翌日。
市民街から市場へと続く道を下っていた時だ。
は顔馴染みの常連が立ち話をしている所へと出くわした。

「おはようございます。みんな揃ってどうかしたんですか?」
「よぉ、ちゃん。そっちこそ市民街に用だったのか?」
「ちょっと手紙を預かったのでお使いに行ってたんですよ。
それより、儲け話なら私も一口乗りますけど?」

軽口でおどけて返せば、回りは声を潜めた。

「儲け話なんかじゃねぇよ。ほれ、例の漆黒の翼がよ」
「どうかしたんですか?」
「いやな、そいつに騎士がやられたらしい」
「・・・そうなんですか?」

驚いたようには目を見張る。
その様子に周りの男達は口々に噂を語り、その情報を持って来たらしい男はさらに続けた。

「あぁ、なんでも上から下まで真っ黒な奴にヤられたんだと、間違いねえよ。
今、騎士団はそいつを追っかけ回してるらしい」
「それ、場所がどこか知ってますか?」
「北東部の廃墟群だって話しだが・・・騎士団は殺気立ってる、行かない方がいいぞ」
「そりゃそうですね、とばっちりはゴメンです」

へらっとは笑い、じゃまたと朗らかに挨拶を返す。
そして、男達から死角になった表情には、緊迫した面持ちとなり、すぐさま路地へと身を投じ、風のように駆け出した。


























































ーー昔話ーー




























































ーードンッーー
「ぐっ・・・」

勢いよく壁に叩きつけられた体はズルズルと地面に滑り落ちた。
もう、どれほど走ったか分からない足は、自身の重ささえ支えるのは無理だった。
荒い息遣いが鼓膜を覆うが、そこへ金属音を響かせた足音が近付いてくる。

「手こずらせてくれたな、漆黒の翼」
「連続殺人の容疑もある。これ以上抵抗すれば、命の保証はしないぞ」

剣先を突き付けられ、ウォルターは鋭い視線で睨み付ける。
だが、それしかできない。
逃走中に負わされた傷と疲労では、もうこれ以上、身体の自由は利かなかった。
近付いてくる足音に、これまでかと悔しげに拳を握った。

ーーガゴンッ!ーー
「だ、誰だ!?」
「相手がちがーう」

路地に響いた、凜とした声。
騎士達は必死に辺りを見回す。
ウォルターはハッとしたように見上げた。
高い崩れた壁の上に、漆黒の外套を纏った者が低い声で続けた。

「お宅らが探しているのは、連続殺人犯で目の前の不審者とは違うっつってんの」

その者の姿に見覚えのある一人の騎士、ユーリは目を見張った。

(「あいつ!」)
「こいつの仲間か!?」
「まとめて捕まえろ!」
「あーうるっさい、バカ騎士共。そんなに死に急ぎたいの?」
「何っ!?」

その一言だけで、騎士達はいきり立つ。
皆が腰の剣に手をかけるが、その者は余裕な態度を崩すことなく、騎士達から遠くに視線を向けた。
そこには大の大人の2倍の大きさがあるような、黒い塊。
そして、その前には大量の魔狼が姿を見せていた。

ーーグルルルルッーー
「そら、そちらのお探し人の登場よ」

魔物の耳障りな咆哮と同時に魔狼は一気に襲い掛かってきた。

「そんな!」
「結界の中だぞ!?」
「こんな所に、何故!」
「くそ!全員構えろ!」

思わぬ襲撃者に騎士達は各々に迎撃し始める。
もはや一人の人間に構っている余裕が無いことを見越したは、上からウォルターの元へと飛び降りた。

「ウォルター、無事?」
「遅ぇ・・・」
「勇み足の自業自得で、しょ!
ーーギャン!ーー

騎士の討ち損ねた魔狼を一刀の元に斬り捨てたは、ウォルターに肩を貸し、ひとまず騒ぎから距離を取る。
その間にも騎士達は魔物をどうにかしようと応戦していた。
だが、誰もが口々にあり得ない状況に浮き足立っているのが一目瞭然だった。

「駄弁ってる余裕があるなんて、優秀な騎士様だこと」

横目で魔物と対峙する騎士を見ながら、ウォルターの傷の深い箇所を固く縛り止血する。
だが、がテキパキと処置している間に、騎士はことごとく魔物に翻弄され、何人かは逃げ出している。
残った騎士達もすでに逃げ腰で勝負は見えていた。

