鴉からの伝令で待ち合わせ場所へと向かう。
そこにはすでに待ち人の後ろ背があった。
小豆色と幾何学模様の片身模様、陽光に揺れる黒髪。
待たせてしまった事に、は速足で近付いた。

「すみません、お待たせしました」
「・・・いや」
「共同任務なんて久しぶりですね、冨岡さん。
宜しくお願いします」
「・・・ああ」

水柱は口数少なく呟けば、はふわりと笑った。





















































































































ーー短気と言葉足らずとその間ーー





















































































































「水の呼吸、捌ノ型・・・滝壷!」
「雨の呼吸、参ノ型・・・黒南風!」

互いに背中合わせで技を繰り出す。
数は多かったが手こずる相手では無かった。
辺りを警戒するが、残っている気配はない。

「掃討完了でしょうか」
「・・・そうだな」
「では、帰還しましょうか」

大きな怪我もなく、二人で山を下る。
鴉に掃討完了の報せを持たせ、本部への帰路へと着いた。

「今回、冨岡さんの鴉が乱入しなくて良かったですね。
前回は鬼に潰されそうでしたからね」
「・・・ああ。(あの時はのお陰で鴉に怪我もなかったからな)・・・助かった」

前回の合同任務の事を話題にすれば、相手から返されたのは僅か6文字。
あの時は動揺で一瞬、頭が真っ白になったというか心臓が止まるかと思った。
まぁ、結果として鬼は倒したし鴉も潰される前に助けられたから良かったが。
だからってそれに返されるのが6文字で良いのだろうか。
いや、良くないし。

「冨岡さん、以前から一度お伝えしようと思っていたのですが・・・」
「何だ」
「言葉が足りないです」
「(ガーン)・・・」

思った以上にショックを受けている義勇に、は言い方が悪かったか、と補足を付け加える。

「あの、悪口ではなくてですね、冨岡さんが心中で考えてる事を言葉にしてくださった方が話している私としても楽しいです」
「・・・そうか」
「ソレ、答えになってませんからね」
「・・・」

どうやら自分の言葉に効果はないようだ。
まだまだ蟲柱のツッコミが続く日は延長されるようだ。
そう思いながら、二人は街中まで辿り着いた。
次の任務の連絡はまだない。
そろそろ腹ごしらえでもしようかと考えていた時だ。

「あ」
「・・・」
「!」

往来の最中、見知った顔に3人の足が止まった。
声を上げたは不機嫌さを見せる風柱、実弥に構わず声を掛けた。

「お疲れ様です、不死川さん。任務帰りですか?」
「なんでテメェらがここに居る」
「(単なる任務の帰りだがわざわざ説明する必要はないからな)・・・別に」
「あ"?」

説明が圧倒的に不足している義勇の返しに、実弥の米神に血管が浮いた。

「おい、冨岡ァ。貴様、毎度俺に喧嘩売ってんのかァ?上等だ、買ってやるぞ」
「(今日も怒ってるな。もしかして腹でも減ってるのか?)・・・大丈夫か?」
「あ"あ"!?」
(「・・・ああ、まったくもう・・・」)

メンチ切る(一方のみ)両者に野次馬が出来つつある。
このままでは見世物だ。
最悪、帯刀しているのを警官に通報されれば余計に面倒な事になる。

「どうやら死にてェらーー」
「(なんでそんな不機嫌ーー)」
ーーペチッーー

一触即発の両者の顔面に手の平が叩き付けられる。
片側からは殺意の、もう片側からは困惑の視線が返される。

、テメェ・・・」
「(何故俺まで)」
「私、お腹すいたのでご飯でも食べませんか?」
「あ"あ"!?誰が好き好んでテメェらとーー」
「この近くのお食事処の甘味が美味しいと聞いたんですよ」
「オイ・・・人の話をーー」
「中でもおはぎが絶品で♪」
「!」
「(甘味にさほど興味はないし、不死川も不機嫌だからな)・・・俺は失礼すーー」
「鮭大根も美味しいとか〜」
「!」

好物を餌にそう言えば、先程のケンカ腰から掌を返したように両者の剣呑な空気は霧散した。

「ちっ、仕方ねぇ。付き合ってやる」
「(早く食べたい)・・・行くぞ」
「お前が仕切んじゃねェ!」
(「チョロ柱×2の出来上がり、と」)

