闇を切り裂く光が昇る。
水平線に現れたそれは、ゆっくりとテルカ・リュミレースを照らしていく。
これから始まる長い一日を、世界の命運が決するこの日を祝すかのように空は晴れ渡った。
だが、蒼天の歪みは変わることはない。
その星を覆う災厄との決着・・・
過去の柵を断ち切り、未来を掴み取るために、今日、タルカロンの塔へと向かう。
ーーNo.191 出立ーー
街の広場の中心、魔導器の前に
は立っていた。
どうやら仲間の中で一番乗りに来たようで、まだ他のメンバーの姿は見えない。
と、こちらに向かって来るユーリの姿を捉えた
は片手を挙げた。
「絶好の乗り込み日和ね。星喰みが最期を迎えるにはもってこいだわ」
「気合い十分だな」
「まぁね〜。余裕ぶってる訳じゃないけど、負けるつもりはサラサラないもの」
言い終えた
はユーリの後ろから歩いてくる他の仲間の姿に気付いた。
それにユーリも振り返ると並んで先頭を歩いてきたエステルとカロルに言葉をかける。
「よく眠れたようだな」
「はい」
「もうぐっすり」
「最初に来た時とはダンチで快適なベッドだったわ」
いつもと違い、すっきりとした顔で顎を撫でたレイヴンにユーリも同意した。
「ああ、随分しっかりとした街になったからな」
「もうここは立派な街なのだから名前をつけないとね」
「それならうちの名付け係の出番ね」
ジュディスにリタが応じると、その係とは違う元気な声が上がった。
「はいはいはい!手作り丸太のーー」
ーードシュッ!ーー
続きはリタが落とした手刀の音に遮られた。
それを落とされたカロルは頭を押さえたまま口を尖らせる。
「ぶー」
「ええっと・・・雪解けの光って意味の、オルニオン、なんてどうです?」
「オルニオン・・・良い名前ですね」
新たに登場した人物にユーリ達は振り返った。
そこにはフレンを従えたヨーデルが新しい街の名前ににこやかな微笑を浮かべていた。
「殿下のお墨付きだ、決まりだな」
ユーリに嬉しそうにエステルは頷く。
そこへヨーデルの後ろにいたフレンがユーリに歩み寄った。
「いよいよだね」
「ああ、今度こそ本当の本当に最後の決戦だ」
「ウィチルとソディアはもう出発した。
必ず間に合わせるそうだ」
騎士団長の言葉に
は不敵に笑んだ。
「頼りにしてわよ」
「こっちもいつでも行ける。な?みんな」
ユーリに皆の力強い返事が返る。
「うん!」
「当然よ」
「ワン!」
「バウルも待機してるわ」
「あとは飛んでいくだけね」
「はい!」
世界の命運を握る8人を前にヨーデルは表情を引き締めると口を開いた。
「魔導器と精霊の件は、私達指導者は納得し、その後の方策を話し合いましたが、全ての人々がこの変化を受け入れるのには時間がかかると思います」
「そうですね・・・戸惑う人は大勢いるでしょう」
「でも、受け入れなければ新しい世界を生きていくことはできないわ」
ヨーデルとフレンに
の鋭い言葉が飛び、ユーリも首肯した。
「ああ、その通りだ」
ヨーデルはオルニオンに振り向く。
真新しい街並みを眺めた次期皇帝は決意を宿した声を発した。
「まずはここにいる人達から話してみます。
ただの野原から、このオルニオンという素晴らしい街を生み出した彼らなら・・・」
「ええ。きっと受け入れてくれるでしょう」
応じてくれたフレンと視線を交わしたヨーデルは再びユーリ達に向いた。
「エステリーゼ、それに皆さんも・・・どうか気をつけて」
フレンやヨーデルに見送られたユーリ達は、街の出口で振り返った。
視線の先には騎士やギルド員を集めた前で、今この世界が直面している現実を話しだしている次期皇帝とその後ろに控える騎士団長の姿があった。
普通に生活している人々にとって、受け入れるにはあまりにも突然で厳しすぎる現実。
反発が予想される中、それを収め、自国の民をそれから新たな世界へと導く先陣を切ることになる。
これから下す決断全てに、想像も及ばないほどの責任やプレッシャーが年若い皇帝の双肩に重くのしかかるだろう。
「大丈夫かしら」
「あいつらはオレ達を信じて送り出した。
オレ達も信じようぜ」
ジュディスの心配を払うようにユーリが応じる。そしていつまでも見守っている訳にはいかないと、
はフレン達に背を向け、気を取り直すように手を打った。
「さて、私達は私達の仕事をこなさないとね」
「だな。カロル、締めろ」
「うん。
みんな!絶対成功させるよ!凛々の明星、出発!」
「ええ」
「はい!」
「了解」
「おう」
「ワン!」
「ほいさ」
「任せて」
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2008.10.21