オルニオンを後にし、ユーリ達は空に浮かぶタルカロンの塔へと飛ぶ。
帝都を過ぎ、ハルルの街が見える頃にはその全形が現れた。
傘のような形をした塔の下には、イリキア大陸の半分を覆うほどの術式が徐々に大きさを増しながら広がっている。
その術式と塔の隙間を縫うようにユーリ達は塔の中へと侵入した。











































































ーーNo.192 超古代都市タルカロンーー





































































「すげえ、でかさだな」
「まさに天まで届けって感じだね」

塔の中へと降り立ち、吹き抜けとなっているそこを見上げたユーリとカロルが呟く。
ユーリ達が降り立ったそこは、首が痛くなるほど見上げてもその天井は薄闇に呑まれはっきりと見えなかった。
上から視線を剥がしたリタは回りをみやると難しい顔になる。

「こんなのがアスピオのそばに眠ってたなんて、いろんな意味でショックだわ」
「あの周りに展開しているのが、生命力を吸収する術式です?」

崩れかけた足場の先に見えた術式の一部を指したエステルにリタは頷いた。

「・・・そうみたいね。まずいわ、結構早く組み上がってきてる」
「あまり時間は残されていないってか」

厳しい表情を浮かべて呟いたレイヴン。
その隣に立ったカロルの顔に不安が影を落とす。

「ねえ、ボクらもやばいんじゃないの?」
「確かに全ての人間ということなら影響があってもおかしくないけど・・・」
「大丈夫、問題ないわ」

考え込むように腕を組んだジュディスに がきっぱりと断言した。
それに訝し気な視線が返ると、答えの代わりにユーリ達一人一人の体を包むように柔らかい光が灯る。
皆が驚いている中、エステルが口を開いた。

「精霊の力が・・・わたし達を包んでくれています」
「まぁ、あの術式の力より精霊の力が勝っている間は大丈夫でしょ」

の補足に一行は納得した。
と、ここに来るまでに見たこの塔の高さを思い至ったレイヴンはジュディスに振り返った。

「バウルに乗ってピューって天辺に行く訳にいかないの?」
「バウルに影響がないとしても、私達が耐えられないと思うわ」
「ええー」

期待した答えとそぐわない返答にレイヴンは嫌そうに声を上げる。
そんな最年長とは思えない行動に最年少組の一人であるリタの半眼が向けられる。

「あんた、塔登るのが嫌なんでしょ」
「あったりめぇよ!俺様を誰だと思ってんの」

即答で開き直ったレイヴンに皆が呆れ返る。
そんな仲間を代表してユーリがレイヴンの希望を両断した。

「おっさんには悪いが歩きで登るしかねぇな」
「とほほ・・・」

ガックリとレイヴンは肩を落とした。
それに慰めの言葉をかけることなく、 は表情を引き締めた。

「どんな罠があるか分からない。
油断せずにいきましょう」












































































目の前に現れる階段を一つ、さらに一つと登っていく。
魔物を倒しては登り、登っては襲ってきた魔物をまた倒す。
果てしなく続くのではないかというその繰り返しに、嫌気が差した本音が辺りに響いた。

「これっ、どこまで、登れば、いいのかな・・・」
「おっさんに、聞かないで、よ。
まったく、歩きってのが、つらいわよ、ね」
「無駄にしゃべってると、余計に体力消耗するわよ?」

先頭を歩く の呆れた声がカロルとレイヴンに投げられる。
へばった二人の視線の先には、息の乱れなどない が涼し気な表情で佇んでいた。

「ま、こう景色も変わらねえと変に疲れるよな」
「はい。でも気を紛らわせようと、歩きながら話せば消耗しますし・・・」
転送魔導器キネスブラスティアでも使えれば、話は別なんだけど・・・」
「この辺りには見当たらないし、罠がないとも言い切れないから使うのは危険ね」

立ち止まったユーリ、エステル、リタ、ジュディスがそれぞれ答える。
そんな仲間の声に振り返ることなく、 は相当な高さとなった景色に目を向けていた。
その横顔に僅かな憂いの影を見たユーリは、躊躇う事なく言い放った。

「何考えてんだ、
「別になーー」
「ここで が考えるなんて、あの御仁のことしかないでしょうよ」

を遮ったレイヴンが顎を撫でながら答える。
最年長者の言葉によって皆の視線が へと集中した。
それを迷惑そうに顔を顰めた は、原因主を睨め付ける。
が、それで周りの視線が外れることはなく、諦めたように深々と嘆息した。

「はぁ・・・考えもするわよ。
10年振りに会った戦友とこれからお茶会するんじゃなくて、剣を合わせるかもってんだから」
「それだけではないでしょう?
あなた、ずいぶん寂しそうな顔してたわよ」

ジュディスの鋭い指摘に は閉口するしかない。
しばらくして は目を瞑ると、小さく息をついた。

「・・・情けないわ、昔の事となると顔に出るなんて・・・
ここにエルシフルがいればって、思ってね。
そうすれば、デュークと争う必要は絶対なかったと思うから」

独白するような の呟きに、ユーリが眉根を寄せた。
その表情に気付いた はユーリよりも先に言葉を続ける。

「分かってるわよ、もうここにエルはいない。
あの戦争を共に戦い、勝利を分かち合って・・・私とデュークが聖核アパティアになった彼を看取ったんだから・・・
少しでも道が違っていたら、私はデュークと一緒にユーリ達と対決することになってたかもね」
「でも今 はボク達と一緒にいる。
デュークと違って人を滅ぼそうとはしてないよ!」

反論するようなカロルに、 は苦笑を浮かべた。

「そうね・・・私にはこんな風に変えてくれた人がいたからね」
「ドン・ホワイトホース、か」

レイヴンの指摘に は頷く。

「それにベリウスにも支えてもらった。
そして、エルから言われた言葉・・・彼の世界を愛する想い、抱いていた願い。
私にデュークが止められないなら、彼の言葉を思い出して踏みとどまって欲しい。
だから・・・」
「はい、一緒にデュークを止めましょう」

エステルの柔らかい微笑が に向く。
それに も微笑み返すと、話を打ち切ろうと進むべき道へ向き直った。

「さて、休憩はこれくらいで十分ね。行きましょう」

























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2008.10.22