ーー遊郭潜入・後編ーー




















































































































遊郭の入り口で分かれた実弥と視線で頷き返し、作戦が開始される。
事前に話が通っていたのか、善逸とはあっさりと遊郭の中へと通された。
そして中で待つように言われた部屋で2人は小さく息を吐いた。

「あのさん。任務あるって聞いてますけど・・・ここに居て良いんですか?」
「うん。善逸くんが一緒だからきっと早く終わると思いますから」
「いや、俺弱いからそんな期待されても・・・」

すん、と表情を落とした善逸にはおかしそうに笑った。

「というのは冗談で」
「ええっ!酷い!!」
「私も強い訳じゃないから、同じ気持ちの人と組みたかったのかもしれません」

ふふ、と笑いながら軽口をたたくに善逸はいじけるように小さく呟いた。

「でも、さんはもう10年近く鬼殺隊にいて柱並に強いって聞いてますけど・・・」
「その噂は尾ひれ付き過ぎですね・・・
ま、臆病さが高じて悪運強くっていうのは事実ですけど。
善逸くんのように鬼や任務に対する恐怖も消えたことないですしね」

だがそれ以上に自身を駆り立てるのは使命感だろうか。
他の隊士のような、綺麗な正義感や義務感ではない。
深い深い贖罪の念、自身が抜け出したい強迫観念から逃れたいが故の使命感という名の我欲。
言いながら、は胸を疼く痛みから目を逸らすように笑う。

(「あ・・・この音・・・」)

灯りの加減か、その横顔に寂しげな色を見た善逸の耳に届いた音は聞き覚えがあった。

「んー、なんて言えばいいか・・・
同族の匂いというか、空気を感じたんですよね、君には」
「俺に?」
「宇髄さんがしょっちゅう構ってくる所とか」
「全然嬉しくないとこ!」
「根暗な所とか」
「言い方!」
「自信を持てなくて自分が嫌いな所とかね」
「う"っ!」

的確な指摘に何も言えない。
慰められたかと思えば突き落とされた形容し難い激励に善逸は肩を落とす。
その様子にあの涼やかな声で優しく語られる。

「でも、善逸くんが私と決定的に違うのは、諦めずに立ち向かう勇気がある所ですね」

見習わないといけませんね、とふわりと笑いかけられる笑顔に、善逸は胸の奥が締め付けられるようだった。

(「・・・こっちが泣きたくなるような、優しいけど悲しい音・・・」)

炭治郎に似たそれ。
でも、触れれば壊れそうな歪な危うさを持った音に善逸は泣きそうな顔になる。
それを見て驚いたのはの方だった。

「えっ!?ちょ、善逸くん?大丈夫?」
「あ、れ・・・俺、なんで・・・」
「どうしよう、なんかごめんなさい。
調子に乗って言い過ぎちゃったか、泣かせるつもりは無かったのに」

幼子をあやすように抱き締められ背中をさすられる。
自分より小柄な小さな身体。
それが最前線で10年近く戦っていたと思うと、無性に泣けてきた。

「大丈夫、大丈夫。落ち着くまでこうしてますから」
(「・・・良い匂いだな・・・キレイだし穏やかな音で安心するし、柔らーー」)

と。
そこまで至って自分の状況を思い出す。
女装しているとはいえお年頃の少年と女が部屋に2人っきり。
あやされている、というか抱き締められている。
何より自分の胸に当たっているとってもふくよかな弾力。
善逸は飛び上がって部屋の隅の箪笥に激突した。

ーードゴッ!!!ーー
「ご、ご、ご、ごめ、ごめぇぇぇぇッッッ!?」
「ちょっ、すごいどもってるけど?息してます?」
「〜〜〜〜〜ッッッ!!!」
「え、本当に大丈夫、善逸くん?」

至近距離で覗き込むに、善逸は合掌した。

「我が人生に悔いなし」
「ははは、十代でその言葉は早過ぎですよ」

先ほどの暗い顔が消えた事で、は善逸の頭に軽く手を置き立ち上がった。

「さて、落ち着いたならさっくり任務を片付けましょう。
善逸くん、あなたの耳をお借りしますよ。鬼の居場所を探って下さい。
その間、あなたの事は何があっても守ります」

隠していた日輪刀を手にしたが、いつでも抜刀できる体勢で身構える。
安心できる笑みに善逸は頷き返した。

「はい!」










































































































「この遊郭内に一匹、庭に面した森に二匹鬼の音がします」
「うーん、そう来たか・・・」
「どうしますか?」

探られた結果には考え込む。
当初、天元の話では2つの遊郭の片方に鬼が潜伏しており確率が高いと思われたのが炭治郎と伊之助が潜入した遊郭だった。
とはいえ、逃げられた場合も想定し両方の遊郭を確認するということになったのだが、鬼達はこちらに移動してきたか、もしくは新たに増えたことになる。
結果は予想と違ったが、どちらにしろやる事は変わらない。