「って、あらら。もうヤられてるし」
「・・・どうする、つもりだ?」
「それ、愚問でしょ?」

浅く息をつくウォルターに、は不敵に笑い返すと、双剣の柄を引き抜き走り出した。





































































目の前の現実が分からない。
どうして結界の中なのに魔物がいて、こちらを蹂躙しているんだ。
動きも素早いままに、仲間は次々と倒れていく。
そして、魔狼の奥にあった黒い塊が動いた。
まるで獲物を見つけたようにその魔物は嗤う。
得体の知れない嫌悪感に身が竦んだ。
と、突然。
眼前に迫った影が目の前を覆う。
恐怖に支配されている今では足は動かず、それを視界から締め出すしかできない。

「ひぃっ!」
ーーギィーーーーーンッ!!ーー

騎士に振り下ろされそうだった斬撃を、黒い外套が阻んだ。
耳障りな金属音が軋む。
暫く拮抗していたがは故意に力を抜き、力を斜めに逃がした。

ーードゴンッ!ーー

地面にめり込んだのは、騎士が使っている両刃剣。
そして、それを握っていた細い何かをは容赦無く叩き斬った。

ーーグギャァァァッ!!ーー

耳障りな絶叫を上げ、魔物は斬り落とされた尻尾の痛みから逃れるようにのたうち回った。
そして、敵意に満ちた瞳をこちらに向ける。
巨大な猿のような容姿。
だが、真っ黒な体毛に覆われ、背の後ろからは2本の短い尻尾のようなものが蠢く。
ーー狒々。
以前、蔵書で読んだ事がある魔物と特徴が似ている。
わざわざ人間の武器を扱う辺り、知能も高いとみえる。

(「にしても、結界の中でこうも自由に動けるのは、何か理由が・・・」)
ーーガアッ!ーー
「!」

いきなり跳躍した魔物は幹のような太い腕を振り下ろす。
それだけでも脅威だが、鋭い爪に引き裂かれば間違いなく命はない。
瓦礫の山の中、は器用にあちらこちらと軽快に回避行動を取る。
と、その時。

ーーグイッーー
「!」
「た、助けーー」

倒れた騎士が、の外套を掴み動きが止まった。
魔物は好機とばかりに躍り掛かる。
絶望に蒼白となる騎士に、悪態をついたは双剣を構えた。

ーードゴーーーーーンッ!!ーー
「リベリタス
!!」

土煙りが立ち上がる中、どうにか魔狼を退け駆け寄ってきたユーリが名を叫ぶ。
暫くして、土煙りの中の陰が動いた。
魔物か、とユーリは身構える。
土煙りが晴れたそこには、引き裂かれた外套を纏う人間の姿があった。

「ったく、最近の騎士の質は悪いわね」

呆れたように呟いたは見るも無残になった外套に、苛立つようにため息をついた。
そして、呆然とこちらを見つめている見覚えのある顔に向いた。

「生きてたようね、青年」
「お前・・・喋れたのかよ」
「喋れないなんて、明言したつもりはないけど?」
(「女・・・?」)

もはやただの布切れと化した外套をは脱ぎ捨てる。
陽光の下に現れたのは、自身に似通う紫がかった黒髪。
強い意思が宿る紫電の瞳。
口元を隠していたストールを下ろしたその顔は、一度目にした事があった。

「!おま、市場で会った!」
「そちらの聡すぎた勘違いに乗っからせてもらっただけよ、お気遣いお疲れ様」

小馬鹿にしたようにそれだけ言ったは、応急手当てを済ませていたウォルターへ治癒術を施す。
その間に、ユーリは同じ部隊の仲間を助け起こす。
幸いにも皆大事には至っていないようでユーリはほっとしたように一息つくと、の元へと近づいた。

「説明してくんねぇか」
「どうして私が?帝国の法の及ばない人間が説明してやる義理なんてないけど?
それに結果的に事件の解決手伝ってやったんだから、払うもん払ってもらいたいもんね」
「解決って・・・」
「ま、結果的にコレを釣り上げられたから良しだけどね。
これで私の仕事はおしまい」
「仕事?」

