明星壱号を起動と同時に、四精霊が姿を現す。
そして、ウンディーネが、イフリートが、シルフが、ノームが四方向から光を放つ。
それがユーリ達の頭上で一つになると、辺りは目映い光に包まれた。
ーーNo.196 星喰みの最後ーー
頭上の光の渦に流星のような幾多もの軌跡、世界中の魔核が集まっていた。
意思を持ったかのように光の渦へと軌跡が集う。
ユーリ達が装備している武醒魔導器の魔核も、例外なく吸い込まれていく。
まるで、そこに太陽が光り輝いてるようだった。
「うおおお!」
明星壱号を空へと向けるユーリの叫び声に呼応するように、足下の術式が反応し、
四精霊を介した力が明星壱号へと収束されていく。
「本当に魔導器を捨てたというのか・・・」
未だに集まり続ける光の軌跡を目の当たりにしたデュークが呟く。
それに返答するかのように収束を終えた光が、星喰みに向かって一気に放たれた。
「ぬうううう!!」
放たれる力を支えるユーリの声が響く。
しかし空に取り付いたそれは、その攻撃を受けても何の反応も示さない。
予測を裏切られる目の前の状況に、焦りを隠せない声が響く。
「どういうこと?」
「まさか効いてないの!?」
とカロルの言葉にリタが反論する。
「そんなことない!ただあと少し・・・あと少し足りない!」
「そんな、ここまできて!」
「なんとかならんのか!?」
「お願い!」
懇願を視線に込めて空を見上げる。
しかしそこには先ほどと何も変わらない、光を呑み込むような闇が広がっているだけだった。
それを同じように見上げる者がいた。
先ほどまでユーリ達と激闘を繰り広げ、敗れ、立つことすら叶わなかったデューク。
その白銀は静かに立ち上がると、諦めることなく星喰みに対峙しているユーリ達を見た。
「始祖の隷長・・・精霊・・・人間・・・
エルシフルよ・・・・・・世界は変われるのか?・・・」
この場にいない友に問うた言葉。
いや、自分に言い聞かせた言葉かもしれない。
デュークは手にした宙の戒典を握りしめると、足を踏み出した。
精霊の力が渦を巻く光の中心で明星壱号を支えているユーリ。
だが、世界を覆っている災厄は先ほどからなんの動きも見せてはくれない。
(「くっ、だめか・・・」)
悔しげにギリッと奥歯を噛みしめる。
と、その時、身体にかかる負担が急に軽くなった。
続いて周りを取り巻く純白の光が更に勢いを増し、身体が浮き上がる感覚に包まれる。
それが止まった時、ユーリの隣にデュークが立っていた。
頭上には先ほどよりもっと近くなった星喰み、そしてその心臓とも言える核が見える。
協力してくれたデュークに、にっ、と笑みを向けると湖面のような静かな表情が返される。
それで十分だった。
自分達に力を貸してくれたデュークに嬉しさと感謝を胸に、ユーリは決然とした表情で明星壱号を振り上げる。
「おおお!」
宙の戒典によって放たれるだけだった精霊の力の光は姿を変えていた。
それは天の御使いが持つ純白の羽根。
穢れを浄化するその剣が星喰みに向け振り下ろされる。
ユーリやデュークを見上げる仲間も共に声を張り上げた。
「「「「「「「いっけぇ!!!!!!!」」」」」」」
「でりゃぁあああああ!!!」
光が災厄を切り裂いた。
切断された面を浸食するように闇が光の粒子へと変わる。
そして、タルカロンの塔の上空に光の雨が降り注いだ。
空を流れる流星群。
時刻は月や星が主役の刻限となっている。
だが、タルカロンが浮かぶその場所だけは真昼のように眩しい光で溢れていた。
世界各地へ解き放たれるほうき星を見上げた
は、ようやく実感できた感情を言葉にした。
「終わったのね・・・ねえ、もしかしてあの光って・・・」
