土砂降りに降られ、ずぶ濡れで藤の家を訪ねた。
そこでは先に運ばれた負傷した隊士が居たらしく、慌ただしい様子だった。
そこでは自分は雨宿りだけだったので怪我人を優先してくれと着替えだけ済ませ、雨が上がるのを待たせてもらうことにした。

(「ヤバい・・・クラクラする・・・
でもここで寝たら明日まで起きれない自信がある・・・
明日は朝一で約束が・・・」)

雨戸いに寄りかかりながら、は必死に眠気と戦う。
絶賛3徹目中だ。
座ることもせず早く止むのを祈るように空を見上げていた。
その時、部屋の襖が開けられた。

「失礼致します」
「・・・んあ、はい」
「鬼狩り様。おもてなしもできず申し訳ない」
「あーいえ、お気遣いなく。
それより負傷された隊士の手当てはいかがですか?」
「その・・・実はお医者もお困りのようでして・・・」
「そうですか・・・良ければお手伝いしましょうか。
少しなら知識もありますので」

動いてなければ目を開けたまま眠ってしまいそうだし、ちょうど良い。
なんて本音は言わず、人当たりの良い笑みを浮かべれば屋敷の者はほっとしたような表情を浮かべた。

「それは助かります、こちらでも何かご用意を致しましょう」
「では、この屋敷にある薬と道具をその方の部屋へ」
「かしこまりました」



















































































































ーー熱に浮かされるーー



















































































































「失礼しますー」

目的の部屋の外で声をかける。
半分寝た状態で。
藤の屋敷の者が襖を開けた事で、はそのまま部屋へと入った。

「怪我をされたーー」
「・・・あ"ー、か?」
「・・・」

聞き覚えのある声に、重い目蓋をこじ開けた。
記憶通りの人物が、赤い顔でこちらを見上げていた。

「宇髄さん、何してんですか?」
「おま・・・それ怪我人に向けるセリフじゃねぇーだろ」
「医者が匙を投げたと聞いたから、どんな大量出血な怪我かと思って来たんですけどね。
それで、症状は?」
「暑い」
「そうですか、他には?」
「だーがーらー、あ"っぢぃんだよ!無性によ!」

その絡み方の方が暑苦しいのだが。
小さく息を吐いたは首筋に指の腹を当てる。
脈を取れば異様に早い。
そして異様な程の汗に乱れた呼吸。

「毒・・・に似てる症状ですかね」
「多分、血鬼術だ・・・」
「何をしてるんですか、音柱様」

仮にも鬼殺隊最強の剣士を誇る柱が何という失態だ。
ここに蛇柱が居合わせたものなら、ねちねちと嫌味や皮肉の応酬を披露してくれただろう。
とはいえ、今の自分にそんな体力はない。
治療が先だ。

「それで宇髄さんが血鬼術だと仰る根拠は?」
「この感じ、毒じゃねー。呼吸でもどうにもならなかったからなー。
つーか、神に毒は効かねー」
「なるほど、後半は参考にならないからどーでもいいです。
念の為手持ちの解毒薬を飲んで下さい。
それと体温計らせていただきます」

自力で薬を飲む天元を見ながら、は屋敷の者に調薬に必要な指示を飛ばす。
そして天元から返された体温計は39度。
目の前の数字に頭は覚醒した。
表情を曇らせたは、再度確かめるように天元に問う。

「呼吸でもどうにもならなかったんですね?」
「・・・おー」
「分かりました。
すみません、できるだけ冷たい水に手拭をあるだけ集めて下さい」
「承知しました」
「それと至急、氷嚢とこちらの品を手配してください」

屋敷の者に紙を渡したは、邪魔な浴衣の裾をたすき掛けで縛り上げる。

「宇髄さん、水を。すぐに薬湯も用意しますのでそちらも飲んでいただきますよ」

水を天元に差し出したは、元々用意されていた手拭いで天元の大量の汗を拭う。
そして集められた手拭を届けられた手桶の水で冷やし、固く絞ると首、両脇に通る血管を冷やすように置いていく。

「宇髄さん」
「・・・」
「宇髄さん、うず・・・天元さん、聞こえてます?」

呼びかけに反応しなくなった天元には背筋が凍った。

(「まずい、意識の混濁まで出てきたか」)

ここまでになってしまっては手段を選べない。
は天元の浴衣を脱がし、上半身、足の付け根にも冷やした手拭を置き始める。
そして少しでも温度が上がれば手桶の水を次々と変えさせ温度を吸った手拭を冷水に浸け再び元の場所へと戻した。
しかしそれでも体温が下がらない。
厄介この上ない。
そばにいても体温が高過ぎるのが分かるほど男の体温は高かった。
屋外もまだ涼しくとは言い難い。
数字は40度を超えた。
水分補給もままならない今、このままでは本当に命に関わる。
仕方ないか。