疑問符しか浮かべてないユーリに治癒術を終え、一つ息をついたは仕方なく事情を説明した。

「コレはさる貴族様が飼っていた魔物。
政権争いで落ちぶれた腹いせに、手近な人間を手当たり次第に襲わさせてた。
通り魔的な犯行のおかげで居処探るのに手間がかかったわ。
その被害者に、こちらの仲間が巻き添えを食ったの。
帝都から離れたはずの、ギルドの仲間が、ね」
「・・・」
「こいつで、漸く完了」
ーーキィーンーー

は手元のリングを弾くと、空中でしばし滞空したそれをパシッと掴む。

「さて、軽傷の青年騎士君。
こらから来る応援の上官にこいつを渡して貰える」

そう言ったは再び拳の中のリングをユーリに弾いた。
危なげなくそれを受け取ったユーリはまじまじとそれを見た。

「なんだよ、これ?」
「見た通りよ」
「・・・バカにしてんのか」
「貴族が見れば一目瞭然なリング。
そして、この魔物が結界の中で闊歩できてた原因」
「は?」
「じゃ、そゆ訳でよろしく」

ウォルターに肩を貸したはくるりと背を向けて歩きだす。
だが、まだよく事情を飲み込めていないユーリは慌てて呼び止める。

「ちょ、おい!待てって!
お前が渡せばいいだろ」
「あのね、この帝都でギルドの話を素直に聞く物好きがいる訳ないでしょ。
これ以上こっちの手間増やさないでよ」
「手間って・・・」

戸惑うユーリに、あーめんどくさいとは睨みつけ、荒々しく言い放つ。

「騎士団が後手後手に回ってたから、こっちが色々情報提供してやったのよ。
あろうことか、手掛かり探すこっちの姿を馬鹿な勘違いまでしてくれた訳だけど?」
「まさか・・・今までの情報は・・・」

ユーリの言葉に明確な答えは口にせず、は不満気に鼻を鳴らした。

「元はと言えば、あなたが所属してる上層機関の怠慢が招いた事件なんだから、最後くらいケツ持ーー」
「止まれ!」

突如響いた、新たな声。
応援部隊の指揮官らしい男は、辺りの惨状を目にし如何にもこの場を去る状態のこちらに向かって剣を抜いた。

「これは・・・くっ!その者を捕らえろ!
(「間の悪い・・・」)

いっそのこと、全員伸してしまおうか?
などど埒もない事を考えてしまう。
深々とため息を吐いたは、これから起こる事態を見越しウォルターに耳打ちした。

「ウォルター、走れる?」
「・・・あぁ」
「なら先に、帰り支度でもしてて」
「・・・悪い」

短い謝罪を口にしたウォルターの肩を押すと同時にその外套をは身に纏う。
よろよろと走り出すウォルターに、新たに登場した指揮官はすぐさま号令をかける。

「!逃すーー」
ーーズザザザザッ!ーー

しかし、後を追おうとする騎士の目の前を、剣圧で抉った地面が阻んだ

「・・・」

黒い外套は抜き身の剣を手にしたまま、空いた片手の人差し指を挑発するようにくいっと動かした。
それを見た騎士達は怒りを露わに、抜刀して襲いかかってきた。

「ちょっ!待てって!これはあいつじゃーー」
「ユーリ!無事か!」
「フレン、すぐに止めさせろ!」
「どういう事だい」
「あいつじゃねえ!このリング・・・じゃなくてだな、あそこに転がってる魔ーー」
ーードゴガーーーンッ!ーー

指揮官とユーリ、フレンの間を盛大に吹っ飛ばされた騎士が廃墟へと突っ込んだ。
部隊のことごとくを倒され、目標である黒い外套は無傷のまま。
屈辱的な目の前の光景に指揮官は気色ばむ。

「ぐっ・・・たった一人に何を手間取っている!
おい!そこのお前!ボサッとしてるな!手を貸せ!」
「いえ、しかし・・・」
「フレン!止めろ!」
「これは命令だ!!」

まるで追い詰められた獣のように指揮官は剣をフレンに突きつけた。
指揮官とユーリを交互に見るフレンは困惑しつつも立ち上がる。
目の前で繰り広げられる、見るに耐えない情けない光景には嘆息した。

(「ったく、とっとと諦めりゃいいのに面倒な・・・?」)

