任務帰り。
ばったり会った炎柱と近くの茶屋で一息入れ互いに世間話をしていた。

「山で見事な菫を見つけたのでな!
千寿郎に土産として渡したが大層喜んでくれた!」
「へー、それは良かったですね」

盛夏の時期に菫とは珍しい、任務は随分と北域の山だったのだろうか。
仄かな違和感はありながらも、嬉しそうに話す杏寿郎の話を聞きながら、時折声量を抑えるように口を挟みながらは湯呑みを傾けた。
























































































































ーー薔薇にトゲありーー

























































































































(「何だろう、急用って・・・」)

思い当たる事が特にない。
とは言え、文ではなく鴉で連絡してきたなら、それほど余裕がなかったということだろうか?
つらつらと考えながら、煉獄邸へと到着したは玄関先で足を止めた。

「ごめんくだーー」
「待っていたぞ !兎も角、入ってくれ!」

挨拶も終わらぬうちに腕を引かれたは半ば引き摺られるように屋敷へ上がる。
あまりにも彼らしからぬ様子に流石のも困惑した。

「ちょ、れ、煉獄さん!急用なのは分かりましたから、ひとまず落ち着いてください」
「うむ!分かっている!」
(「分かってない」)
「実は千寿郎が先日から体調を崩しているんだが、医者から原因が分からぬと言われてな!」
「はい?」
「その上、最近は父上もあまり顔色が良くないのだ!」
「は?・・・槇寿郎様もですか?」

元柱であるあの人が体調不良?
普通ならあり得ない。

「そう言うわけだ、頼まれてくれ!」
「・・・えーと」

ぐるんと振り返った杏寿郎の逞しい両腕から両肩に圧がのし掛かる。
私は医者ではないんですけど?
しのぶさんの方がよいのでは?
期待の眼差しが怖いです・・・
色々思ったが、ここまで来て何もしない訳にもいかない。

「まずは千寿郎くんの様子を診させてください。
話はそれからです」
「うむ、助かる!」

杏寿郎に連れられて千寿郎の寝かされた部屋へと案内された。
まだ眠っている千寿郎をは見下ろす。
顔色は良くない。
熱は無いようだが、脈が乱れているのが気になった。
と、色々身体に触れていたからか、千寿郎が気が付いたようなのではふわりと笑った。

「こんにちは、千寿郎くん」
「あ・・・」
「私が分かりますか?」
「ぁい・・・」
「良かったです。自分の名前、言えますか?」
「せ、じゅぉ、れす・・・」
「はい、ありがとうございます」

呂律が回っていない。
熱がないとなると、舌か口周りに麻痺が出ている。
自身の不自由さを一番痛感しているのだろう、涙ぐむ千寿郎の頬には手を当てた。

「安心して下さい。もう少し質問続けますね。
では、私の手を可能な限り力を込めて握ってください」
「っ・・・」
「はい。では次に千寿郎くんが不調だと思ってる場所、教えてください」

の指示に、千寿郎の手がゆっくりと辿る。
こちらの言葉は理解していることには千寿郎の様子を注視していく。

「胃、腹部・・・ふむ、腹痛とか気持ち悪いと思ってて良いですか?」

の問いに頷いた千寿郎。
それにしばし考え込んだは自分の後ろに控えている杏寿郎(『すんごく心配』と顔に書いてある)に振り返った。

「煉獄さん」
「む?」
「最近の千寿郎くんの食事量はいかがですか?」
「以前風邪をひいた時よりさらに食べれないようだ」
「食べれない・・・それは千寿郎くんが断ったからですか?」
「いや・・・食べるのもままならないという感じだった」

口周辺の麻痺。
四肢の麻痺の可能性。
食べるのもままならない。
消化器系の不調。
症状でだいたい原因は絞れるが原因の見当が・・・

「ちなみに、千寿郎くんが体調不良を訴えたのはいつからですか?」
「2週間ほど前になる」
「槇寿郎様は?」
「ここ2、3日だ」

食事が原因にしては症状の発症にこれほど差が出るのはおかしい。
と、は最後に杏寿郎と茶屋での違和感を思い出した。

「確か最後の任務は3週間前でしたね」
「ああ、そうだが・・・それがどうかしたか?」

不思議そうに首を傾げる杏寿郎に、部屋の中を見回したは立ち上がった。

「槇寿郎様の様子も診させていただきます」
?」

杏寿郎が呼び止める間もなく、記憶にある部屋へは足早に足を進める。

「失礼致します」

そして、断りを待たずに襖を開ける。
そこには突然の来訪者に驚きはしても、相手が分かった途端不機嫌顔を向けた。

「・・・貴様か、何の用だ?」
「・・・」

槇寿郎の言葉に返事を返さず、はただひた、と槇寿郎を見つめる。
それが癇に障ったのだろう。
手近にある酒瓶に槇寿郎は手を伸ばした。

「用がないならとっとと出て行け!」
ーーカランーー

しかし空になった酒瓶を槇寿郎は掴み損ね、畳の上を転がった。

「ちっ!」
「!失礼します」

その様子と、部屋に飾られた青紫の大きな菫の花。
それを見たは無断で部屋の中に入ると花瓶を手にした。

「おい!勝手に入ってーー」
「お花がだいぶ萎れてるようなので、お水を替えてきます。では」

颯爽と言い残して部屋を後にし、は訳が分からないという表情の杏寿郎を連れて廊下を歩く。

「煉獄さん、もしかしてこの花が茶屋で聞いた山で摘んできたという菫ですか?」
「そうだが?」

杏寿郎の言葉に、納得したという感じのは力強く頷いた。

「分かりました。
さて、千寿郎くんの手当てをしましょうか。
煉獄さん、いくつか買ってきていただきたいものがありますのでお願いできますか?」
「よし!任せておけ!」

厨に着きは杏寿郎に必要な品の書き付けを渡す。
即座に屋敷を出て行った杏寿郎を見送り、は長く息を吐いた。

「あー・・・何て伝えよう・・・」

側にある原因主を横目に、ひとまずは羽織りにそれを包み夕餉と病人食の支度を始めることにした。
数日後、千寿郎の体調は回復し以前のような明るい表情を見せていた。

「具合はどうですか?」
「はい、もうすっかり良くなりました」
「槇寿郎様も回復したようですし、何よりです」
「でも、一体何が原因だったんでしょう・・・」
「夏も終盤ですしね、疲れが出たところに悪い貝に当たったのかもしれません」
「あ・・・そう言えば食べました・・・」
「稀にそういう方も居ると聞きましたので、また体調が悪くなったら遠慮なく言って下さいね」
「はい、ありがとうございました」

部屋を出たは襖を閉めた。
そして、仏壇の効果音を背負っているような三角座りの男へ声を掛けた。

「いつまでそうされてるんですか?」

小声でそう言っても反応はない。
しかも隊服や羽織りに汚れがある。

「その様子ですと、任務を速攻終わらせてそのまま手当も受けずに戻られたんですね」
「・・・二人は?」
「もう大丈夫ですよ」

低い声に明るく返せば、やっと顔を上げた杏寿郎には隣に腰を下ろす。
そして見た目に酷い怪我には手当てを施していく。
その間も、暗い表情の杏寿郎には包帯を巻きながら続けた。

「大事にならなかったんですから、それで良いじゃないですか」
「・・・うむ」
「ただ花は今後、街場で買って下さい」
「そうしよう」





































































リアルにトリカブト見て思わず書いた



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2020.8.11