ーー風邪をひいた:音柱の場合ーー






















































































































っ!!」
ーードンーー
「うわっ!」

蝶屋敷に向かう途中、突然腰元に衝撃が走った。
声に聞き覚えはあったが、さすがは元クノイチ。
とはいえ気配がない中でこれはちょっと心臓に良くない。
飛び上がった鼓動を宥めながら、はまだそこにしがみ付いている顔馴染みに挨拶を返した。

「雛鶴さん。ご無沙汰でーー」
「助けて!」
「はい?」

涙で潤んだ縋るような瞳。
只事ではないそれに真剣に話を聞けば、表情はどんどんやる気を失せていった。

「あー、ついに宇髄さんもですか」
「『も?』ってどういう事なの?」
「今、鬼殺隊で流行中ですよ」
「そうなの?」
「ええ。じゃあお薬渡すので安静にするように言って下さい」
「そんな!一応、診てあげて!もしかしたら天元様だけ違う病気かもしれないし!」

それはないでしょうよ、あのがたいと体力で。
とは言えず、申し出にも一理あることでは嘆息した。

「分かりました。雛鶴さんもですけど、念のため屋敷の方全員診察しましょう」

蝶屋敷で用意を済ませたは音柱邸にやって来た。
到着直後、須磨から飛び付かれ泣き叫ばれる。
それをまきをが怒り、雛鶴が宥める。
半ば予想していた通りの反応を見ながら、は先にこの屋敷の主の奥方の診察を始める。
そして3人は問題無さそうな事に少し安心し、は目的の部屋の前で声をかけた。

『失礼します』

一言断りを入れ、許しが返る前に襖を開けた。
そこにはちょうど咳き込んでいた天元が、赤い顔でを見上げていた。

「ゴホッゴホッ・・・・・・」
「どうも。診察するので大人しくしーー」
ーーグイッーー

そばに腰を下ろした瞬間、腕を引かれ引き倒された。
至近距離にある熱で上気した肌に、潤んだ瞳、ひそめられた眉元。
整った顔で向けられるソレの破壊力には恐れ入るほど威力がある。
とはいえ、相手は病人。

「・・・」
「身体が辛ぇ、どうにかしろ」
「どうにかして欲しかったら手を離してください」

両手を突っ張るが、拘束は解けない。
病人のくせになんなんだ、この筋肉馬鹿。
というかどさくさに紛れて腰に回された手がさらに下がってきている。

「ちょっと・・・」
「相変わらず可愛げねぇ・・・」
「それはどうも」
「褒めてねぇよ」
「だから知ってまーー!」
ーーパシッーー

指でマスクをずらしてきた天元が迫って来たことで、は相手の唇に手の平を叩き付ける。
私まで道連れにするつもりか、この考え無し。
ジト目で返される視線にさすがに頭にきたも圧を増した笑顔で応戦する。

「・・・」
「この状況でナニするつもりですか」
「口吸い」
「状況を考えなさい。それと不埒極まりない左手を止めなさい」
「感じたのか?」
「早く退け」

いつもより面倒な絡みの男にうんざりしながらは診察を始める。
熱、首元の腫れ、関節部の触診。
結果は予想通りだった。

「はい。流行性感冒です。
関節痛が出てるので、無理に動かないように。
雛鶴さん達にも感染るかもしれないのでふらふらと出歩くなんで言語道断ですからね」
「・・・はぁ?これが風邪な訳ねぇだろ・・・」
「流行性感冒です。西洋でも亡くなってる方が多いので甘く見ると長引きますよ」
「ならお前が看病しろ」
「監視役が3人もいらっしゃるので辞退します。それでは」


立ち上がるの羽織の裾を掴まれる。
当然と下から見上げられる角度になる訳だが、この男が今の状態でやると威力はいつもの比ではない。

(「う"っ。なんつー色気だ、腹立つな」)
「・・・何ですか」
「いい加減に嫁にーー」
ーーベシッーー
「っ!?」
「盛る前に寝ろ」

冷えた手拭いが顔面に叩き付けられた天元を残し、は部屋を後にした。

































































いつもより実力行使を駆使する音柱

>おまけ
「雛鶴さん、須磨さん、まきをさん。
本日から最低一週間は絶対出歩かせないように」
「はい!」
「任せて!」
「勿論!」
「それと完治まではいくら色仕掛けされても接吻から夜伽まで控えて下さい」
「「「・・・」」」
「お返事は?」
「「「・・・はい」」」
「ちなみに感染が広がったら、屋敷の出入りを封じる通達を出しますのでそのつもりで」




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2020.5.10