ーードダァーーーン!!ーー
ーービクッ!ーー

蝶屋敷からの使いで大量の荷物を持って来たの耳に轟音が響き渡る。

(「な、何事?」)

ドキドキと抗議するような鼓動を宥め、は目的地である風柱邸の中へと入っていった。



















































































































ーーお節介ーー




















































































































「どういうつもりですか!玄弥を殺す気か?」
「殺しゃしねぇよォ、殺すのは簡単だが隊律違反だしよォ」

怒りを見せる炭治郎に、いつも以上に目を血走らせた実弥が味方に向けるには不相応な空気で拳の関節を鳴らした。

「再起不能にすんだよォ。
ただしなァ、今すぐ鬼殺隊を辞めるなら許してやる」
「さっき、弟なんかいないって言っただろうが!
玄弥が何を選択したって口出しするな!
才が有ろうが無かろうが命を懸けて鬼と戦おうと決めてんだ!
兄貴じゃないって言うんなら、絶対にオレは玄弥の邪魔をさせない!
玄弥がいなきゃ上弦に勝てなかった!」

まっすぐに炭治郎は言葉と想いを叩きつける。
それが上官であっても、共に戦った同期であり大切な同志が害されれば容赦なく。

「再起不能になんかさせるもんか!」

ただただ純粋なまでの炭治郎の言葉。
だが、それを遠巻きに見ていた隊士達はこの先に迎える結果に関わりたくないとばかりに距離を取る。
そして、周囲の予想通り最初に対峙した時以上に怒りを見せた実弥が標的を炭治郎に変えた。

「そうかよォ、じゃあまずテメェから再起不能だ」
「やべぇよ、あいつ殺されんじゃーー」
「はい、ちょっと借りますね」

取り巻きが言葉を交わす最中、甘い香りが通り過ぎた。
そして実弥と炭治郎、両者の距離が詰まる。
実弥の鋭い拳が届く。
瞬間、

ーードッ!ーー
「!?」
ーードサッーー
ーーバキッ!ーー
「っ!」

折れた木刀が軽い音を上げ転がる。
実弥の前には頬から血を流す折れた木刀を持った乱入者、が立っていた。

「テメェ・・・」
「そこまでですよ、不死川さん」

の足元では炭治郎が昏倒していた。
拳が届く一瞬で、は炭治郎を昏倒させ、実弥の拳を木刀で受け流したのだ。
使い物にならなくなった木刀を捨てたは、小さく息を吐き淡々と実弥に告げる。

「これ以上は柱として振る舞いに問題があります。
頭を冷やしなさい」
「退けェ、。テメェはすっこんでろ」
「風柱、不死川実弥」

鋭い声に周囲の隊士の肩が跳ねた。
すっと細めた双眸で相手を見据えたは語調を変えず淡々と続けた。

「最終通告です。
私情から激情に駆られて振るわれる剣に何が守れるとお思いですか」
「おもしれェ、見せてやらァ」
「・・・」

先ほどの怒りが収まらぬまま、実弥はとの距離を詰める。
素手で戦うには体格差もあり、圧倒的に向こうが有利だ。
だが、はその場から動かず構えた。
風の唸るような拳がを襲う。
寸前で回避するが、実弥の拳は易々との胸倉を掴んだ。

ーーグッ!ーー
「!」
「テメェが俺にーー」

瞬間、は実弥の口元に布を押し付ける。
すると間を置かず実弥は意識を失いに寄り掛かるように崩れ落ちた。

「っと・・・もう手間取らせてくれましたね」
「あ、兄貴・・・」

不安気な玄弥に、は困ったように笑いかける。
そして、呆気にとられる隊士に向けて声を張り上げた。

「本日の風柱稽古はこれで打ち切ります。
明日、同じ時刻より開始、質問は認めません、各自解散」

ぞろぞろと動き出す隊士を他所に、実弥を支えていたは所在無さげな玄弥に声をかけた。

「さて、玄弥くんには少し手伝って貰いますよ。
炭治郎くんに思いっきり手刀叩き込んじゃったんで介抱して貰えますか?」
「は、はい。その・・・」
「不死川さんなら大丈夫です。
少し荒っぽかったですけど、意識を奪う薬品を使っただけですから」
「・・・」

さらっと言われた事実に、玄弥の顔色はサッと青ざめる。
はそれ以上のフォローは入れず続けた。

「それと、これだけの騒ぎになってしまいましたから何らかの沙汰が下りると思います。
なのでしばらくは悲鳴嶼さんの所で連絡を待って貰いますよ」
「・・・はい」
「うん。じゃ、傷の手当てもするのでひとまず炭治郎くんは縁側に寝かせてあげてください」










































































































陽が傾いた夕暮れ時。
額に新しい濡れた手拭を置いた時、まぶたが動いた事ではその主に声をかけた。

「不死川さん」
「・・・っ」
「気付かれましたか?」
「・・・、テメェ・・・」
「お館様から通達が届きました。
『風柱、不死川実弥及び竈門炭治郎、両隊士の柱稽古期間中の接近を禁じる』とのことです」

文句が続く前に鴉が届けた伝令を伝えれば、実弥は予想していたのか小さな声で応じた。

「・・・そうかァ」
「すみませんでした」

冷静になった実弥に、は深々と頭を下げる。

「柱に対し他の隊士の前で騒ぎを大きくしました。
どんな処罰も覚悟してます」
「けっ、俺がどんな処分下せるってんだァ」
「そりゃ、あんなに大勢の前で喧嘩吹っかけーー」
ーースッーー

と、実弥がの頬の白に触れたことで続きは遮られた。

「?」
「・・・悪かった」

そこは昼間、折れた木刀が掠って血が流れた場所だ。
謝られる謂れはないのだが・・・

「木刀を避け損なったのは私が未熟だからですよ」
「嘘吐け、わざと避け無かっただろうがァ」

それに否定を返さず、はにっこりと笑みを返した。
実はそれはある。
目の前で血を流せば少しは頭も冷えるとかと思ったのだ。
とはいえ、結果は失敗だった訳だが・・・

「身体に不調はありませんか?」
「・・・ああ」
「恐らく頭痛が残ってると思いますが、不死川さんなら明日には消えてると思います。
念の為、お薬は用意しました。
明日は今日と同じ時間から稽古だとは伝えてあります。
それと食事ができるなら用意しますけど、どうしますか?」
「・・・」
「では、用意してきますね。お水は枕元にありますので」

無言にも関わらずそう言ったは手桶を持ち立ち上がる。
そして、厨の方へと軽い足音を立て歩き去っていった。
静かになる部屋。
数時間前とは嫌でも対照的なそれに、実弥は深々とため息をついた。

「・・・お節介なんだよ、馬鹿野郎がァ」





















































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2020.5.26