「中の鬼を善逸くんにお願いできますか?
人に化けているなら、私では判別難しいでしょうから」
「でも、外はーー」
「問題ありません」

そう言って、にっこりとは笑った。

「自分を囮にして出てきてもらった方が手間が省けますからね」

ーーブンッーー
(「動きにくっ・・・」)

斬撃を躱されたは内心毒づいた。
善逸と別れたは庭から逃亡する遊女のふりをし、それに吊られた鬼を狩ったのだが・・・
一匹はすぐに倒せたが、残る一匹が思ったより動きが早い。
普段の隊服ではない足元を邪魔する着物。

ーーズルッーー
(「しまっ!」)

裾を踏んでしまい、踏ん張りが利かず体勢が崩れた。
鬼がその隙を見逃す筈もなく、素早い動きでこちらに凶刃を穿つ。
手傷を負う覚悟で、はなんとか急所を庇うように体勢をずらした。
その時、

ーーズゴーーーンッ!ーー

閃光が走った気がした。
新たな敵襲かと身構えるが、先程まで対峙していた鬼の気配が消えている。

「一体、何が・・・?善逸くん?」
「ンガッ!
あれ・・・さん、終わったんですか?」

そこには遊郭内に居るはずの善逸の姿。
声をかける直前の様子はまるで眠っていたように見えた。

(「・・・もしかして、さっきのこの子が?
でも屋内に居たはずなのに、それを一気に駆け抜けたってこと?」)

彼が出てきたと思われる2階に当たる窓は吹き飛んでいる。
何より彼の装いはどう見ても戦闘後。
それには以前聞いた話を思い出していた。



『あれは少々厄介でな』
『厄介、ですか?』
『うーむ、生い立ちから自分に自信が持てず己が力を過小評価し過ぎておる』
『でも最終選別を突破されたと聞いてますが?』
『あれは意識を飛ばした時にのみ本来の力を発揮するんじゃ』
『・・・難儀な体質ですね』
『普段は軟弱でヘタレで臆病もんで女誑しだが・・・任務を重ねいつか己の枷を壊すことができると儂は信じておる』
『では、もしそのお手伝いができる時は私も協力しましょう。
時に桑島さん』
『なんじゃ?』
『最後の困った性格は師匠に似たのでは?』
『や、やかましい!』


「あの、 さん?」

戸惑いながら問いかける善逸には取り繕うように聞いた。

「いえ、なんでもありません。それより、鬼の音は聞こえますか?」
「え?・・・あれ?もう聞こえないみたいです」
「そう、なら任務完了ですね」

育手の言っていた意味が骨身に染みる。
確かに、これは『厄介』だ。
自身が倒したと言うのに、それを認識する意識がない。
これでは自信をつけたくてもつけられないのは無理からぬ事だろう。
刀を戻したは善逸の頬に触れた。

「?」
「ありがとうございます、善逸くん。助けてくれて」
「たすけ・・・は?俺がですか?」
「うん」
「いやいやいやいやいや、あり得ないですよ。俺はものすごく弱いんですから」
「危ういところを救ってくれました」
「そ、そんなまさか・・・」

スーパー卑屈な善逸にも頑として下がらずにこやかさを消さない。
焦る善逸にはトドメとばかりに相手の頬を両手で捕まえたままズイ、と距離を詰めた。

「私の言うこと、信じられませんか?」

肌が触れそうな至近距離で、困った顔で呟けばゆでダコになった顔が挙動不審に呟いた。

「し、信じられ、ます・・・///」
「うん。なら良し。
じゃ、私は次の任務に行くので宇髄さんへの報告は任せますね」

そう言って善逸の頬を解放したは姿を消した。
その場に残った善逸は、先ほどまで触れられていたまだ熱を持つ頬に自身の両手を当てる。

(「や、柔らかかった・・・」)
「おーう、どうした善逸〜」
「ンギャアーーーッ!!!」























































>おまけ
「不死川さん、こちらどうぞ」
「・・・つけられてねぇだろうなァ?」
「そんな殺人逃亡者のような顔向けないでくださいよ」
「あ"あ"!?」
「まぁまぁ。こちらが宇髄さんから預かった先日の任務の御礼である老舗和菓子店おはぎ詰合せ限定版です」
「・・・ふん、仕方ねぇ受け取ってやらァ」
「じゃぁ、お茶でも淹れますね〜」
「おォ」


>>おまけその2
「よっし!どうでしょうか!」
「ありがとうございます、さん」
「「「しのぶ様!お綺麗ですっ!!!」」」
「ふふふ、何だかノってきました。蝶屋敷の女の子は素材が良いので楽しすぎます」
「それは何よりです。では、そろそろ観念して治療されましょうね
「・・・は、はーい」

※遊郭後の自分の任務で怪我をしたが治療も受けずにカナヲやアオイらに化粧してたのをしのぶに見つかり、勢いでしのぶにも化粧してあげて誤魔化そうとしたけどできなかった





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2020.5.26