ーーどこまでも強いが故の心配ーー






























































































































本部に寄った帰り道のことだった。

「女のくせに生意気だな」
「・・・」

わー、果てしなくめんどくさーい。
あからさまなこんな絡まれ方をするのは、いつ以来だろうか。
長く任務で本部に顔を出すことが少なかったから、蝶屋敷を例外にすれば柱以外はほとんど知らない顔だ。
現に目の間で難癖をつけている男2名の隊士の顔に見覚えはない。
新人だろうか?
でも新人が本部の場所を知っているとも思えないから、ほどほどの所属歴と言ったところか。

(「さて、どうやってあしらーー」)
「知ってるぜ、お前、岩柱のお気に入りなんだってな」

ぴくっと米神が波打つ。
しかしそんなの様子に気付かないまま、目の前の男達は下卑た声で話を続ける。

「その癖、風柱にも庇われたよな・・・そっちともカンケーあったわけだ」
「そんなに相手してくれてんなら、俺らだって相手できるよな?」
「なぁお手のもんだろ?ほいほい足開くんだしよ」
「男に色目使って囲わーー」
ーードゴッーー

忍耐力が無いと言われるかもしれないが、限界だった。
無遠慮に距離を詰めてきた男を逆に壁側へ突き飛ばすと、顔面横に鞘を突き立てた。
ま、勢い余って板壁に突き刺さってしまったが、後で隠に謝りに行けば問題ないだろう。
そんな事よりも、問題なのは目の前で驚き固まっている不届き者だ。

「私をどう言おうとそちらの自由ですので一向に構いません。
ただしーー」

笑みが消え、底冷えする瞳でひた、と男を見下ろした。

「己の邪推で、悲鳴嶼さんや不死川さんを貶めるなら容赦するつもりないんで」
「っ!?」
「この!」
ーービッーー
「意味、分かりにくかったですかね?」

空いた片手の人差し指と中指がもう一人の眼前に突き付けられる。

「次、顔の横に刺さるのは鞘じゃなくて抜いた方って意味ですよ」

横目で見据えてやれば、今にも眼球に指が刺さりそうなそれに直前までの勢いが萎んだ男の顔色が変わる。
ようやく理解したような両者に、は腕を下ろし板壁に突き刺してしまった鞘を抜く。
そして、腰を抜かしたような隊士に言い放った。

「女を買いたいなら吉原へどうぞ。
そんな稼ぎもない甲斐性無しに足を開く女もそうそういないと思いますけど」

鞘を腰に差し戻しながら、尚もこちらに敵意を向けてくるもう一方には言い捨てた。

「そうそう念のため言っておきますが、私の知り合いに腕尽くしか能がない猿以下の真似をするなら一生そんな気が起きないように潰しますから」

にっこり、とやり取りからは背筋を凍らせるそれにたじろいだことを確認すると、はくるりと表通りへと歩き出す。

「こう見えて、隠にも蝶屋敷にも顔は広いし、使い物にできなくする技術も持ち合わせいますので。
妙な気を起こすならせいぜい背後には十分に気をつけることですね」

後ろ手振りながら無防備な背中を見せるに、腹の虫が収まらない一方が距離を詰め拳を振り上げた。

「てめーー」
ーーゴッ!ーー
「おー、悪ぃなァ。ちと足が滑ったぜェ」

振り返りざま叩き込まれるはずだったの拳が、男の顔があるはずだった宙空に行き場を失ったように止まる。
そして、代わりに足元に転がる空箱が空しい音を立てた。
の視線の先には本日も相変わらず凶暴な相貌の風柱・不死川実弥が立っていた。
当然、及び腰となったのはではなく不届き者2名の方だった。

