っただろう。
匡近の願い、遺書にもしたためられているだろう、彼の想いを。

『弟?』
『あぁ、似てるんだよアイツ』
『・・・匡近さんの弟さんって、あんなに凶悪なんですか?』
『引くなよ!違うって、なんか優しいくせに不器用なところがさ・・・』
『優しいのは匡近さんも良い勝負だと思いますけど』
『え?そうかな?』
『お人好しも上乗せされてます』
『ははは、がそう言うならそうかもな』
『呑気に笑ってられるような負傷具合じゃないんですよ。兄弟子っていうなら少しはらしくしてください』
『痛っててて!ちょ!少しは手加減してくれ!』
『この程度、その弟弟子は涼しい顔してますよ』
『・・・あいつの傷はそれだけ深過ぎるんだ』
『はい?』
『痛みも優しさも、全部諦めてるっていうかさ・・・
だから余計に目が離せないんだ』
『なら、こんな怪我してる場合じゃないですよ』
『ははは!本当だな。
そうだ。今度、実弥と一緒に茶屋にでも行こうぜ。
あいつあんな顔でおはぎが好きでさ、行きつけの茶屋もあるみたいなんだ』
『・・・とっても賑やかな時間になりそうですね』

それが匡近との最期の会話になった。
負傷した匡近の手当ての後、新しい任務で飛び回り帰って来て受けた連絡は匡近の訃報だった。

?」

掛けられた声に我に返った。
こちらを見下ろす行冥の心配そうな視線には小さく笑った。

「あ、いえ・・・さて、そろそろ夕餉にしましょう。
山菜が手に入ったので炊き込みご飯作ってみましたので」
「うむ、いただこう」

腰を上げたに行冥が続く。
明日にでも匡近の墓参りに行こう。
その帰りに茶屋でおはぎでも買って、彼の弟弟子の所に押し掛けてみるか。
彼がそれだけ心配していて自分にそんな話をしたなら、もしかしたら予見していたのかもしれない。
それとも、もし生きていたら彼は自分の事も・・・

「まったく、どなたもお人好しが過ぎて困りますね」
「む?どうかしたか?」
「いーえ、私も鍛錬頑張らないと、と申し上げたんです」
「そうか」
「はい、そうですよ」






































































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2020.8.9