ーー風邪をひいた:風柱の場合ーー






















































































































「お"ィ・・・」
「はい?」
「な"んででめェがごごに居やがる・・・」
「そんな掠れ声で言われても怖くないですよー」

風柱邸の一室ではピシャリと言い返した。
遡ること一刻前。
蝶屋敷で追加の薬の作り方をアオイに教えていた時に、扉を壊す勢いで急いで来て欲しいと要請を受けた。
呼びに来た当人の説明が、支離滅裂で要領を得ず仕舞いには怒り出す始末。
蝶屋敷の子達が怯えてた上に埒が明かないと、残りの作業を任せは風柱邸へとやって来てみれば・・・
屍が玄関に転がっていた。
意識を飛ばしている屍、もとい実弥に、騒がれないだけ都合が良いと連絡主に床の準備と着替えを任せ、はその間に食事の準備を終え、冒頭に戻るという訳だ。

「全く、せめて動けなくなる前に連絡いただければ・・・」
「う"るゼェ・・・」
「柱だろうと病には罹ります。
隠して悪化させて面倒にして仕事をわざわざ増やすなんて柱のくせに傍迷惑極まりません。
そうでなくても今、鬼殺隊で流行ってお館様に伝播しないように気を張ってるんですから」
「・・・」

嫌味の応酬の後、決して逆らえない名を出され実弥は閉口した。
そして無言で手を出すに実弥は脇に挟んでいた体温計を返せば、その表情はやっぱりかとばかりに目が細められる。

「食事の準備は整ってますから、少し休まれてから召し上がってください。
薬も量と時間を守って飲むように。
安静にする約束を守らなかったらしのぶさん特製の痺れ薬の出番ですからね」
「・・・おぅ」

自身の失態を自覚してか、実弥は素直に返事を返す。
その様子にはついでにもう一つ約束させる。

「では、療養中は私の代わりの方が身の回りのお世話をしますので。
その人にも当たっちゃダメですからね」
「あー、代わりだァ?」
「はい」

ちらりと自身の横を向くの視線を追うように実弥も辿る。
細い襖の隙間から見えた後ろ姿に実弥は飛び起きた。

ーーガバッーー
ーーベシッ!ーー
「っ!?」

瞬間、その額に勢いよく手の平が叩き込まれ枕に実弥の頭が定位置に戻った。

「不死川さぁん、私の話聞いてましたよね?」
「てめェ・・・俺ァ病人だぞ」
「今すぐ痺れ薬が欲しい発言と判断しますよ?」
「・・・ちィ」

多少卑怯な手だったが、大人しくなった実弥には布団を掛け直す。
そして、待ち人には聞こえないだろう潜めた声で静かに語る。

「差し出がましいのは承知ですが、少しは弟さんのお話を聞いてあげてはどうですか」
「・・・」
「それに遠ざけても言葉にしなければあなたの想いは伝わりませんよ」
「けっ。関係ねェてめェはすっこんでろ」

予想通りの反応。
やはり部外者が口を挟むことではなかったか、とはそれ以上踏み込まず腰を上げた。

「そうですね、失礼しました」
「・・・」
「では。お伝えした通り安静にしてください」

実弥の部屋を後にし、待ち人が控えていた襖を開けたは見上げた顔に初めて気付いたとばかりな驚き顔を向ける。

「・・・あ」
「玄弥くん、こんな寒い廊下で待ってたんですか?」
「あ、あの!」

蝶屋敷に来た時とは打って変わった戸惑う様子に、は柔らかい笑みを返した。

「大丈夫ですよ、安静に養生すれば問題なく治ります」
「良かった・・・」
「とりあえず、お茶でも飲みながらお任せしたい事をお話ししますね」

場所を移したは、生姜湯を淹れ意気込む玄弥に説明を始める。

「一週間分の薬はコレです。
着替えは本人ができるなら任せて問題ありませんが、熱が下がるまでお風呂は控えてください。
水分はいつもより多めに取るように言ったので、枕元に置いてください。食事の用意はできますか?」
「は、はい!」
「分かりました。ではそれはお願いしますね。
難しいなら鴉で連絡して下さい。
それとくれぐれも蝶屋敷を壊すような訪問は止めましょうね」
「う・・・すみません。
あ、あの!他に俺に出来ることは!
「そうですね。
食事は消化の良いものを、果物なんかも良いですね」
「ほ、他には!?」
「今飲んでる生姜湯も身体が温まりますよ。
作り方残しておきますね」
「ありがとうございます!あの、他には!?

食い気味が過ぎるほどの玄弥に、は苦笑しながら少年の肩に手を置いた。

ーーポンーー
「!?」
「あなたが看病してくれるのが一番の薬です」

ゆっくりと言い聞かせるようには語る。
先ほどの勢いから一転、固まってしまった玄弥には続けた。

「鬼殺隊の第一線で戦っている者が病に罹るなんて、他人には見せたくない姿でしょう。
だから、玄弥くんが看病してくれば精神的にも回復は他の方より早いはずですよ」
「・・・そう、ですかね」
「はい。玄弥くんじゃなければダメです」

が断言しても玄弥の表情は不安に揺れるばかり。
自分は部外者だ。
踏み込む資格はないだろうが、兄の心情と弟の心情がすれ違ったままの姿を見ているのもはっきり言って気持ち悪い。
そう、これは自分の我儘だ。

「それに話したい事があるんでしょう?」
「!」
「私には身内はもう居ません。
けど、玄弥くんが伝えたい想いがあるなら臆せず話して大丈夫だと思いますよ」
「・・・俺は」

その先は自分に聞く資格はないだろう。
当人が聞く必要がある言葉だ。
は玄弥の続きを遮るように立ち上がった。

「その時が来てから残された思いに苦しんで欲しくないだけのお節介な独り言ですけどね」


































































どうにかしたい兄弟の背中を押したい

>おまけ
「あ、あの、甘いものも食べて大丈夫ですか?」
「うーん、そうですね。消化が良い前提なら構いませんかね」
「消化が良い・・・」
「・・・おはぎは元気になってからの方が良いかな」
「!?は、はい!」




Back
2020.5.10