自分を置いて颯爽と歩き出してしまう二人を追いかけながら、は笑いながら後を追った。
そして目的の食事処で食事を済ませ、三人は店を出た。

「はぁ〜、美味しかったですね」
「・・・ああ」
「ふん、まぁまぁだったなァ」

両側の一応満足しているセリフにはにっこりと笑みを返す。
と、が隣の羽織りを引いた。

「あ、冨岡さん」
「・・・どうした?」
「あそこにいるの、冨岡さんの鴉じゃないですか?
猫に狙われてますけど」
「!?」

少し離れた塀の上。
ヨボヨボの鴉に忍び足で猫がにじり寄っている。
それを見た義勇は慌てて走り出した。
それを見送れば隣から悪態が届く。

「けっ、落ち着きのねぇ奴だ」
「相変わらずのおじいちゃん鴉ですね」
『伝令!伝令!』

と、今度はの鴉が報せを届ける。
忙しないそれには仕方ないとばかりに小さく嘆息した。

「すみません、任務みたいなのでこれで失礼します」
「おぅ」

そう言って歩きかけたはピタリと足を止めた。

「あ」
「?」
「あの、不死川さん」
「なんだ?」

再び足を戻したは実弥に小さな包みを差し出した。

「これから任務なので、代わりに受け取ってください」
「あ?何だこりゃァ」
「手土産用のおはぎ詰め合わせです」
「!?」

目を見開く男にはふわりと笑う。
一緒に食事をしていて食べてなかったのは気付いてた。
だから会計間際に買っておいたのだ。

「さすがにコレを持って任務には行けませんから」
「・・・ちっ、仕方ねぇなァ」
「ご飯も一緒にお付き合いいただきありがとうございます」
「けっ、別にテメェなんかの為じゃねェ。
たまたま俺も飯を食おうと思ってただけだ、勘違いすんなァ」
「はーいv」
「笑うんじゃねェ」
「ふふ、失礼しました」
「とっとと行きやがれェ!」
「はい、行ってきます」

軽快には走り出す。
残滓なような甘い香りが逃げていく背中に実弥は口を開いた。

「おい
「?」

呼び止められたは不思議顔で振り返る。
言葉を探すようにしていた実弥はしばらくして目的の言葉を投げ返した。

「・・・気ぃ付けろォ」
「はい」

花のような笑顔と涼やかな声。
小柄な体は雑踏の中にあっという間に消えた。
そして手元にある渡された小包を見下ろす。
他の隊員に知られてないはずのソレ。
弾む心が表情に出ないように、実弥は小さく息を吐いた。

(「冨岡が戻る前に帰るかァ」)












































































































町外れまで来た。
そしてキョロキョロと辺りを見回せば、探し人から声がかかる。

「・・・用事は終わったか」
「はい、お待たせしました冨岡さん」

実は任務は嘘だ。
自分の鴉に町外れで落ち合うよう、義勇宛の伝言を頼んだだけ。

「・・・何故こんな面倒なことをした?」
「冨岡さんってば、もう少し会話する努力と観察眼磨いた方が良いですよ」
「・・・どういう意味だ?」
「折角の同い年同士じゃないですか。
わざわざ後ろ向きに距離を取るなんて、そんな態度じゃーー」
「俺は嫌われてない」

の言葉を遮るように義勇が口早く呟く。
それをぽかんと聞いていたは小さく吹き出した。

「ふふ、勘違いされちゃうって、言うつもりだったんですけど?」
「ぐっ」
「ま、口下手でも冨岡さんのフォローはしのぶさんがしてくれますからね」
「・・・何故ここで胡蝶が出てくる?」
「知りたいですか?」

企み顔で見上げてくるはとても楽しげに笑う。
どうしてかそれが、僅かにカンに障ったような気がした。

「・・・帰るぞ」
「怒りました?」
「・・・怒っていない」
「ならついでにそのお土産は蝶屋敷にお願いします」
「(どうして俺がわざわざそんな事をしなければならないのか理解に苦しむ)・・・ことーー」
「鮭大根、美味しかったでしょ?」

言外の圧。
義勇が取れる選択肢は決まっていた。

「・・・承知した」






























































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2020.06.03