エステルを取り戻したその夜。
一行は思い思いの場所で明日に備えて時間を過ごしていた。
(「はぁ、やっぱり息が詰まる・・・」)
その中に含まれているはずのは、城の中から逃れるようにふらりと城の外へと歩き出した。
ーー心からの返礼ーー
城門を抜けると、ちょうど騎士に指示を終えたフレンが他の騎士と一緒に移動していくところだった。
どうやら町の見回りに出るらしい。
相変わらず仕事熱心な事だ、と独りごちたは暗くなり始めた空を見上げた。
と、
「む、お前は・・・」
かけられた声に視線を下げてみれば、一人の騎士がこちらに怪訝な顔を向けていた。
ユーリとの付き合いがあってから、この顔には覚えがある。
「これはこれは小隊長殿。
お勤め御苦労様でございますな」
「・・・休んでいたのではないのかね」
「城の中は居心地が悪いので、ちょっと散歩です。
それとちょうど用事も済ませられそうでしたし」
「用事?」
疑問符を浮かべるルブランには階段を降りると、男の前に立つ。
そして、携えていた剣を手にし背後に回すと、もう片方の手を胸の前に掲げ、頭を下げた。
「!」
「ルブラン小隊長。
此度は我がギルドの同胞を・・・バクティオン神殿での窮地を救って下さり、心より感謝申し上げます」
一気に告げたは小さく息を吐くと、再び剣を元に戻す。
そして対峙している方を見れば、驚き固まっているルブランに首を傾げた。
「どうかしました?」
「お前・・・いや、君は何故その形式儀礼を知っているんだ?
その敬礼法はーー」
「皇帝が騎士に示す最も感謝をする形式、ですか?」
の悪戯っ子のようにニヤリと笑い返され、ルブランはむっとしたように表情を険しくする。
それを気にした風でもないはくるりと背を向けた。
「詮索無用です。
ギルドから騎士への礼、それだけのことです。
だからーー」
後ろ手に手を振り、はザーフィアス城へと戻り始めた。
最後に告げた言葉をもう一度胸の内で呟きながら。
「ーー本当にありがとう」
Back
2017.5.21