「・・・」

あー、これは久々にキたな。
頭を鈍く締め付ける痛みの片鱗には長く息を吐いた。
ここ最近、任務を詰め込んだ自覚がある。
後味が悪いものばかりで、寝る間を削って考え込む時間をあえて避けていた。
だがここに来て身体の方が限界らしい。
過去、この予兆を無視して動いた結果、ロクな目に遭っていない経験を持っていたは手伝い始めたばかりの荷物をその場に置き、屋敷の主の元へと歩みを進めた。





















































































































ーー心の隙ーー





















































































































「・・・ん」

何だろう、妙に温かい気がする・・・
視線を身体に向ければ、腰辺りにある自分じゃない腕。
ぎょっとして勢いよく後ろを向いた瞬間、絶句した。

(「な!?」)

至近距離に音柱の寝顔。
相変わらず整って・・・じゃない。
待て待て待て待て待て、ちょっと落ち着け。

(「え・・・気付けなかった?部屋に入って来たのに?
あまつさえこんな距離で寝られて腕まで回されて目覚めなかったの?」)

おいおい。まじかよ自分。
いやいやいや、少し冷静になれ。思い出せ。
確か体調が思わしくないから横になって休んだはず。
しのぶにも断り入れたし了承も貰った。
何処かに出かけた記憶も勿論ない。

(「刀は記憶通りの場所にある。
血鬼術?・・・いや、そんな感じない。ならこれはゆーー」)
「何だ、起きたか」

混乱している間に向こうが目を覚ました。
喋った事で夢ではない決定打を打たれた。
致命的な精神ダメージに、はゆっくりと上体を起こし寝起きの伊達男を見下ろした。

「あの・・・コレは一体どういう事かご説明願いたいのですが」
「説明も何も、一緒に寝ただけだろう」

おいこら既婚者、説明になってないっつーの。
ゆらりと不穏な影を背後に見せたはひくつく米神を自覚しながら低い声が上がる。

「ですからーー」
、胡蝶がーー」

その時、襖が開けられ現れたのは水柱。
間が悪すぎる。
当人でさえ状況が飲み込めないというのに、他人が見れば一つの布団に男と女。
普段から感情が読み難い男は、いつも以上な無表情で固まっていた。

「とみーー」
「・・・失礼する」

不味いと思ったが後の祭り。
引き留めようと伸ばした行き場のない手はゆっくりと下される。
当然の反応で義勇は静かに退室していった。
面倒事になっている。
頭痛がしてきそうな状況に、額を押さえたはひとまず盛大なため息をついた。

「説明をお願いします」
「は?お前が珍しく寝てたから添い寝してやったんだ。
派手に感謝しろ」
「頼んでないのに恩を着せないでください」
「・・・」
「はぁ・・・ひとまず冨岡さんの誤解をーー」

「煩いです」
「良い眺めだな」
「は?」

天元の言葉に視線を上げれば悪戯顔のニヤケ面。
なんか腹立つなと思いながら、その視線を辿るとそれは自身の装いに当たる。
寝巻きの前は緩くというには世辞のあるくらいにはだけ、帯も今にも解けそうだった。

「・・・」
「せめて着直せよ、まろび出るぞ」
「ご親切にどうも。ついでに出て行ってくれませんかね?」

さらしも巻いていないこんな状況を義勇に見られては、誤解しても仕方ないと思うしかない。
出て行く気配を見せない天元に、は背を向けると手早く身支度を整えた。
そして、自身の羽織りに袖を通すと立ち上がった。

「宇髄さん」
「おう」
「この事はしのぶさんに報告させて頂きますから」
「は?」
ーーパタンーー

いうが早いか、は部屋を出て行った。

「・・・あいつ、気付いて無かったのか?」

ーー数刻前。
蝶屋敷で検診を終えた天元はとある部屋の前で足を止めた。
物音に部屋を覗いてみれば、そこに居たのはいつものからかい相手。
普段は見ない寝ている姿に珍しい事もあるものだと、興味半分で部屋に入る。
だが近付いてみれば予想外の姿。
自身を掻き抱きその身体に爪を立て、寝巻きがはだけた素肌に食い込む爪先には薄らと赤が滲む。
起こしてやろうかと思ったが、目の下にあるクマにその選択は消える。
そのままにするのも忍びなかったがあまりにも苦しそうな姿に、目を覚ますだろうと思いながら力が篭ったその手に自身の手を重ねる。

(「ちっせぇ手だな・・・」)

簡単に自身の手に収まってしまうそれ。
そして力を込め過ぎられたからか異様に冷たい。
力尽くで外すこともできたが、それをすれば間違いなく目を覚ます。
暫くそのままで居れば、冷えていた手から力が抜ける。
緊張が解けたようなだったが、その表情は未だに苦悶を浮かべていた。

(「夢見でも悪いのか?」)

届く音はとても苦しい。
起きている間には聞いた事がない、不安定で今にも折れそうな音。

「・・・めん・・・い・・・」
「・・・」

途切れる呟き。
流れる軌跡。
同一人物とは思えないほど弱々しいそれに、天元は捲れた上掛けを静かにに掛け直す。
そして、背を丸めるの横で幼子をあやすように上掛け越に優しく叩いた。

「地味に悩んでんじゃねぇよ」

己の弱さを見せない。
いや、上手く隠す目の前の姿に柄にも無く妙な焦燥に駆られる。
初めて出会った時も危うい音を響かせていた。
と、その時。
よくがこの屋敷の主にやっていた事を思い出した。
今動けば起きそうな直感に、天元はその場からの背中越しに腕を回した。
すると今度は間を置かず呻き声はゆっくりとした寝息に変わっていった。

(「まぁ、起きたらあやし賃に聞き出してやっか」)
「・・・って事になってたっつったら。どんな顔すんだかな」

ニヤニヤと笑いながら、天元は刀を取りに戻るだろう人物を横になったまま待つことにした。
所変わり、蝶屋敷の屋根の上。
そこにはこの屋敷の主の元へ向かっていたはずの人物が、羽織を頭から被り身動ぎせず沈んでいた。

「・・・」

目が覚めた直後は動揺したが、意識がしっかりしてくると虚ろながらな記憶が目の前を掠める。
酷い時には寝巻きを血で汚すほど自傷するはずの指先の汚れは僅か。
両手に残る温もり。
自分を包んだ安心させる声。

(「有り得ない、恥で死にそう///」)

天元の言葉通りな状況だった事に、はこれでもかと意気消沈するしかなかった。






























































実はうっすら覚えてたという恥オチ

>おまけ
「冨岡さん、先日のは誤解ですからね」
「・・・そうか」
「宇髄さんが勝手に潜り込んで来ただけです」
「・・・そうか」
「私は寝不足で寝てただけなんですからね」
「・・・そうか」
「人の話聞いてますか?
というか、どうして私がこんな言い訳がましいような事を並べなくちゃいけないんですか!
「・・・俺に当たるな」




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2020.5.10