再び現れたのは年若い金糸の騎士。
は仕方なく双剣を構える。
これまで戦った騎士のレベルでは、自分の敵ではない。
だからと言って、手を抜くつもりもない。
まるで弱い者いじめだろうが、返り討ちだろうが、力量も測れない無能な指揮官が悪い。
しかし、近付いてくる騎士は今までの騎士とは違いその顔つきと態度は落ち着いているようだった。

(「さっきの黒髪君と同じ位の子ね」)
ーーギィーーーーーンッ!ーー
「!」

振るわれた一撃。
騎士の型通りのそれを難なく受け止められた。
が、的確かつ重さのある斬撃にの表情は引き締まった。

(「この子、他の奴らよりできる」)
「あなたの仕業じゃないんですよね?」
「?」

小声の呟き。
一瞬、聞き違いかと思ったが目の前騎士は真っ直ぐにこちらを見つめてちらりともう一人の年若い騎士に視線で示した。
そして、再び分かりやすい軌道の斬撃。

ーーガキィーーーンッ!ーー
「ユーリが持っていたあのリング、妙な術式が刻んでありました。
そしてあの紋章は貴族章の一つに見覚えがあります」

金糸の騎士の早口の言葉に、はストールの下で口端が上がった。
なんだ、分かってる奴も居るのか。

「君は理解が早い」
ーーギィーーーーーンッ!ーー

青年の耳元で囁やいたはフレン弾き飛ばし、体勢が崩れた所に回し蹴りを叩き込みさらに蹴り飛ばした。

ーードンッーー
「くっ!」

そして、距離ができた事で指揮官へと一気に距離を詰める。
突然、戦闘を止め迫ってきたに指揮官はようやく剣に手をかける。
遅すぎだ。

「ひっ!く、来るーー」
ーードッーー

指揮官の首筋に峰打ちすれば、男は簡単に昏倒し崩れ落ちた。
そして、双剣を鞘に収めたは片付いたとばかりに手をパンパンと払った。

「ったく、面倒が次から次へと。今日はトコトン厄日。
はぁ、やっぱり帝都の仕事なんて請けるんじゃなかった」
「あの、あなたは・・・」
「しかも話が通じるのは若者だけって、泣ける現実だわ」

がっくりと盛大に肩と首を落とし、はぁあと盛大にため息をついたはくりると180度回転し、2人の青年に向いた。

「さてと、真相のだいたいは黒髪君に話したし、リングの意味を金髪君は分かってるみたいだし、残りは任せるわ。
それじゃぁね」
「待てよ」

歩き出すを再びユーリが呼び止めた。
これ以上の厄介事はゴメンだと、うんざり顔では振り返る。

「なぁに?これ以上引き止めるなら腕尽くでノしてやるけど?」

本気な事を見せる様に、鍔を僅かに上げてみせる。
すると、ユーリは笑い返した。

「サンキューな」
「・・・」
「あと、オレはユーリだ。知ってんだろ?」
「私はフレン・シーフォです。事情はなんとなく分かりました。
こちらの勘違いとはいえ、いきなり斬りかかってしまい申し訳ありません」
(「・・・いや、それはこいつが挑発したからなんだけどな」)

何とも言えないユーリの横で、畏まったフレンが折り目正しく頭を下げる。
物事を正しく見据える者。
階級に囚われることなく、ただ住民の命を守る『騎士』の姿。
そう、まるでそれはかつての・・・

「・・・あんたらみたいなのが騎士団にいるなら、多少はマシなのかもね」
「ん?何だって?」

小声の呟きを聞き返すユーリに、は昏い影を追いやる様に首を振る。
そして、表情を隠していたフードを脱ぎ今まで見せなかった笑みを浮かべ返した。

よ。仕事で帝都にちょくちょく顔出す時はかち合わないことを祈ってて」

じゃあね、とは二人に背を向けて歩き出した。


































































「はい、これでお終い。
大した事なかったでしょ?」

長話の疲れを癒すように、長いため息をついたは、凝り固まった肩をほぐす様にぐるぐると回す。
しばらくして、呆けていたようなカロルが口を開いた。

「・・・って、そんな時から一人で騎士団相手に大立ち回りできてたんだね」
「今の話聞いて、突いくるポイントがどうしてそこ?」
「流石、ユーリの知り合いですね」
「・・・エステル、それ遠回しで失礼だから」
「ええ!?ご、ごめんなさい」
「お前も大概失礼だろ」
「要は類友ってことね」
「リタだって人の事言えた義理じゃないでしょ」

