ーー風邪をひいた:岩柱の場合ーー






















































































































「ごめんくださーい」

出掛けついでに寄り道をした。
新しい店の土産を片手に岩柱邸に来訪の声を上げるが応答がない。
在宅なら必ず声が返り、不在なら玄関には不在の印が掛けられる。
そして今は不在の印は無かった。

(「珍しいな、悲鳴嶼さん不在か・・・まさか!」)

襲撃か?
一瞬不安に駆られ庭へと飛び込む。
が、そんな不安が打ち砕かれるように、縁側に探していた主が佇んでいた。

「って、そんな事無かったか」

早合点な自身を戒め、はそのまま行冥に歩みを進めた。

「悲鳴嶼さん、お邪魔してます」
「うむ。か、よく来たな」
「買い出しついでにお土産買ったので良ければどうですか?」
「そうか。では茶でも淹れーー」
ーーゴンッーー
「!?」

え、待て何が起こった。
初めて見た。
行冥が縁側の柱に頭をぶつけた姿なんて、世界が滅亡する前兆か!?
柱にぶつかったまま動かない行冥にはますます慌てふためいた。
いやいや、落ち着け。
そう言い聞かせても自分でも思った以上に激しい動揺に声が上擦った。

「ひ、悲鳴嶼さん!?」
「・・・」
「え、ちょ、だ、大丈夫じゃないですよね?
ど、どうしーー!」

と、行冥の手を取った瞬間だった。
平熱ではありえない温度。
そう分かった瞬間、すっと動揺が鎮まった。

「悲鳴嶼さん、熱があるので横になられた方が良いです。
今用意するので、暫くここでお待ちください」
「・・・そうか、世話をかける」

行冥の答えに、は一室に布団の準備を超速で終わらせる。
ついで横になってもらい、食事と熱冷ましと水分補給の準備も同時進行で終わらせた。

「お加減いかがですか?」
「食事に薬と手厚く診てもらったのだ。問題ない」
「そうですか・・・それなら良かったです。
ひとまず熱だけ測らせていただきますね」

行冥の横で体温計を脇に挟ませ、額の手拭いを替え、首元の腫れ具合を見る
不安げな面持ちの気配に、行冥は遠い記憶を手繰るように呟いた。

「いつかと逆だな」
「はい?」
「何年前になるか、満身創痍だったお前を見下ろしていたが立場が逆になる日が来るとはな」

行冥の言葉にもその時の事を思い出す。
もう5年近く前になるか。
任務途中で村人が立て続けに失踪していた話を聞き、探りを入れるつもりがそこに棲んでいたのは下弦ノ陸。
攫われていた村人を逃がしながら下弦ノ陸と戦いになりどうにか倒せたが、自分はボロボロで生き残りの雑魚鬼に殺される寸前のところを救援に来た行冥と杏寿郎に助けられたのだ。

「・・・少しは未熟者から抜け出せたと思いたいですね」
「十分脱したろう。私こそ柱であるのに床に伏すとは不甲斐ない限りだ」
「柱とて人間です。
負傷なら呼吸で幾ばくかはどうにかできますが、病は別です。
どんなに時代が進もうとも防ぎようがありません」

不機嫌さを隠さず、は行冥に反論するように呟く。
もしもっと自分に力があれば、この病で苦しむ必要もなかったかもしれない。
そんな考えは不毛だし思い上がりだという自覚はあるが、力不足を突き付けられているようで申し訳ない気持ちも募った。

「もう、柱の皆さんの立場に対する責任の自負は敬服しますが、身体が資本だと言う事を蔑ろにし過ぎです。
今回はたまたま私でお役に立てる対症療法しか手立てが無かったですけど・・・しのぶさんが回復したらこんな事にならないようにーー」
ーーぽんっーー
「己をそこまで卑下するな」
「!」
「間違いなくお前の力で私は楽になった。お前が居るだけで心強いぞ」
「・・・」

の口からパクパクと空気が漏れる。
どうしてこの人は、もう・・・
一番長い付き合いの相手からの言葉はどうしてこんなにも面映ゆいのか。
いや、そもそもこの人は臆面もなくが言われ慣れない言葉を向けて来るので酷く心中をざわめかせる。

「あ、ありがとうございます///」
「うむ、それに柱でなくともお前も身体が資本だ。
互いに考えを改めなければな」
「は、はい・・・」
「うむ、解れば良い」
「・・・なんだか、私の方が看病されてるようです」
「そうか?そんなつもりは無かったが・・・」
「っ!ひ、悲鳴嶼さん、熱がやっぱり高いです!
お、お茶淹れましょう!厨お借りします!」

まだ途中の検温を言い訳に、は厨へと足を向けると手早く湯釜を火元へ掛ける。
そして身を切るような温度の手桶に手を突っ込むと頭を振った。

(「もー、全く。患者に気遣われてどうすんの」)

嘆息したは頭を切り替えるように深く深呼吸する。

(「どーにも悲鳴嶼さんの前だと弱い自分が目立つな・・・
なんで?
一番長い付き合いだから?事実そうだけど。
他の人より常識人だから?それも事実だけど。
・・・うーん、なんか違う。もっとこうーー」)

「ひゃぁっ!」

不意を突かれ、突拍子もない声が上がる、
驚いて振り返れば同じ驚き顔の行冥が立っていた。

「・・・どうした?」
「ひ、悲鳴嶼さんこそ!横にーー」
「湯が沸いているのに気付いてなかったようなのでな」
「うわっ!す、すみません!」

慌てたはすぐに湯釜を火から下ろした。
普段ならこんな失敗をしない。
それが分かっているのか、行冥は気遣うように口を開く。

「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!少し考え事してました」
「そうか」
「すみませんでした悲鳴嶼さん。
生姜湯ご用意しますので戻ってお待ち下さい」

これ以上冷えた所に居てもらっては困る。
今にも土間へ降りて来そうな行冥を阻むようには元の場所へと促す。

ーーぽんーー
「うむ、そうしよう」

大きな手で頭を撫でた行冥は床へと戻って行った。
それを見送り、撫でられたそこには手を置いた。
なんだか色々考えてしまっていたが・・・

(「ま、いっか。生姜湯淹れよう」)

































































あり得ない岩柱を書いてみたかった&抱いた思いの正体無自覚さん

>おまけ
「わざわざ土産を持ってきたのにすまなかったな」
「体調戻られた時の楽しみにしておきますよ。
ところで悲鳴嶼さん、最近街に行かれたりしましたか?」
「いや。最近は任務後はすぐ屋敷に戻っていたからな」
「そうですか・・・なら最近会った方はいますか?」
「それなら2日前に宇髄がお前に逃げられた云々と話していたぞ」
「へー、そうですかー」
「・・・あんの迷惑柱、許すまじ(怒)」)





Back
2020.5.10