「か、風柱様!?」
「野郎が女一人相手に何の鍛錬だァ?」
「さ、先に手を出したのはーー」
「すみません、風柱様」

他人の目があることで、普段は使わない呼称で口を挟めば、実弥から返される表情に凄みを加えた。

「よろけた拍子に体勢を崩してしまいまして、彼にぶつかりそうになったんですよ」
「その拳は?」
「またよろけそうになったので、思わず」

しれっと、うそぶいてはみたものの、実弥からはとても冷ややかな一瞥が返される。
新人隊士だったら、怯えるか泣いているだろう。
誰彼構わず威嚇するような顔を向けるなという注意をつい先日、岩柱から受けたことを知っているだけにまったく響いていないとは。
後でまた小言を受けても知りませんよ、などというの心情などつゆ知らず、実弥はさらに凶暴さを増した目付きで萎縮する2名を見下ろした。

「ほー・・・なら悲鳴嶼さんを貶すような言葉が聞こえた気がしたがァ・・・俺の気のせいかァ?」
「「し、失礼しました!」」

どうやら結構最初から聞かれていたらしい。
事を荒立てたくなかったが、庇いきれないなら仕方ない。
脱兎の如く、隣を走り去った2名を見送ることなくこちらに歩み寄ってくる上官には小さく嘆息をついた。

「不死川さんもお人好しですね」
「あ"?」

濁音の応答に、何でもありません、と返したは小さく頭を下げた。

「わざわざ仲裁の手間を取らせてしまい、すみませんでした」
「お人好しはお前の方だろうがァ」
「・・・ま、私が騒いでも仕方ないですから」

なんだ、聞いていたんじゃないか。
肩をすくめ返すと、実弥からはまるで説明しろとばかりなまでの執拗な注視が向けられる。
だが面倒そうな直感に、は話題を逸した。

「それにしても嘆かわしい限りですね、あのような連中と私が同類で肩を並べているとは。鬼殺隊が何をするところか知らないんですかね。
というか、あの方々はいつぐらいに入隊しーー」
「いつからだ?あんなくだらねェ連中に絡まれるようになったのは?」
「そうだ!気分直しにーー」
「い・つ・か・ら・だ?」
「・・・悲鳴嶼さんには言わないで下さいよ」
「答えになってねェ・・・」
「あの方に心労をかけたくないんです」
「おい・・・」

さっさと言えとばかりな圧。
このまま誤魔化し続ければ、間違いなく胸ぐらあたり掴まれてそれこそ、岩柱の耳に入る勢いだ。
仕方ない、とばかりなはそっぽを向きながら話し出した。

「最近、私が任務で本部にちょくちょく出入りしていたのはご存知ですよね?」
「あァ」
「その際に柱の方々と仲良く話していたのが気に食わなかったみたいですよ」
「なんだそりゃあァ」
「聞いたのは不死川さんじゃないですか」

私に当たらないでくださいよ、と返したに実弥は低い声で不届き者が逃げ去った方向を見やった。

「気に入らねェな。陰でコソコソと」
「もし私以外の子がとばっちりで絡まれていたら助けてあげてくださいね」
「は?」
「私は自分でなんとかできますから」

止まっていた足を表通りへと戻したが肩越しに笑った。
その横顔は全幅の信頼を置いている、不敵な笑みなのにどこか諦めの色がある笑み。

、おまーー」
「大丈夫ですよ」

ひらひら、と手を振りながら明るく答えたは歩き出す。

「私が強いの、不死川さんだってご存知じゃないですか」

だから自分には構わないでくれ。
暗に拒まれたような言葉。
迷いない足取りで歩き去っていくに頭をガシガシと掻いた実弥は、大股でその背中に追いつくとその後ろ頭を引っ叩いた。

ーーベシッーー
「った!」
「はァ・・・だから心配されんだよ」
「はぁ?何でですか、強いなら心配する必要ないでしょ?」
「それが分かってねぇェからいつまでも心配されんだ、馬鹿がァ」






































































>おまけ
「わー、不死川さんに馬鹿って言われたー」
「馬鹿に馬鹿って言ってやっただけだろうが、馬鹿が」
「3回も言った!馬鹿って言う方が馬鹿なんですぅー、だから不死川さんさんは私の4倍馬鹿です!」
「上等だァ、ゴラ”ァッ!」
「暴力反対!」






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2021.05.05