「失礼します」

追加の解毒薬と解熱剤を口に含み口移しで流し込む。
喉は動き、薬と共に嚥下される。
誤飲している様子もない、まだ大丈夫だ。

「しっかりしてくださいよ、天元さん。
あんな美人な奥方を残すなんて人でなし、私は嫌いですよ」

荒い息の天元の汗を拭きながら、は手拭を替えながら続ける、

「踏ん張ってください。
じゃなきゃ、嫁ぐ話し考えてあげなくもないですよ」

それから数時間が経過した。
先ほどより体温は下がり、呼吸と脈も正常値とまではいかないが命を脅かすほどから遠ざかっていた。

「宇髄さん」

再度呼びかける。
だが数時間前と違い僅かに目蓋が動いた。

「宇髄さん」
「ん・・・」

反応が返され、はほっとしたように肩の力を抜いた。
そしてゆるゆると紅紫の瞳がこちらを見たことで、は繰り返す。

「宇髄さん、私が分かりますか?」
「・・・おー」
「失礼とは思いましたが、浴衣をはだけさせてもらいました」

淡々と事後報告を伝えれば、まだ朦朧としている天元は笑って返した。

「はは・・・お前に脱がされる日が、来るとはなー」
「そういう軽口は治ってからにしてください。
どうですか、具合の方は」
「おー、だいぶ楽だ」
「良かった。氷嚢が思ったより早く手に入ったお陰ですね」

会話がきちんと成り立っている。
これなら先行きは明るい。

「とはいえ、まだ予断は許さないのでしばらくその格好でお願いします」
「あ?」

の言葉にようやく天元の視線が自身の体に向けられる、
自身の装いは、申し訳程度に腰元にだけかけられた手拭のみ。

「・・・女だったら刺激的な格好なんだがな」
「男でも十分刺激的かと思います」
「嫌味か、格好つかねぇだろ」
「柱が血鬼術にかかって、格好付けもないでしょう」
「・・・」

ぐうの音も出ない指摘に天元は口を噤む。

「とはいえ、それだけ軽口が出るようなら問題なさそうですね。
まだ熱は高いので平熱近くになるまでは安静にお願いします」
「・・・この格好でか」
「はい、その格好でですv」

笑顔の圧に反論は許されず。
抵抗も虚しく天元は再びその格好で目を閉じる事になった。
暫くして、熱の所為か飲まされた薬の所為か目を覚ました時、既に外は真っ暗となっていた。

(「・・・背中痛ぇ」)

室内は行灯が灯され、柔らかい光が灯されていた。
寝返りを打ち起き上がる。
すると自身の浴衣は元に戻っていた。
どうやら血鬼術の影響は抜けたらしい。

「!」

と、横で寝息を立てていたのは、大量の手拭が入った手桶に片手を突っ込んでいただった。
もう片方の手は行灯の暖色光の下でも分かるほど真っ赤になっている。

(「こいつ、まさかずっと付いて・・・」)
「ん・・・」

こちらの気配に気付いたのか、はゆっくりと起き上がる。
目を擦っていたは、天元と視線が合うと寝起き声で問う。

「宇髄さん、もう起きて大丈夫なんですか?」
「ああ。寝過ぎて背中痛ぇくらいだ」
「んー、そうですか。熱どれくらい下がりましたかね」
「おぅ、熱でも計ーー」
ーーコツンーー

体温計を受け取ろうとした差し出された天元の手はそのまま固まる。
少しして額を突き合わせていたは離れると、いつもは見せないへらりとした気の抜けた笑みを浮かべた。

「んー。大丈夫そうです」
「・・・」
「じゃぁー、起き上がれたし水分補給も自分でできるでしょうから、ご飯の準備してもらってきますー」

立ち上がったは、欠伸しながらふらふらと危なげな足取りで部屋を出て行く。
間延びした張りのない声。
額を突き合わせて体温を測るなど、普段は絶対そんなことはしない。
無意識とはいえ、普段の距離を取ろうとしている言動とギャップある行動。
翻弄しているこちらが逆に翻弄される。

「・・・とんでもねぇ奴だよ、まったく」



















































徹夜は人を破壊する

>おまけ
(「よし、治ったら派手に抱く」)
(「・・・ねむすぎ、寝たーー」)
ーーゴンッーー
「痛っ!」




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2020.5.26