ーーお約束ーー





















































































































・・・苦しい。
息をすればその倍の咳が出る。
酸欠に近い状態で迫り上がる再びのそれを意地で押さえ付けた。

「ゴホ"ッ・・・」
「お約束ですね」

横になれず上体を起こして格闘していれば、ひょいとこちらを覗き込む可愛い美人顔が現れる。
今借りているこの離れの主である胡蝶しのぶの笑みに、恨めしげには呟いた。

「・・・楽じぞうでずね"」
「あら、そんな事はないですよv
でもそうですね。さんが寝込む姿を見るのは貴重ですから」
「う"ー・・・」

返す言葉もない。

「とはいえ、今回はお館様が罹ることなく鬼殺隊の任務に支障が出る前に感染拡大が防げたのはさんのお陰です」
「アオイざん達の協力の賜物でず」
「折角ですからゆっくり休んでくださいね」
「・・・」

その言葉に甘えたい所だ。
が、今日までいろんな人の看病をしてきた。
全ての元凶を引き受けた所為で、自身が最初以上の感染源になりそうな予感にここから抜け出したい気がしないでも無い。
・・・しのぶが仕事に戻ったら抜けるか。

「そうそう、さんは逃亡の前科持ちなので、周囲の張り込みに隠から有志を募ってますから無駄な事を考える暇あったら治す事だけを考えて下さいv」
「・・・ぁぃ」

今回はどうやら向こうが一枚上手だったようだ。

「それにしても今回は柱も殆どが感染してしまいましたね・・・
時透くんは長期任務だったから分かりますが、伊黒さんと甘露寺さんはどうして罹らなかったんでしょう?」
『蝶屋敷で偶然会った伊黒さんから、流行性感冒が流行るかもしれないから気を付けろと言ったら予防策と対処を事細かに教えろと言われたので』

あの時の圧は面倒の一言だった。
せっかく事細かに教えた後は、蜜璃が罹ったら殺すまで脅され盛大に引いたが。
喋ると咳が出るので、筆談で答えればしのぶは苦笑した。

「それで甘露寺さんも無事とは万能ですね」

それは同感だ。
下手な医者より腕がいい。

『終いには直接会うのは控えろ、鴉で連絡してから来いとまで言われました』
「正しいですが・・・」
『ええ、心境は微妙でした』
「兎も角、さんはゆっくり養生してください」
『お願いがあるんですけど』
「見張りを下がらせる以外なら聞きましょう」

まだ言うか。
とも思ったが、前科持ちの自分の所為でもあるのでそこは仕方なく甘んじることにした。
そして本来の目的であるお願いの内容を見せる。

『今回処方した薬の配分を変えて新しく薬を調合したので試したいんです。作ってみてくれません?』
「それは構いませんが・・・」

何故今それを、というしのぶの顔。
察しの良い彼女なら既に分かっているだろうに。
次はこんな状況にする訳にはいかない。
万年人手不足な上、人的損耗が激しいこの隊で動けなくなる隊士が出るなど、まして柱が動けなくなるなどあってはならない。
だからこそ、新しい技術・知識・薬は幾らあっても困らない。
ないなら自分達で作るしかない。

『効能と副作用の確認です』
「はぁ・・・さん、あなたと言う人は・・・」
「?」

困り顔を深めるしのぶには首を傾げる。
今の言葉のどこに困る要素があっただろうか?

「知ってますか。
あなたのお見舞いをしたいと、押しかけてきた方々を止めるのがどれほど大変だったか」
『それは申し訳ない』
ーーポスッーー

文言を見せていたにしのぶは寄り掛かった。
相手の負担にならないよう、でもその口調にはこちらに対する非難と心配と、自身に抱く無力さへの苛立ちが込められていた。

「私も同じです。
薬は調合しますがせめて私の目が届くところで飲んで下さい。
経過にも目を配りたいですから」
「・・・ありがとう、しのぶ」

言葉でそう言ったは、咳き込みながらも寄り掛かる小さな頭を撫でる。
いつか彼女の姉がそうしていたように。
その人との約束だが、代わりになるには自分には荷が重い。
けど、少しでも身を削るしのぶの心が休まるなら幾らでもしようと思った。

「ゴホッ・・・なんて、年上風吹かせるにはこんなんじゃ格好つかないですね」
「・・・少し横になってください。
薬を調合したら食事と一緒に持って来ますから」
「ん、ありがとう」























































>おまけ
「久しいな胡蝶! の見舞いにサツマイモを持ってきた!案内を頼む!」
「会えないのでお引き取り下さい、煉獄さん」
「よぅ!煉獄じゃねぇか、久しぶりに見たな!
胡蝶、この祭りの神が嫁からの差し入れを持ってきてやったぞ!ついでにをド派手に見舞ってやらあ」
「オイ、仕方ねェから甘味を買ってきてやったぞ」
「・・・鮭大根」
「柱の癖にその耳は飾りですか?面会謝絶です。
冨岡さんも単語言えばいつでも拾ってもらえると思ったら大間違いですからね」
「!?(心外)」
「うむ、猫でも見せてやろうと思ったが・・・」
「おいおい胡蝶さんや。
わざわざご足労した悲鳴嶼さんも拒むのか?ひでぇ女だなぁ」
「全員帰りなさい」




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2020.5.16