「精霊・・・」
「あれ全部が!?すごい・・・」
「星喰みになっていた始祖の隷長が精霊に変わったんだ・・・」
「星喰みも世界の一部だった・・・そういうことね」
「綺麗・・・とても・・・」
エステル、カロル、リタ、レイヴン、ジュディスは世界一の光の舞台をただただ見上げていた。
対照的な色を持つ二つの背中もそれを見上げていた。
天上には自分達の存在を訴えるように、終わりなく光の軌跡が踊っている。
「・・・本当にこれで正しかったのか?」
空を見つめたまま白銀が隣に立つ青年に問うた。
間を置かず、すぐに返答が返される。
「さぁな。魔導器を失い、結界もなくなっちまった。
けど俺たちは選んじまったからな。生きる限りなんとかするさ」
「・・・強いのだな」
自分を見上げ、はっきりと言い切るユーリにデュークは視線を合わせ、呟いた。
それに肩を竦めたユーリは再び空を仰ぐ。
「なに、一人じゃないからな」
「・・・・・・」
微塵の不安もない横顔にデュークは返す言葉を見つけられなかった。
このまま留まる理由もないことで、踵を返して立ち去ろうとする。
と、
「デューク!」
呼び止められた声に足を止め、続きを待った白銀の背に約束が返された。
「またな」
「・・・・・・」
返事が返らずそのまま立ち去って行くデュークに苦笑したユーリは、自分を呼ぶ仲間に向かって歩き出した。
皆がユーリに駆け寄る中、離れていく背中に気付いた
は走り出した。
「ちょ・・・デューク、待って!」
やっとのことで
は白銀の袖を掴んだ。
掴まれたデュークは歩みを止め振り返ると、そこには苦しそうに肩で息をする女性が息を整えているところだった。
「はぁ、はぁ・・・
あー・・・もう、力使った後に、走るのは、厳しい・・・わ」
「
・・・」
「あ、年齢のせいじゃないわよ?私、まだ若――」
「何用だ?」
僅かに眉根を寄せたデュークが遮り、問う。
それに苦笑した
は掴んでいた袖を放すと、一つ息をつき、デュークと真っ直ぐ視線を合わせた。
「ありがとう。私達を信じてくれて」
「曲解するな。完全に信用したわけではない」
「ええ、分かってる・・・でも、ありがとう」
ふわりと柔らかい笑顔が向けられる。
10年前に戦場で見た、心からの笑顔を見た気がした。
だからだろうか、そのまま去ることを躊躇わせ、言葉が続く。
「・・・お前達の信念、見せてもらった。今回は準じよう。
・・・だが、再びこの世界を害するならば・・・」
「させない。私達の想い、願いはずっと引き継がせていくわ。
必ず・・・」
固い決意を宿した強い瞳。
昔とは違う、憎しみの暗い焔から希望という名の眩しい光を持った者の目。
「・・・ならば、私はそれを見守ろう・・・」
そう言い残した白銀は再び歩き出す。
しばらくその背中を見送っていた
は視線を剥がすと、まだ盛り上がっている
ユーリ達のところへ歩み寄った。
「さ・て・と。
頭の上の問題解決♪勝利バンザイ☆って余韻に浸るのは結構だけど、まだ足下の後片付けが残ってるわ」
「そうですね。忙しくなります!」
「あたしは手始めに精霊についてまとめないと・・・」
意気込むエステルとリタに最年長者から不満の声が上がる。
「えぇ〜、休みなしなんて。おっさんぐったり」
「逃げちゃだめだよレイヴン」
「逃げたらお仕置きね」
「ワンッ!」
三方向から逃げ道を絶たれたレイヴンは力なくうな垂れる。
その様子に辺りは笑い声に包まれた。
そんなやりとりを楽しげに見ていたユーリ。
そして、
「よし。帰ろうぜ、オレ達の世界へ!」
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2008.11.18