ーー不器用な信頼ーー
とある小さな廃村。
そこで盛大な破壊音が上がった。
ーードゴーーーンッ!ーー
「!」
敵襲かと、は刀を構えた。
だが木造の家屋をぶち破り、現れたのは白。
思わず攻撃態勢を解こうとした。
「邪魔だァ
!」
怒声と共に、その者の軌道の邪魔にならない位置まで後退した。
次いで異形な塊が白に飛び掛かりざま、斬撃を見舞う。
当然とそれを回避した実弥。
が、さらにその先に身をすくめていた子供が小さく悲鳴を上げた。
「わあっ!」
「っ!?」
ーーザンッーー
「
!」
子供を庇うように、が小さな体を抱き抱えるが斬撃を完全に回避することは出来ず、肩口から紅が舞う。
さらにそれだけで終わらず、他に潜んでいた鬼が新たに飛び掛かってきた。
先ほどの鬼の相手で実弥が助けに入ることはできない。
それも承知だろうは、子供を片手に抱えながら利き手で掴んだ柄をさらに強く握って深く息を吸った。
そして子供を抱えた勢いすら利用し、鬼の懐へ飛び込む。
予想以上のスピードで近付いたことで鬼の反撃は間に合わず、の刀が煌めいた。
「っ!肆ノ型、春霖」
ーーザンッーー
『ギャアァッ』
頸を落としたが、着地はままならずは背中から地面へと落ち転がった。
すぐに体勢を戻し構えたが、新たな鬼の襲撃はない。
任務完了かと、ほっとしたように肩から力を抜いた。
その時、
「馬っ鹿野郎が!てめェ、何してやがる!?」
「あはは、すみません。まさか生き残りがいたとは予想外でした」
怒り心頭の形相で怒鳴りかかってきた実弥に、は軽い笑みを返しながら刀を鞘に納める。
そして、自身の腕の中で縮こまっている子供へ視線を合わせた。
「怪我はないかな?」
「う、うん・・・でもおねえちゃんが・・・」
「ありがとう。君は強くて優しい子だね」
あんな間近で鬼との戦闘を見て錯乱してないだけ肝が据わっている。
さらに助けられたとはいえ、目の前に血塗れの大人を目にすれば怯えもするだろうに。
もしもこの廃村の子供なら、家族は生きていないだろう。
それでもなお相手を思いやる気持ちを持っているとは、親の教育が良かったか、この子の性質がそうさせるのか。
自分よりも数段強い子供に、は柔らかく笑みを浮かべ頭を撫でた。
「私は大丈夫。
ほら、こっちの怖い顔のお兄ちゃんより傷少ないでしょ?」
「あ"あ"!?」
「!?」
対比対象として巻き込まれた実弥は、血塗れの状態で血走った眼で睨みつける。
新人隊員でさえ悲鳴をあげるそれに、当然と子供はにしがみつく。
その反応を期待していたは、わざとらしく軽口で返した。
「不死川さん、小さい子を怯えさせちゃ駄目ですよ〜。
さ、怪我がないかこっちのお兄さんが看てあげるから、痛いところはちゃと言ってね」
「・・・うん」
「すみません後藤さん。この子の事、お願いします」
「分かりました」
いくらか緊張が和らいだ子供を待機していた隠の隊員に託す。
そして、今度こそ体から力を抜いたは深々とため息をついた。
ーーゴンッーー
「いたっ」
「テメェ、一体全体さっきの体たらくは何だァ、あ?」
「いやー、不甲斐ないです」
頭に落とされた鞘がもたらした鈍い痛み。
そこをさすりながらは悪びれた様子も見せずに笑い返す。
その様子すら気に食わないのか、実弥はさらに威圧度を上げながら怒りのゲージを上げていく。
「どんくせぇ癖に身体張りやがるからそうなるんだ。ぬるい鍛錬してんじゃねェ」
「ははは・・・
でも、不死川さんに大きな怪我がなくて良かったでーー」
ーービシッーー
「った!」
「身体張る場所を間違えんじゃネェ。それは俺のやる仕事だ、馬鹿野郎がァ」
額に放たれた指打。
結構痛むそこを押さえたは無言で唸る。
と、突然押さえていた反対の左手を取られた。
何事だとばかりにわずかに涙目となった両目で実弥を見れば、手の甲にできた傷に包帯を巻いているところだった。
「不死川さん?」
「うるせぇ、黙ってジッとしてやがれ」
されるがまま動かずにいれば、あっと言う間に包帯を巻かれる。
今までされたことがないことに、思わずはきょとん顔で固まった。
「・・・」
「なんだその顔は?キツかったか?」
「いえ、まさか不死川さんに手当していただける日が来るとは」
「あ"?」
>おまけ
「では今度は私が」
「肩の手当終わらせて来い」
「不死川さんだって怪我してるじゃないですか」
「要らねェ」
「まぁまぁ、そう言わずに」
「おい!無駄に引っ付くんじゃねェェェ!」
「手当させないなら、上着脱いで抱きつきますけど?」
「ぐっ!?」
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2020.4.18