やいのやいのと盛り上がる。
そして、話は終わりだと皆をテントに追いやったは、見張りを始めた。

「・・・」

皆が寝静まったためか、先ほどと違い心地良い静寂が辺りを支配する。
ユーリ達と出会って5年。
そして、ギルドに身を寄せて10年の歳月が流れた。
時は移ろっても、未だに帝国に対する確執は根深い。
この旅の終着点がどこになるとしても、私は己の信念のままに、亡き友人との約束を胸に歩いて行こう。

「ほい」
「!」

突然、視界に飛び込んできたカップに驚きは勢いよく振り返った。
そこにはこちらも驚き顔のレイヴンがこちらを見つめていた。

「・・・び、びっくりした」
「そりゃ、こっちのセリフだわよ。
若人がおっさんの心臓に悪い事しないの」
「はいはい」

妙に跳ね上がった鼓動を宥めるようには差し出されたカップのハーブティーを流し込む。
どうやら気付かないうちに随分長い事考え込んでいたようだ。
魔物の襲撃が無かったのは幸いだ。
などど、つらつら考えていたの対面、焚き火を挟むように腰を下ろしたレイヴンがにやけ顔で話し出した。

「長話お疲れさんだったわね」
「・・・どの口が言う訳?」
「ありゃ、もしかして不機嫌?」
「さぁ?どうかしら?」
「怖いから笑顔で凄まないでよ・・・」

ひくりと顔を引攣らせるレイヴンにはふん、と鼻を鳴らす。

「つまんない話ししたわ」
「んな事ないでしょ。嬢ちゃんや少年は面白そうに聞いてたじゃない」
「・・・不足してる」
「おっさんも楽しかったです」
「どこがよ、ったく・・・」

不機嫌さを増して、は先ほどの長話を思い返す。
あれのどこに楽しい要素があったのか、皆目謎だ。
貴族のとばっちりに巻き込まれただけの傍迷惑な話。
騎士団がもっと使い物になっていれば、わざわざこちらが出向くこともなかった。

がウォルターの為に奔走してた話し、本人から聞けたしね」
「は?」

今なんと言った?
固まるにレイヴンはにやりと笑って返した。

「飲んだ時にべた褒めしてた」
「・・・酔い潰した相手の話し聞いて真相知りたいなんて酔狂ね。
ってか、褒めるなら本人を目の前にして褒めろっての」
「そこ!?」
「てか、ウォルターの為じゃなくてドンに言われたから仕事しただけだし」
「ウォルター玉砕!」
「妻帯者でしょうに」

馬鹿馬鹿しいとばかりに、はカップの中身を一気に流し込んだ。
これ以上、昔の話でからかわれるのはあまり気分が良くない。
さっさと寝るに限るとは立ち上がった。

「じゃ、後は任せーー」
「1つ質問」
「却下」
酷っ!ちょっとだけだってば〜」
「気色悪い声だから余計聞きたくない」
「俺が同じ立場だったら、はどうした?」
「・・・はぁ」

なんだってこうなんだ?
たまにこういう、当たり前の問いをしてくる。
普段は白々しいほどの軽薄さを見せ、そのくせその瞳には何か縋るような。

「・・・」











































































・・・それは昔、どこかで・・・

















































































ーースコーーーンッ!ーー
「んがっ!」

殺人的スピードで眉間にカップが直撃したレイヴンは痛みに悶えた。
それを冷ややかに見下ろしていたは、くるりと踵を返しす。

「馬っ鹿じゃないの。そんなの動くに決まってんでしょ」

じゃ、おやすみ、とはユーリ達が休むテントへと歩き出す。
疼いたのは心の奥底に沈めたはずの傷。
それを振り払ったら、手からカップがすっぽ抜けた。
直撃したのはご愛嬌だ。
あんな、くだらない質問したあいつが悪い。











まったく、これだから昔の話はロクなことを思い出さない。



TOAに移りたいのに、なかなかTOV卒業できないw
早く絵も描きたい。。。


2017.10.15
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