月夜が綺麗な晩だった。
迎える相手を思えば、心が騒つくかと思ったがそれはなく。
対峙した時も普段と変わらぬ心持ちで、冷静な声が出た。

「初めまして。珠世様、愈史郎殿。
鬼殺隊本部への案内役を務めます、と申します」

緊張している表情とこちらを射殺さんばかりな侮蔑を込めた表情。
対極のそれに何故か笑えた自分に呑気なものだと、冷静なもう一人の自分の声が聞こえた気がした。


























































































































ーー三日月ーー






















































































































月夜に見送られ、無事に本部へと到着した。
人払いを済ませてある部屋で二人へ茶を出したは、窓辺で空に浮かぶ三日月を見上げていた。

「あなたは・・・」

掛けられた声に視線を室内に向けた。
そこには湯呑みに手を付けず、こちらを躊躇いがちに視線を彷徨わせる珠世が言葉を探しているようだった。

「毒は入ってませんよ?」
「え・・・いえ、それは分かっています」
「そうですか?」

何だ違うのか。
どうやら自分の言葉は的外れだったようだ。

「あの・・・」
「はい?」
「先ほどから何を見ているんですか?」
「ああ・・・こんなキレイに見える日をあのお方が選んだのなら流石だぁと思いまして」
「?」

の視線に倣うように珠世もその先を見る。
夜空に浮かぶ綺麗な繊月。
言わんとしたことを理解した珠世はなるほど、と頷いた。

「・・・確かに。
こうして私が鬼殺隊本部に足を踏み入れた事を象徴しているようですね」
「流石は博識ですね」
「あなたのようなお嬢さんがご存知というのも十分博識ですよ」
「?」

二人の会話に付いていけないような愈史郎は一人疑問符を浮かべる。
そして、の会話で多少緊張が解けたのか、珠世は再びに問うた。

「あなたは、鬼殺隊にどれほど所属されているんですか?」
「そうですね・・・12年は経つはずです」
「それほど・・・」

続く言葉は無かった。
それほど長く生き長らえたのか?
それほど幼い時から戦っているのか?
どちらにしろ、痛ましい表情を浮かべた珠世には先を促す事なく。
話を変えるようにこれからここに来る人物について説明を始めた。

「これから会っていただく方があなたと共同研究していただく方になります。
先に断っておきますが、鬼に対しての憎しみや怒りは鬼殺隊においてかなり激しい方だと思ってください」
「当然でしょうね」
「それは貴様も同じだろう」
「愈史郎」

珠世の嗜める声に、愈史郎は渋々口を閉じる。
しかし、その鋭い視線は最初に顔を合わせた時と変わらず激しい憎しみに満ちていた。
とても協力体制とはなれない様子に、珠世はへ頭を下げる。

「すみません」
「構いませんよ。彼は貴女が何にも増して大事なのはお会いした時から分かってます」
「っ!?」
「信用しろとはいいませんが私は、鬼が行う事に憎しみや怒りはありますが、存在については哀れだと思っています」
「!」
「これから来る方のように普通は憎悪している者が大半でしょう。
私はこの鬼殺隊では異質です。
ですが・・・」

そこまで言ったは言葉を区切った。
その先を続けるべきか否かを迷ったが、少しして続きを口にした。

「私は・・・鬼舞辻を生み出してしまった責任を負う者ですから」
「それはーー」
「失礼します」

現れた待ち人に話を打ち切ったは、窓際から離れるともう一人分の湯呑みにお茶を注いだ。

「揃いましたね。
では、時間も限られてますし、まずは自己紹介からと参りましょう」
































































>おまけ
「「・・・(怒)」」
「あー、やっぱりしのぶさんと愈史郎さんはああなりましたか」
「・・・」
「お会いした時から相性悪そうだなぁとは思ってたんですけどね」
「・・・どうしましょうか」
「放っておきましょう。
ではあの睨み合いがひと段落するまで、しのぶさんの代わりにこの室内の説明をします」
「え、ええ」(「良いのかしら・・・」)

三日月は物事の始りを象徴するんだってさ


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2020.8.7